第24話 ガッツリ鷲掴み
「それでは、山崎センター長の説明の通り、私たちが普段どのようなトレーニングをしているかをお見せします。実は私たちも、ここにあるのと同じ測定器具で日々の状態をモニターしているだけで、特別な機材を使ったりしているわけではありません。論より証拠ではないですが、実際にお見せした方がわかりやすいですよね。では連打から始めましょうか。下田君からお願いします。」
オレはボタン連打測定器の前にすわって、測定を開始する。
タタタタタタタタ・・・
うおぉぉ。
隊員達から、ため息が漏れる。
ピッ。モニターに結果が表示される。
16回/秒
うぉぉぉ。
またしても隊員たちからため息がもれる。
「では次、柏木さん、お願いします。」
柏木さんがボタン連打測定する。
ピッ。モニターに結果が表示される。
16回/秒
はぁぁ。
やはりため息が漏れる。
「最後は私がやりますね。」
飛鳥馬さんが測定する。
ピッ。モニターに結果が表示される。
16回/秒
もう隊員達は、ため息も出せずに固まってしまっている。
「はい、今見て貰ったとおり、私たち独立小隊には基準がありまして、ボタン連射速度1秒間16連打、方向キー1秒間に4方向移動、ステアリングコントローラーではミリ単位のコントロールが出来るメンバーで構成されています。まず、ここです。色んなテクニックの前に、基礎が必要なんです。基礎がしっかりしていなければ、どんなテクニックも、ある程度以上は伸びません。ですから、地味ですが、基礎をしっかりとトレーニングしましょう。私たちだって、この基礎トレーニングを毎日やってますから。そして、皆さんの希望を壊してしまうかもしれませんが、この基準値に達するまでの裏技はありません。現に、ここに居る下田君はチームの一番新しいメンバーですが、チームに来たときには全国大会で優勝できるレベルでしたが、1秒間に11連打という記録でした。そして、毎日ずっと訓練して約3ヵ月で16連打になったんです。毎日黙々と連打をやり続けて、です。そしてもちろん、スピードだけじゃなく、完璧なタイミングコントロールが必要です。こちらも実際にお見せしますね。」
そう言うと、飛鳥馬さんはストリートファイティングでひたすらにジャンプを始めた。タタタタタ・・タタ、タ、タタッタ、タタタタタ。タ、タ、タタ。コントローラのボタンが押させる音がドラムがビートを刻むかのように、リズミカルに聞こえてくる。リズムには緩急がついて時に正確に、時に激しく続いている。
飛鳥馬さんが真剣な目をしている。手抜き無しでやってるのが良く解る。
キャラがジャンプを繰り返しているだけの練習風景なのに、全員が息を飲んでじっと見つけている。皆もプロのゲームプレーヤーとして、これが実は恐ろしいレベルで凄いことをしていることがわかっているのだろう。
そのまま約10分間、歌うようなジャンプのボタン音の響きが続いた。
「ふー。ここまでにしましょうか。」
飛鳥馬さんがジャンプを辞めた。額には汗がにじんでいる。
「えぇと、私たちに防戦要請が発令されて防衛線に参戦する場合、相手が撤収するまでこの状況が続くんです。私たちが最終防衛線であり、私たちが負けたら終わりっていうプレッシャーを乗り越えられるのは、結局は自分の力だけなんですね。」
飛鳥馬さん、言うときには良いこと言うんだな。隊員達の熱い目線を感じるよ。
「なぁんて、ちょっとカッコいいこと言いすぎちゃいましたが、結局の所、基礎力をあげないと、テクニックだけじゃダメってことなんですよね。だから、一緒に基礎練習しましょう。ぶっちゃけ、基礎練習って辛いですよ。私たちだって、この基礎訓練を毎日やるのイヤですからね。朝、研究所について、最初にボタン連打測定器で測定して、それが成績としてちゃんと報告されてるんですよ? 私はこの機械を見るのもイヤになってますよ。あはは」
ピーンと張りつめていた訓練室の空気が一気に緩んだ。
もう、隊員達の心をガッツリ鷲掴みって感じだ、もしかして、飛鳥馬さんって相当な人たらしなのかも・・
その後は、実際のトレーニングということで、隊員たちの目の前で、連打の練習を見せたり、隊員一人一人の練習を見て、肩に力が入りすぎてる、とか、この指の位置の方が無駄がない、とかアドバイスをして、わいわいがやがやと練習が続いた。
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