第16話 ヒューヒューだよ
お台場の研究所へ戻る途中、リーダーっぽい感じのSPさんに話かけてみた。
「今日はありがとうございました。実はオレ、外出したの初めてなんですけど、いつもこんなに厳重な警備なんですか?」
「いえ、今日は直営店ですので、警備体制は最低レベルですよ。」
「直営店?ってなんですか?」
「あれ? 下田3尉?」
「あ、オレ軍籍はありますけど、基本は研究所の研究員なので、自衛隊関連のことはほとんど知らないんです。」
「なるほどですね。直営店とは、政府が所有している物件のことで、政府幹部や要人が利用する際に使う場所です。飲食店、ホテルのワンフロア、デパート、遊園地の一角なんかがあります。政府所有で、安全設備が施されていて、狙撃されない、警護しやすい、万一の際の脱出ルート等が整っています。運営自体は指定業者がやってるので、普通の店と見分けがつかないようになってますね。ちなみに、さっきのルフランに続く道は行き止まりの一本だけで、その道への入口の角には交番になっていて、店内と入口が見える場所に警護車両の駐車スペースがあるので、同伴警備の人数は最低限で済むのです。」
「えー。あそこが政府の店。それは驚きました。それにしても、これで最低レベルの警備体制って、そんなに危険が想定されてるんですか、オレ?」
「特別小隊の皆さんの重要度は核弾頭級ですから当然だと思いますよ。」
SPは表情も変えず、なに当たり前のこと聞いてるんだよって感じで素っ気なく答えた。
核弾頭・・・ 姉さん、事件です。オレ、実は歩く核弾頭だったみたいです。中二病を悪化させたみたいな感じで、今日からオレは、「不発の核弾頭、下田」って名乗ります・・。
いや、確かに研究所の施設も厳重な警備だし、相当ヤバイ立場なんだろうとは思ってたけど、軍人さんにしれっと核弾頭級って言われるレベルだとは思ってなかったな。
でも、考えてみれば、この国の最終防衛線を担当してるんだもんな。相手国からしたら、そこを狙うよな。ってことは、オレ、外で呑気にジェラート喰ってる場合じゃないのかな。そう考えたら急に怖くなってしまって、後ろの高機動車がちゃんとついて来てるか振り返って確認してしまった。
車がお台場、防衛省電脳競技研究所の警備ゲートを通過する。もう安全だ、ふっと肩の力が抜けるのがわかった。
部屋に戻ってソファでゴロゴロしていたらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
スマホを見ると、メッセージが着信していた。
「今日は御馳走様でした。おいしかったねー。」
あ、芦田さんからのメッセージ、これ、1時半のメッセージだ。。
「今日はありがとー。部屋帰ってきたら、なんか寝ちゃってた、ゴメン。」
「イタリアン食べて、シエスタですかー。優雅ですなー。わたしは菜々美達と買物中。この後、ファミレス行くけどシーフードドリアは食べないよー。じゃ。」
「あー、そろそろ晩飯の時間かぁ。何しようかな、まだお腹空いてないんだけど。じゃ、また。」
時計の針は18時過ぎを指している。昼飯食べて、昼寝してただけなんでちっともお腹は空いてないんだけど、何か準備しないといけな。でも、全然やる気がおきないなんで、地下のコンビニでなんか買ってきちゃおうかな。
ビルの地下には自衛隊生協とコンビニがある。自衛隊生協の方は、実用性重視というか、食品もミリ飯ちっくなものが多いが、コンビニは街中のコンビニと同じだ。
今のイメージは量より質って感じなので、コンビニにするかな。
軽くサンドイッチとか、いや、小さい弁当も良いか?と冷蔵ショーケースコーナーへ向かうと、島崎さんが居た。
「島崎さん、こんばんは。」
「あ、下田さん、お疲れ様ー。あれ?そういえば、今日は初めてのお使い、いや、外出じゃなかった?」
「初めてのお使いって、確かにそんな感じで、色んな所からカメラで撮られてた感じがしましたけど。わかりましたよ、島崎さんが言ってた気を使うとか、プライベート感が無いとかって意味がわかりましたよ。」
「でしょ? 折角外出てるのに、いまいち面白くないでしょ?」
「オレ達の中では、上尾動物園のパンダってことで決着しました。」
「あー、言えてる。皆に見られてる感ね。で、どうだったの?衆人環視の中でのデートは盛り上がった? あ、ちょっと座って話しない?」
島崎さんがイートインコーナーを指さした。
2人でイートインコーナーの背の高い椅子に座ると、島崎さんが興味津々といった感じで聞いて来た。
「で、どうだったのよ? どこ行ったんだっけ?」
「東銀座のルフランってイタリアンレストランに行ったんです。後で聞いたら、その店、直営店なんだそうです。」
「あー、直営店ね。無難な所を選んだねー。でも、政府VIPが使うところだから、食べ物とか美味しかったんじゃない?」
「そうそう、美味かったですよ。アクアパッツァは絶品でしたね。で、デザート終わった後に追加でジェラートまで食べちゃいましたよ。」
「アクアパッツァにジェラート? 見事な位に女子受け狙ったラインナップだねー。で、SPから隠れて彼女さんにキスしてきた?」
「はぁ? 彼女じゃないですって。クラスメートです。」
「はいはいはい。あのね、たとえクラスメートだとしても、異性と一対一で食事に行く時点で、単なるクラスメートじゃないのよね、これ女子のわたしが言ってるんだから、間違いないからね。いやぁ、異世界にきて早速彼女作るとか、下田さんって見かけによらずヒューヒューだね。」
姉さん、オレってヒューヒューらしいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます