第20話 ジープに乗って
まだ興奮冷めやらぬ会場を出ると、時間は午後3時半ちょっと前だった。
「この後の予定ですが、夕方5時から歓迎BBQ大会の予定ですので、それまでの間、駐屯地内を簡単にご案内します。」
橋本さんとジープに乗り込む。
「では最初にまず、航空自衛隊の駐屯地ですので、メイン施設である飛行場へ向かいます。」
ジープは片側2車線の堂々とした真っすぐな道を走る。
「ここから見える一帯が飛行場です。共用空港ではなく空自専用施設ですので、ターミナルビルはありませんが、国内最大級の飛行場です。手前側が今朝皆さんが到着されたヘリポートと滑走路、そして管制塔です。滑走路の奥に見えるのが格納庫、エンジン試験場等の関連施設です。」
更に10分ほど程走ると、少し高台になっていて、大きな建物群が見えてきた。
「このエリアにはレーダー施設、通信施設等があります。」
ジープがそのまま高台を下っていくと柵に囲まれた一角が出てきた。
「あちらの柵の中で更に塀で囲まれた一帯が射撃練習場になります。右奥の建物は自家発電、変電所等の電源施設です。」
そこから5分ほど進んで、柵の一帯が終わった所には、大きな体育館があった。
「体育館です。中には柔道場、剣道場、バレーボールコート、バドミントンコート
もあります。ちなみに、うちの剣道部は昨年の全国大会で準優勝しています。」
体育館を通り過ぎたところには、柵で囲われて何かの的が並んでいる。
「こちらはアーチェリー場です。アーチェリー部は全国大会3位でした。体育館とアーチェリー場の裏側一帯が乗馬コースになっています。あ、ほら、あそこに馬が見えますよね。」
「ほんとだー。馬いるー。」
柏木さんが興奮している。
「あ・・ちょっと寄っていきますか?」
柏木さんの勢いにおされてしまった橋田さんがジープを乗馬コースへ向けた。
「あはは。僕らはビルの中で軟禁生活してるんで、動物にも植えてるんですよ。地下駐車場に居る野良猫に餌買ってやったりしちゃう位ですからね。」
飛鳥馬さんが笑ってる。え、飛鳥馬さんって駐車場の野良猫に餌やってるんだ。
乗馬コースの管理棟には犬も居て、柏木さんはキャーキャー言いながら戯れていた。
流石に乗馬自体は、また今度ということで、馬に触れただけだったが、飛鳥馬さんも柏木さんも満足そうな表情をしている。オレより長くプリズンに居るんだもんな、動物にも植えるよな、と納得してしまった。
ジープに戻った橋田さんが、時計を見ている。
「少し時間がおしてますので、残りは少しコースを変えて、遠くから車窓見学ということで進めていきますね。」
「あ、すみません、私のせいで寄り道させてしまって・・」
「いえいえ、全然問題ありませんよ。それより、私は生まれも育ちも、ここ北海道なので、街中のビルの中での生活なんか、耐えられないと思いますもん。皆さんの任務、本当に大変だろうと思います。」
ただ、オレの場合には元々引き籠り一歩手前だったのでプリズン生活は、そこまで苦じゃないし、訓練は面白くはないけど、ゲームだけで生活できてるこの世界は嫌いじゃないけどね、なんて思ったが、そういえば、元eスポーツの飛鳥馬さん以外の皆は前の世界線では何をしてたんだろう? 今の世界をどう思ってるんだろうと、ふと気になった。今度皆に聞いてみよう。
ジープが5分位走ると、ごっつい大きな建物が見えてきた。
「あの辺りが専用水道や、汚水処理などの水道関連施設です。普段は公共のライフラインを使ってますが、非常事態には駐屯地内で、電気、上下水道が賄えるようになってます。」
ジープは駐屯地の正面ゲートへ向かった。
「ここがメインゲートです。ゲートの外側、あの建物までが敷地になってます。で、あの建物は航空自衛隊展示館で、戦闘機も展示されていて、一般の方が見学できます。逆に皆さんは敷地内から出ないということでしたので、今回は・・」
「大丈夫ですよ、この生活、慣れてますから。それに、せっかく空自の基地に来てるんですから、展示機じゃなくて、現役の戦闘機を見学したいですよ、あはは。」
飛鳥馬さんが湿った雰囲気を一蹴してくれた。
「ゲートの左の建物はガソリンスタンドと車両の整備工場です。これで駐屯地内を大体ご案内できたと思いますので、BBQ会場のグラウンドへ向かいましょう。」
ジープは司令部庁舎へ戻る方向へ走る。司令部庁舎の前を左折すると、そこには見渡す限りの広場があった。
「こちらが目的地のグラウンドです。多目的グラウンド、陸上トラック、野球場、サッカー場、ラグビー場、テニスコートがあります。あそこのテントがたくさん設営されている所が多目的グラウンドで、今日のBBQ会場です。」
ジープはゆっくりと芝生の上をテント群の方へ向かって進んでいく。
こういう所にジープって似合うよな。
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