第9話 下田3尉行きまーす

 車はお台場、防衛省電脳競技研究所に到着し、制服軍人が警備しているゲートを抜けて地下の車寄せで止まった。


車寄せが地下とは、相当厳重な警戒なんだな。


車寄せには白衣姿の男性と女性が待っている。


白衣姿の男性が車のドアを開けた。

「坂田さん、所長、お疲れ様でした。こちらが下田さんですね。私は研究所総務部長の太田です、よろしく。当面所内の施設に滞在することになるので、最初に宿泊施設へ案内しましょう。準備が出来たら私の部屋まで来てもらえるかな。林、案内と手伝いをたのむ。」


「初めまして、林です。私が案内します、こちらです。」

林さんに先導されてビルの中へ入る。


エレベーターに乗り込むと、林さんは35階のボタンを押した。


「宿泊施設は外部からの襲撃が難しい高層階を使ってますが、狙撃防止のため窓は遮光仕様になっているので、せっかくのお台場の景色は見えませんけどね。」


ニコっと笑う林さんはキュートだ。ここは夢に見た天国なのかも知れない。


部屋には、小さいながらも機能的にまとまったキッチンと大きなソファーが置かれたリビング、そしてベッドルームがあった。もちろん、バストイレ別。


かなり良い部屋なんだな。政府の職員ってこんなに待遇良いのかと林さんに聞いてみたが、研究所の職員だけがこのような待遇で、単に国防安全上の対策だそうだ。要するに外に出られないから、せめてちょっとでも良い部屋にしてやろうってことらしい。ま、引篭もりのオレにはピッタリかも。


備え付けの白衣に着替えて林さんと一緒に総務部へ行くと、太田さんが応接テーブルの上に大量の書類を揃えて待っていた。


入省誓約書、雇用契約書、秘密保持契約書、個人情報情報提供同意書、給与振込申請、年金申請、社会保険申請、研究所ID登録申請、宿泊施設利用申請等など。。デジタル社会でもこの辺の書類が手書きなのは変わらないんだな・・。


「契約書にも書かれているが簡単に説明すると、下田君は防衛省の特別職研究員になった。ただし、特別職研究員とは別に・・」


太田部長の説明を遮るかのように突然スピーカーから大音量で放送が流れて、室内で赤いパトライトが点灯し始めた。


「ブァー、ブァー、ブァー。至急、至急、ネット侵犯発生、第二防衛線が突破された。電脳研究所独立小隊へ防戦要請発令。繰り返す、ネット侵犯発生、第二防衛線が突破された。電脳研究所独立小隊へ防戦要請発令。」


「おっと。下田君はタイミングが良いのか悪いのか、実践で我々の活動を紹介できるな。さ、ついてきて。」


太田総務部長、林さんに続いてエレベーターに乗り込む。太田部長が説明を始めた。


「地下5階にある作戦室に向かうぞ。電脳研究所独立小隊とは、ここの研究所の作戦司令と研究員のことで研究員は現在、指導研究員1人を含めて5名、下田君が加わって6人になるね。研究員は普段は12階の研究室で訓練をしているが、防衛線が突破された時、緊急時など、普通科連隊で対応できない事案の際に今みたいに応援要請がかかって、作戦司令ともに配備されるんだ。」


地下5階、廊下の奥に作戦室と書かれた扉があった。林さんが顔認証でセキュリティを解除した。


部屋の中は壁一面ディスプレイに並んでいて、そのうち5枚のディスプレイでプレイ中のエスエスコンバット9が映し出されていた。なるほど、これがその5人ってことか。


中央に座っていた制服姿の男性がこちらへ向かってきた。


太田総務部長が敬礼した後、説明を始めた。


「水野2佐、こちら、本日付で着任した下田3尉です。」


え?3尉?オレは太田部長の顔を見た。


「あ、そうか。さっきは説明の途中だったか。下田君は特別職研究員だが、それだけではなく、有事の際には軍組織として活動するので、その際の組織統制上、3尉の階級が与えられている。3尉とは、簡単に言うと、作戦行動する際に隊長ができるポジションなんだ。普通科連隊と合同作戦の際に、チームリーダーとして行動することになる特別職研究員は、便宜的に3尉で着任ってことなんだよ。ちなみにオレは1尉、林くんは3曹だ。ま。研究所は特例組織なので平時は階級は名乗らないけどな。あと、施設内にはオレ達研究所職員以外に制服組が居て、水野司令もご覧の通り制服組だ。」


「よろしく、下田3尉。早速なんだが、エスエスコンバット9は出来るよな。独立小隊が少し押され気味なんだ。なにせいくら特殊能力部隊とは言っても、相手がC国なのでこの人数じゃ厳しい。参戦してくれないか。」


えぇぇぇ? オレがいきなり国防の最終防衛ラインに参戦?


「あ、下田君、水野作戦司令は優しく言ってるけど、今は作戦行動中で、上官命令だから拒否権無いんだけどね。」


太田部長、いや、太田1尉がニヤっと笑った。


うわ、自衛隊怖えぇぇ。


「あ、席は左端ね。」

水野作戦司令はそういうと、中央の席に戻ってインターカムを付けて何処かと連絡を始めた。


昨日からヤケクソの連続だけど、今が最大のヤケクソだ。もういい、何でも来い!


左端の席に座ってコントローラーを握った。

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