第10話 ゲームがお仕事

 オレは着実にプレイを進めていたが、作戦室のパトライトが消えると同時にゲームが強制終了してしまった。何だ?終わったのか?まさか負けたのか?


「よし、敵は撤収したぞ。終了だ。お疲れ!」


水野作戦司令の声が響いた。


撤収?そうか、これは戦争ではなく、元の世界でいうところの、国境侵犯してくる挑発行為ってことなんだな、ちょっかい出して、防戦されたら撤収って感じか。


プレイシートに座っていた人達が席を立って扉へ向かって行った。


「あ、飛鳥馬指導研究員、左端の席が今日着任の下田研究員だ、フォロー頼むぞ。」

太田部長が一番最後に席を立った男性の肩を叩いた。


「どうも、飛鳥馬です。下田君?よろしく。詳しい話は研究室で話そうか、ついて来てくれる?」


 研究室に入る。中にはプレイシートの他にも畳のスペース、カウチソファー、ビーズクッション、バランスボール、ランニングマシーンが雑多に置かれている。 なんなんだここは?


「みんな、ちょっと聞いて。彼が今日から研究員になった下田君。いろいろ教えてあげて。あ、下田君、ここのメンバーは全員、たぶん君と同じ世界線、というか、僕達からすると普通の世界、から何故かこの世界に来た人達だから安心して。」


「よろしくお願いします、下田です。」


「俺は馬場、よろしくー。」、「柏木です、どーもー。」、「うぃっすー、本郷っすー。」、「私は島崎、よろしくねー。」


軍とか研究所とか言っても、メンバーは普通の人達なんだな、とちょっとホッとした。


「あ、この部屋、良い感じでしょ。ずっとプレイしてると集中力切れちゃうから、リラックスできるように用意してもらったんだ。それでも、毎日一日中ずっとここでプレイしてるのは楽じゃないけどね。あ、飲み物とかお菓子はココね、もちろんフリーだよ。あ、そうだ、みんな、ちょっと休憩したら今回の参戦ミーティングしよっか。」


飛鳥馬さんがドリンクサーバーを指さしながら言った。


 メンバー達は畳に寝転ぶ、ランニングマシーンで走る、ソファでおしゃべりする、と各自見事にリラックス姿勢で過ごしていた。


「はいー、集合。」


飛鳥馬さんの掛け声で全員がミーティングテーブルに座った。


「じゃ、みんなの結果出しますね。」


大型モニタに棒線グラフが表示される。


あら? 明らかに一人だけ高得点と、みんなの半分以下の棒がある。高得点は、あぁ、飛鳥馬さん。で、半分以下って、オレかーい・・。


「みなさんの平均得点が5点程アップしてますね、引き続き頑張っていきましょう。で、下田君、詳細は聞かされてないんで知らないんだけど、多分この世界に来てゲームしたらぶっちぎりで勝ったでしょ? 僕達も良くわかってないんだけど、この世界って、ゲームで優劣つけるわりに、何故かみんなゲーム弱いんだよね。だから、僕達みたいな世界線から来た人はいきなりトップクラスのプレーヤーになっちゃうみたいなんだ。 だけど、ここ、国防の世界では、元の世界と同じようなもんだと思ってもらって良いよ。保安部の情報によると、各国の軍にも僕達と同じ世界線から来た人達が居るらしいんだ。だから、昔の世界の感覚だよね。僕は一応プロのeスポプレーヤーだったからこんな感じだけど、みんなは普通にゲームを楽しんでた人達なんで、この研究室で練習を積んで今のレベルになったんだ。だから君もこれから一緒に頑張って練習して行こう。」


オレが懸念したとおり、オレは単にゲーム三昧だっただけで、プロゲーマーでは無いのだから国防とか厳しいと思ったんだ・・。


「じゃ、ミーティング終わりー、解散ね。各自、自主練よろしくー。下田君は一緒に来てくれる?」


飛鳥馬さんとオレは研究室の奥の扉の中へ入った。


「下田君、ここは測定室で、目的は僕達の体力、反射力を調べて研究するためなんだけど、僕達自身も自分の反射力が見える化するんで、訓練内容を決めるのに便利なんだ。」


反射力の測定?ゲームするのに? オレがちょっと不思議な顔をしたことに気が付いたのか、飛鳥馬さんが続けた。


「たかがゲームするのに反射力の測定までするか?って思ったでしょ。普通みんな思うよね、僕だって思ったもん。でもさ、ここ、防衛省で、国防の要なんだ。皆必死でゲームしてるんだよね、遊びじゃなくて。だから、ゲームは遊びって感覚は切り替えた方が良いよ、これ、僕達の世界で言うと電脳戦、戦争だからね。まぁ、ぶっちゃけ、ここで訓練でゲームプレイしてもちっとも楽しくはないんだよね、だって仕事だから。」


話は理解できるけど、ゲーム、仕事、防衛、戦争がどうしても結びつかないんで腹落ちしない・・。


「ま、急にそんなこと言われたってピンと来ないよね。実際にやってみるしかないよ。まず、反射レベルで言うとね、僕達のチームは全員ボタン連射速度1秒間16連打、方向キー1秒間に4方向移動、ステアリングコントローラーではミリ単位のコントロールを達成してるんだ。これ、習得するまでひたすらボタン押し続けるんだよ。辛いよ、正直。」


「秒間16連射って、それ昭和のゲーム都市伝説だと思ってました、炎の地球ゴマ、とか。」


「実際可能なんだよね。で、相手国、まぁ主にC国なんだけど、向こうのプレーヤーも出来てるみたいなんだ。だから、僕達の業界では、これが標準スキルらしいね。」


むむぅ。遊ばないゲーム、謎かけみたいで難しいな・・。

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