第17話 でっかい・・

 オレがついに秒間16連打が出来るようになったのが、それから約2か月後、ということは、研究員になってから、炎の地球ゴマを習得するまでに約3ヵ月かかったってことだな。人差し指の関節が一回り大きくなったオレは、やっとチームの一員になれた気がする、などと感慨にふけりながら研究室のカウチソファでコーヒーを飲んでいると、太田総務部長がやって来た。


「みんな、頑張ってる? さっき、測定室からデータが届いたぞ。下田君がついに秒間16連打に到達したようじゃないか。これで下田君も正式に電脳研究所独立小隊のメンバーとなった。おめでとう。」


え?測定室のデータって総務部へ送られてたんだ。なんだか嫌な感じだけど、まぁ、これが仕事で給料貰ってるんだからしょうがないか・・。


「ということで、独立部隊は3マンセルが2チーム組める状態になったということだね。よって、次の段階へ進もう。 飛鳥馬指導研究員、チーム編成案はどうなったかな?」

太田部長が続けた。


「ハイ、僕のチームが、僕、柏木さん、下田君。もう一チームは、チームリーダーが馬場さんで、島崎さん、本郷君の編成で考えてます。」


「なるほど、飛鳥馬チームと馬場チーム、あぁ、AチームとBチームだね、そうかそうか、あははは。」


強烈オヤジギャグを炸裂させた太田部長は、自分を見る研究員達の目が冷めたいことに気が付いたようで、軽く咳ばらいをした後で話を続けた。


「それでは早速来週から、2チームに分けた運用を始める。1チームがここで訓練と独立小隊としての待機、で、もう1チームは普通科連隊へ出向いて、彼らへトレーニングを実施するんだ。基本は1週間を単位として各部隊へ出向いてトレーニングを実施することになる。実はトレーニングの派遣依頼は多くの部隊から来てるんだが、まずは北海道エリアの部隊でのトレーニングを調整する予定だ。」


「おぉっ、遂に僕らがプリズン(外出許可の出ない研究所勤務を自虐的にそう呼んでいる)から解放されるんですね!」

本郷さんがリアクションした。


「そうだ、研究所を出られるぞ。 最初は北海道だから、広大な自然を堪能できるんじゃないか。 あ、ただ、部隊のある施設の敷地からは出られないけどな。」


「げ、やっぱりダメですか・・」


「そりゃそうだろ。だけど、北海道の部隊のある施設って広大だから、敷地の中だって相当気持ちが良いんだぞ。屋外バーベキューとかも出来るぞ。」


みんなで屋外バーベキュー、実は、リアル友達の居なかったオレの小さな夢だったんだ。いいなぁ、北海道でバーベキュー。


「早速だが、来週はAチームがトレーニング派遣を担当する。で、派遣先は今から調整するんで、決まったらまた伝えるよ。ま、心の準備だけしといてくれ。」


 月曜の朝、生まれて初めて憂鬱じゃない、目が覚めることがわくわくするような月曜の朝を迎えた。白衣姿の飛鳥馬チーム3人がエレベータで屋上にあがる。屋上のヘリポートには空自のヘリが待っていた。そう、今回の派遣先は航空自衛隊の部隊なのだ。


空自隊員から手渡されたヘルメットを被ってヘリに乗る。


ヘリのエンジン音が大きくなり、ブルッと大きく身震いするように振動すると、ふわっと屋上から離陸した。眼下にはお台場、そして東京の街が見える。


「ヘリコプターに乗るのも初めてだし、ヘリで東京上空なんて、別世界の出来事みたいですよね。」

柏木さんが顔を窓につけて、はしゃいでいる。


「ん、いや、実際、別世界だからね。」

飛鳥馬さんが身も蓋も無い、正しいコメントをぶっこんで来た。


途中、東北地方の基地で給油のために着陸し、遂に北海道南部の基地に到着した。


 ヘリを降りると、ショートヘアの女性自衛官が出迎えてくれた。

 「ご苦労様です。総務の橋田です。早速ですが、基地司令室までご案内させて頂きます。」


 ジープに乗り込み、司令部庁舎へ向かう。見渡す限りの大地、これが北の大地、北海道はでっか・・以下自粛。


 司令部庁舎は2階建てで高さは無いが、その代わりに大きい、広い。敷地が広大なので、高さで容積を稼ぐ必要が無いんだろうな。


 基地司令室に入ると、鮭を咥えた木彫りの熊とともに基地司令が出迎えてくれた。

「遠路はるばるご苦労様でした。独立小隊の実演が見られるという事で、基地の隊員たちは皆首を長くしてお待ちしてました。今回のトレーニングで、うちの隊員達のスコアが少しでも上がることを期待してます。」


「日々最前線で対応頂いている皆様の少しでもお役に立てるよう、精一杯務めさせて

頂きますので、本日から一週間、よろしくお願い致します。」

飛鳥馬さんの挨拶とともに、あまり慣れてないので不格好な敬礼をした。


「さ、まずは宿舎へご案内しましょう。今日のスケジュールは、午後に全部隊参加でデモンストレーションをして頂いて、そして夜は、これも全部隊参加での皆さんの歓迎BBQ大会です。明日以降のスケジュールは橋田3曹から案内させます。では、のちほど、デモンストレーション会場でお待ちしてます。橋田3曹、ご案内頼みましたよ。」


橋田3曹とともに、またジープに乗って居住区画まで移動する。


「どこへ行くにも車で移動なんですね。こちらの基地、広いですよね。ウチはビルの中なので、乗り物なんてエレベーターだけなんですよ。」

運転中の橋田3曹に話しかけてみた。


「えぇ。これが俗にいう、北海道はでっかいどー、ですよね。」


あ、やっぱりみんなこれ言うんだね。








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