第28話 おかしな奴

「さてそなた達、あの奥へ行きたいとのこと。奥には何もないはずだが」

 何とか威厳を出そうとするが、しっぽは膨らんでいる。


「ああフェンリルに、奥に行けばドラゴンが居るとのことで会いに行く」

 そう言うと、獣王の顔が変わる。


「何、倒すのか? わしも一緒にいくぞ」

「いや、話をしに行こうかと思いまして」

 そう言うと、きょとんとした顔になる。


「話し? ドラゴンと? 何でまた」

「弟が病気で。精霊種が住んでいる森に、奇跡の実というのがあるらしくて。それを食べれば、治るらしくて」

 その話を聞いて、王は目を丸くする。


「そうか。弟が病気。症状は?」

「自家性魔力中毒症と言うらしいです」

「なんと…… それは。残念だ」

 獣王国でも知られているようだ。

 病名を言った瞬間に、悲しそうな顔になる。


「もし、その実なり、治療法が分かれば教えてくれ。礼はする」

「分かりました。では、奥に行っても良いですね」

「ああ、良い。宰相あれを」

「はっ」

 宝石の付いたペンダントを貰った。


「これを持っていれば、王国内何処でも入れる。持っていけ」

「ありがとうございます」


 喜んで出ていく、アシュアス達を見送る。


「ヒト族は強いな」

 獣王はしみじみと宰相に告げる。


「そうですな。獣王ともあろう者が、まさか全員に負けて、泣きが入るとは。ぷっ。いやあ。楽しかった」

 アンティオコは、宰相パンチェレイモンを睨み付ける。


「おまえなあ。王が負けて嬉しいのか?」

 そう言って睨むが……


「もう、やめてくれぇー。いや、楽しかった」

 そう言って、天井に向けて手を伸ばす。


「もう、忘れろ」

「そうですな…… ぷっ」


 じりじりと、宰相に近付く獣王。

 合わせて逃げる宰相。


 それ以降、時たまじゃれ合う二人を、見かけるようになった。



「いやあ、山を越えた所って……」

 思わず稜線から、向こう側を見つめる。

 広がる絶景と、高い山々。


「此処で、五つめかしら?」

「そうだなあ。雪は降っているし、息はしにくいし」

「でもおかげで、体力は付いたわよ」

「そうだなあ」


 いま、さっき殴り倒したワイバーンで、食事をしている。


 スルメを粉にすると、お湯に入れるだけで、良いスープになることを発見。

 干物も、美味しかった。

「これ、作って売れば、皆が買うわよ」

「そうだな」

 帰りにでも、マリベルさんに言ってみよう。


 そして、まだ見渡す限り、険しい山々が続く。


 谷におり、また登る。


 そうして、もう三つほど山を越えると、谷が少し開けていた。


 そして、ドラゴンがわさわさしていた。


「沢山いるわね」

 種類に違いがあるようで、目の辺りに線が入っていて、赤だったり青だったり。

 ただ、そういう個体は少し小さい。


 色のない個体も居て、一廻り大きい。


「フェンリルの言っていた、じじいってどれかしら?」

 皆で見るが、当然分からない。


「聞いてみるか?」

 フェンリルには言葉が通じたから、通じるものだと安易に考えていた。


 山を降り出すと、雰囲気が変わる。


「ちょっと、雰囲気が変わったわよ」

 そう言って、リーポスが剣を抜く。


 当然、皆が身構える。


 そして、戦闘用に自身の気持ちを切り替える。


 谷全体に、気が充満する。


 するとドラゴン達は、近寄って来ず。遠巻きに飛び回る。

 ただゴアーとか、ギャアギャア言って飛び回るだけ。


「うーん。来ないな」

「話も、できなさそうよ」

 フィアも、少し警戒を緩める。


「話が出来ないなら、どうしようもないんじゃない?」

 アミルは少しお疲れで、投げやりになっている。


「適当に倒してみるか?」

 クノープまで、そんな事を言いだした。


「フェンリルに聞いたが、じじいって誰だぁ」

 ダメ元で聞いてみる。

 だぁ、だぁ、だぁ……

 こだまが、谷に響く。


 すると、奥に見えていたのは小山ではなく、ものすごく大きいドラゴンだったようだ。


 全長で、五十メートルは超えている。

「奴が言うなら、わしのことだろう。小さきものよ。何ようだ?」

 むっくりと、首が起き上がる。


「良かった。精霊種の住んでいる森を知らないか? 世界樹の守人とか呼ばれているそうですが」

「うん? 世果樹だと。あれは世界の守り。だれであれ、近づいてはならん」

「あーと、世界樹には用事がないんだ。奇跡の実が欲しくて」

 そう言った瞬間、谷の空気が張り詰める。


「奇跡の実というのは、世界樹の実のことだろうが?」

「「「えっ」」」

 全員驚く。

 その様子を見て、警戒が少し緩む。


「あれは、万能の霊薬にもなる。昔はそれで争いも起きた。それに実は、何百年に一度しか成らん。あきらめろ」

「それは出来ない。弟が病気なんだ。どうしても手に入れないと……」

「ふむ…… では、分けてもらえるか聞いてこよう。なければ諦めよ」


 そう言うと、巨体が静かに浮かび上がり、飛んで行く。

「あれ、翼は関係ないね。魔力の流れがすごい」


 それから、三日ほどして帰って来た。

 一人の、美人さんを連れて。


 その姿は、女神様がいれば、このような姿だろうと思える緑色の長い髪と、白いドレス。

 下着無し。

 切れ長の涼やかな目と、色々細い体。

 そして……


「お前達が、我々を探している者達か? 世界樹の実が欲しいだと。ふん。貴様らに何が出来る? 今、霊木様は力が衰え、死に瀕しておる」

「それは、見てみないと分からない。世界樹が普通の木と同じなら、水も栄養も必要だし」

「なに? 水と栄養? 霊木様は星その物。その流れを何とかしろというのか?」


 どうも、思っている木とは違う様だ。

「とりあえず見せて」

「うん? 見せろだと、何を見せれば良い?」

 そう言って、なぜか、ワンピースの裾を捲る。お姉さん。


「あっ。つんつるてん」

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