第22話 宴
「ええと、柏木さん、下田君、出張初日、お疲れ様でした。橋田さん、案内ありがとうございました。では、では、かんぱーい!」
飛鳥馬さんと柏木さんがビールのジョッキから口を離さない。ゴキュゴキュ喉が鳴る音が聞こえてる。橋田さんはレモンスライスが入った透明な飲みものを飲んでいる。レモンサワーかな?オレはコーラを一口のんだら、食べ物に全集中、と。
やっぱり最初はこれでしょ、ジンギスカン。
ラム肉の独特な香り、油てっかてかのモヤシとキャベツ、つけダレの絶妙な香り、もうジンギスカンの山の中に埋もれたい勢いだよ。さ、パクっとな。うっひゃー、うまい、馬鹿ウマ、美味い以外の語彙が出てこない位美味い!そしてコーラを一口。またジンギスカン、コーラ。もう永遠に続いて良いよ、このループ。
橋田さんが立ち上がった。両手に空ジョッキを持っている。げ、二人とももうジョッキ空けちゃったんだ、飛鳥馬さんが酒豪なのは知ってたけど、柏木さんも凄いんだな。
続いてホッケ。北海道のホッケって、東京で食べるてのと全然違う魚なんじゃないかってくらい大きくてホックホクで美味いんだな。大根おろしがピリッとしてて、また美味い。
橋田さんが、エプロン姿の隊員さんを連れて戻って来た。ん?ジョッキが4つ?
うわ、この人達2杯づつオーダーしたんだ。
届いたばかりのビールジョッキをまたしても半分くらい一気に飲んでしまった2人がようやくジンギスカンに箸をつけたらしく、柏木さんがまたしても興奮しているようだ。
「うわぁ、美味しい。やだこれ、止まらないー。ビールとベストマッチ。」
オレは夢だった皆でBBQを実践すべく、牛肉串BBQにかぶりつく。
噛むと肉汁がぶしゅー。肉って感じで硬くも無く柔らかくも無いちょうど良い感じの噛み応え、スパイスの効いたタレ。それをワイワイ盛り上がってる会場で皆と食べる、うーん最高。ビバ、この世界線。
スタートダッシュの飲み食いがひと段落して、ペースダウンして、ゆっくりを話をしながら食事モードに入ったころ、隊員さん達が入れ代わり立ち代わりオレ達のテーブルにやってきては、挨拶したり、乾杯したり、一緒に写真撮ったりが始まった。
オレはコーラなので、乾杯ではなく、一緒に写真撮ろうがメインだったけど、酒豪2人は、乾杯の度にガッツり飲んでるので、更に大人気になって乾杯行列が出来てしまっていた。
ようやく乾杯行列が無くなると、橋田さんが提案してきた。
「会場をひとまわりしてみませんか?」
ビールジョッキを手放さない2人と、橋田さんとオレは、デザートを出してるテントに向かった。
「今日のデザートはスイートポテトとメロンゼリーですね。隊員たちの雰囲気と似合わないかもしれないですが、体力仕事なので、皆甘いものにも目が無いんですよ。」
「わたし両方食べるー。でも他の物も食べたいから少しだけ欲しいな。」
おー、柏木さんは、辛党甘党両刀使いなんだ。
結局、飛鳥馬さん以外の3人が一口ぶんづつ、両方のデザートをもらって、食べながら次のテントへ向かう。
「あれ、酒樽ですね!」
飛鳥馬さんの日本酒レーダーが反応したようだ。
酒樽が置いてあるテントに入った。
「独立小隊のみなさん、おつかれさまです! 地酒と地焼酎、どうですか!」
「地酒下さい。」
「地酒お願いします。」
即答するチーム酒豪。もう誰もこの人達を止められないようだ。
2人が、酒樽から升に注うと、テントの皆さんが全員升酒を高く掲げた。
かんぱーい!
「くはぁ。美味いですね、これ。」
飛鳥馬さんの満面の笑み。
升酒を飲みほした飛鳥馬さんが地焼酎へ触手を伸ばした。
「その隣の地焼酎もらえますか?」
また全員で、かんぱーい。
「いやぁ、これも絶品だぁ。次は、その隣の地焼酎をお願いします。」
そして、また全員で、かんぱーい。
もう、元気で陽気な酔っ払いの祭典だ、飲めないオレでも見てるだけで、なんだか幸せになってくる。
酒が飲めないオレは、香ばしい醤油が焦げる香りが漂ってきている、隣のテントに行こうと酔っぱらいの楽園テントを出た。
「隣の焼きトウモロコシのテントですよね?私も行きます。」
橋田さんがついてきた。
「あれ?橋田さんは一緒に飲んでるんじゃなかったですか?」
「いいえ、私、運転手ですから、お酒飲んでないですよ。」
「あ、そう言えば・・。うわぁ、なんかすみません・・」
「いえ、元々、お酒は強いほうじゃなくって、乾杯位しかできないんで、運転担当すると飲まなくて良い理由ができて、便利なくらいなんですよ。」
「なるほど。じゃ、それは何ですか? レモンサワーだと思ってました。」
「あ、これは、地元のサイダーです。こっちでは、レモン入れるんですよ。」
しばらく2人で焼きトウモロコシを食べながらだべっていたら、突然大きな花火が打ちあがった。
ドドーン
そしてスピーカーから、広報の山根さんのアナウンスが流れた。
「諸君!歓迎BBQ大会、堪能できたかな?ちゃんと全力で楽しんだか?宴もたけなわではあるが、ここで大会終了!担当の諸君は、後片付けをよろしく頼む。それでは、最後の締めとして、もう一回、かんぱーい!」
かんぱーい!
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