第18話 アスパラ
無骨なアパートが並んでいる。居住区画に入ったようだ。
「こちらが隊員宿舎です。基本的に独身隊員が住んでいて、結婚すると基地の外の官舎へ引っ越します。今回皆さんに使って頂くのは、一番奥の棟で、こちらの棟は幹部官舎でワンルームタイプのお部屋ですが、棟内に専用の食堂がありますので、滞在中は北海道の食を楽しんで頂けます。もちろん駐屯地内の食堂ですので、有名店のような料理は出来ませんが、北海道の食材を使った料理をお出しする予定です。」
「それは楽しみですね。僕たちは外出するのが少し面倒なので、基地内で楽しめることがあるのはとても助かります。特に研究所はビルの中なので、アウトドア―系に飢えてまして、この風を感じるだけでも嬉しいんですよ。」
飛鳥馬さんが目を細めながら答えた。
「それでしたら、ウチにはアーチェリー場、乗馬コースもありますので、もし興味があればご案内できますよ。」
「えー、乗馬? わたしやってみたい!」
柏木さんがノリノリだ。
幹部官舎に着くと、オレと飛鳥馬さんには1階の部屋、柏木さんには2階の部屋が準備されていた。荷物を解いて、少し休憩した後、12時から1階の食堂でランチタイムになった。
初日ランチのメニューは、十勝帯広豚丼、なめこ汁、アスパラグリーンサラダ、松前漬、ヨーグルト。橋田さんが言った通り、見事に北海道食材の料理が勢ぞろいしていた。
「このサラダ、見ただけで新鮮ってわかりますよねー。うわーアスパラが太い。絶対美味しいヤツですよ、これ。」
野菜好きの柏木さんの目がキラキラしている。
「アスパラはスープカレーに入れても美味しいんですよ。スープカレーのホクホクのじゃがいもがアスパラのパキッした食感をより引き立てるんです。人参も玉ねぎも甘いし、チキンはホロホロで、スープカレー、私の一押しです。確か、明日か明後日のランチで出ると思います。楽しみにしててくださいね。」
なるほど、橋田さんはスープカレー押しなんだな。
いただきます!
「うっわ、この松前漬美味いなー。昆布とスルメ、噛めば噛むほど味が溢れ出てくる。あー日本酒が欲しい、いや北海道なんでシソ焼酎か。いや、生ビールでもあうよ、これ。」
チームで一番の酒豪、飛鳥馬さんが松前漬を食べて唸っている。
「アスパラ―!」
サラダのアスパラを食べている柏木さんが両手両足をバタバタさせて悶絶している。
オレは、初めて食べる本物の北海道豚丼の美味さにノックアウトされてしまった。無敵の豚肉の脂、ほっかほかでふっくらとしたご飯に濃厚なタレ。この旨さは悪魔の仕業に違いない。この絶対王者のような風格がある豚丼に一歩もひけをとらない、なめこがゴロゴロ入ったなめこ汁。しっかりと出汁の味がするのに塩辛いわけではなく、熱い汁で口の中の豚丼の脂が溶かされるような、すっきりする感覚。この組み合わせが絶妙すぎて、豚丼となめこ汁を最後まで一気に食べてしまった。研究所では少食な部類のオレなのに、この豚丼には人間のリミッターを破壊する何かが入っているに違いない。お次は柏木さんを悶絶させてしまっているアスパラを一口。緑の香りが鼻孔をくすぐり、噛むとパキッと口の中で弾けて野菜の旨味が口いっぱいに広がった。うわー、これは確かに悶絶するわ。それにマヨネーズも濃厚だぞ。
「このアスパラ最高ですね。あと、マヨネーズも濃厚で美味いです。」
「あ、ウチのマヨネーズは自家製で、地鶏卵を使った特製マヨネーズなんですよ。」
「なるほどー。あ、だから少しつぶつぶがあるんですね、このマヨネーズ。」
「ピクルス、フルーツ、香草等のみじん切りが入った、少しタルタルソースに近いようなマヨネーズなんです。」
最後にヨーグルト。これも絶品。
「ヨーグルトは、近所の牧場で作ってるヨーグルトで、これも人気メニューなんですよ。同じ牧場の朝絞り牛乳は、あちらの冷蔵庫に置いてあります。これもゲストの皆さんに評判良いんですよ。持ってきましょうか?」
オレ達3人同時に大きく頷いた。
「お願いします!」
橋田さんは瓶牛乳を3本持って戻って来た。
牧場の瓶牛乳、アキバに行くと、必ず駅ビルの1階で牧場牛乳を飲んでたんだよな。この味、懐かしいなぁ。
「あー、美味しかったー。これはもう北海道の食材祭りよね、これだけ食べたらなんだか北海道旅行に来てる気分を味わえちゃうわね。」
「ん、いや、実際、今北海道来てるからね。」
ボケなのか天然なのか分からない柏木さんと、飛鳥馬さんの身も蓋もない正しいコメント、これはもはやチームのお約束のギャグって感じなんだろうか?
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