第21話 開宴

 会場の本部テント脇にジープが止まる。ドアを開けると肉の焼ける香ばしい匂いがしてきた。醤油が焦げる匂いもする、炭火の匂いも、そして味噌のような匂いもしてる。この食欲をそそるフルコンボみたいな匂いで肩から首のあたりがゾクゾクっと鳥肌が立ってしまった。胃のあたりもキューっと締まる感じがする。これはヤバイ、匂いだけでオレの身体を勝手に戦闘モードに切り替えてくるBBQ大会、これは相当手強いだな。


本部テントには基地司令が待っていた。

「いやぁ、デモンストレーション盛り上がりましたね。もう、あそこまで行ったら神業っていうんでしょうね。あれが生で見られただけでも今回のトレーニング派遣をお願いして良かったですよ。さ、みんなが待ってます、始めましょう、山根君、お願いします。」


「広報の山根です。こちらで開会の挨拶をお願いします。」

ザ、軍人さんというガッチリした体の山根さんに連れられて、基地司令とオレ達3人が特設のやぐらに上がった。


「諸君、お待たせ! 電脳研究所独立小隊の皆さんの歓迎BBQ大会を始めるぞ! おれはさっきのデモの興奮がまだ収まらない、凄かったな。こちらの皆さんが我が国の最終防衛線、鉄壁のディフェンス、電脳研究所独立小隊だー!」


うぉぉぉぉー。

広場が揺れるくらいの歓声があがった。


遊園地のヒーローショーかプロレスみたいなノリだけど、体育会系のノリって清々しい位気持ちが良いよね。


「では、一言ずつお願いしましょう。あ、歓迎BBQ大会なんで、堅苦しいのじゃなくて、元気なヤツでお願いします!」


もう、完全に止まらない体育会系のノリですな。


「最初のテリトスやりました下田です。さっきから美味しそうな匂いで、お腹がグーグー鳴ってます。早く食べたいですー!」


うぉぉぉぉー


柏木さんにマイクを渡すと、流石紅一点、既に会場は爆発寸前の熱気になった。

「2番目の電車でYOの柏木です。皆さん、ご一緒に! ほっかいどうはぁ!」


でっかいどー

うぉぉぉぉぉー


一瞬で全員を巻き込んでしまった。柏木さん、凄すぎる。


マイクが飛鳥馬さんに渡された。

「エスエスコンバットの飛鳥馬で・・・」


うぉぉぉぉー

神業―

すげー


もう、挨拶も聞こえない位、大騒ぎになってしまった。なんたって空自の皆さんなんだから、あんな凄い戦闘機デモ見せられたら、熱くなるよね。


こんなに大騒ぎなのに、マイクが山根さんに渡った瞬間、会場は、サーっと静かになった。見事な位に統率が取れてるんだな。


「さ、最後はお待ちかねの乾杯だ。山本基地司令、お願いします!」


「諸君、日々の任務ご苦労様。今宵は特別なお客様の歓迎会だ。全身全霊、全力で盛り上がってくれたまえ。では、カンパイ!」


かんぱーい。

うぉー。

だぁぁー。

よっしゃぁぁー。

ぐぉぉぉ。


もう、夜の動物園みたいになってきた。ま、実際に行ったことは無いんだけど、そんな感じって意味で。


オレ達は橋田さんと一緒にジンギスカンのテントへ向かった。


「お!皆さん、さ、どうぞどうぞこちらへ。」


ジンギスカン担当の隊員さんがジンギスカン鍋の近くのテーブルに案内してくれて、出来立てのジンギスカンを山盛りで持ってきてくれた。

「はい、まずはジンギスカン。他のテントの食べ物も持ってきますから、ここで待ってて下さいね。」


「皆さん、飲み物は何にしますか?生ビール、焼酎、日本酒、サワー、ウィスキー、ハイボール、ワイン、ソフトドリンク、大体何でもありますよ。」

飲み物担当の隊員さんなんだろう、エプロンをつけている。


「僕はビールが飲みたいです。」

「わたしもビールがいいです。」

「オレは未成年なんで、コーラでお願いします。」


「私も運ぶの手伝いますよ。」

橋田さんは、隊員さんと一緒に飲み物のテントへ歩いて行った。


別の隊員さんが、いかにもBBQって感じの串焼きの盛合わせを持った来てくれた。

「いやぁ、エスエスコンバット、最高っす。じぶん、泣いちゃいましよ。じぶんも、もっと練習するっす。あ、これは、牛肉串、こっちは豚肉串、で、これはホタテ串、こっちはとうもろこし。全部地元産なんでうまいっすよ。」


今度はじゃがバターが届けられた。

「お疲れ様です。独立小隊の噂が凄すぎて、実は単なる都市伝説なんじゃないかっていう噂も出てるくらいだったんですけど、本当に居たんですね。同じ防人として誇りに思います。これ、じゃがバターどうぞ。地元産のいもとバターなんで、醤油ちょっと垂らして食べると最高ですよ。」


立て続けに刺身の盛り合わせ、ホッケとサンマの焼き物、焼きガキ、イカの姿焼き、サラダ、焼きそば、焼鳥が届けられて、テーブルに乗り切らなくなり隣のテーブルもくっつけたのに、それでもテーブルの上が食べものでびっしりになってしまった。


橋田さんとエプロンの隊員さんが両手に飲み物を持って戻って来た。


「うわぁ、なんですか、この料理の量。こんなVIP待遇なゲストの皆さん初めてみ

ましたよ。大人気ですね、皆さん。」

橋田さんが笑いながら席に座った。

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