第21話 海は広いし、やべえ

 トヨースに到着をして、ギルドに報告のため、商人さんや『海竜の天敵』達と一緒に行く。

 ドラゴンキャットフィッシュの討伐と、橋の作製について報告しなければならない。


 だが、予想に反して、かなりすんなりと話が進む。

 橋の修繕費が意外と安く、金貨五枚だった。

 まあ、ちょろっと直しただけだからな。


 ドラゴンキャットフィッシュの討伐の方は、報奨金が積み上がり、金貨八枚という値段になっていた。

 普通なら倒すのが面倒でも、金額は金貨一枚程度だよとエデュさんが笑っていた。


 そして例のごとく、自分たちの昇級通知を持って船に乗り込む。

 食料や水は自前だそうなので、ある程度そろえる。


 エルレラ大陸の港町。アルトゥロまでは、この時期二週間程度だそうだ。

 魚を釣っても良いそうで、道具も買いそろえる。

 糸巻きに、糸。それに針。

 疑似餌と言って、針に色のついた糸が多数結んであった。

「こんなものに、食いつくんだってさ」

「猟師の人が、魚を捕まえるとき、ハエに似せた針を使っていたじゃ無い。きっとあれと一緒よ」

 リーポスに言われて思い出す。


「そういえば使っていたな。最初本物かと思って、アミルが逃げた奴」


 そんな事を言い合いながら、俺達は船に乗った。


 就航後。


「なに、橋が直っている? ああ、その事は伝えていただろう」

 怪訝そうな表情で、工事業者に回答をする。


「いえ、聞いていた簡易修理なんてとんでもない。ありゃ、馬車が百台乗っても大丈夫でさぁ」

 はっ? 何それ。


「だが、ものの数十分で直したと……」

「造ったのは、きっと大賢者クラスの魔法使いでしょう。とりあえず、調査費用に金貨一枚はいただきます。それじゃあ、あっしらはこれで。そうだ、両端が旧来の橋だったので、あれを同じように工事するのなら、金貨五百枚はください。それじゃ」


 目の前には、領主に出して貰った金貨。九十九枚が、積まれていた。


 金貨五百枚の仕事に、金貨五枚しか払っていない。

 トヨースギルドマスター、ユリミーラ=コーイケーは聞かなかったことにした。



 その頃、船の上でフィアが思い出す。

「盗賊の報奨金を、貰ってくるのを忘れた」

「そうだが、一年受け取り期間があるんだ。大丈夫だろう」

「大丈夫かなぁ?」


 今俺達は、魚を釣りながら、塩を作っていた。

 王国内では、決まりにより、勝手に塩を作ってはいけない。


 だが、船の上は、何処の国でもないと聞いたからだ。

「だからなあ、お嬢ちゃん」

 そんな事を言った男は、泳いで王国に帰ることになった。

 多分ね。


 船の航跡が残っていたから、急げば方向くらい分かっただろう。


「釣れる?」

「来ないな。もっと沖に出ないと、無理なのかもなぁ」

 探査を打つと、海全体が光る。

 この水の中に、生命体がびっしり居るようだ。

 だが、細かいものは無視して、見ると……


 魚はいる。

 だがその大きさは、底の方にいる奴は、十メートルや二十メートルを、平気で超えたものが泳いでいる。

「うわあっ。海ってやっべ」

 つい驚いて、子供の頃にあった口癖が出てしまった。

 色々なことに感動して、やばいを連発していた。

 フィアに、やばいよ君だと言われて、やめた記憶がある。


 そして、探査範囲内にものすごく大きなものが入り、魔法波に反応をした。

 そう、やべえ事態になった。


 そいつは、ゆっくりと浮上をして来る。

 大きさは三十メートル級。


 トカゲが大きくなったような形。

 アシュアスは知らなかったが、形はワニそっくりで、手足に水かきがついていた。

 オセアヌムゴニオフォリスと呼ばれるモンスター。


 そいつが、浮かび上がり、目だけを水面に出す。

 


 船は風を帆に受け、静かに進んでいる。


 だが、みーつけたとでも言うように、こちらに進んで来始める。


 探査を撃ったら、おびき寄せた。

 しばらく悩んだが、倒すことに決める。

「ごめんなぁ。誘って」

 自分が、興味本位で探査を撃たなければ…… 彼か彼女かは知らないが死んで貰おう。


 そう思って、魔法を準備し始めると、オセアヌムゴニオフォリスは、突然叫びながら空に舞い上がる。


「はっ?」

 その騒ぎに、他の人間達も気が付く。

 オセアヌムゴニオフォリスの腹には、肉食のクジラ系モンスター。スパームホエールが噛みつき、そのまま持ち上げていた。


 当然上がったものは落ちる。


 超巨大な波が起こり、こちらへやってくる。転覆の危険。

 颯爽と、登場をしたリーポスが剣戟を振るう。

 リーポスにしては、上手く波が切り裂かれ、船は難を逃れる。


「よし、リーポスお手柄…… あれ?」

 そう、リーポスはリーポスだった。

 予想通り海に落ちて、「足が届かないぃ」と叫びながら、剣がぶんぶん振られている。

 帆船だが、以外と船足は速い。


「仕方が無い」

 そう言って船縁ふなべりから飛び降りる。

 海面の寸前で風魔法を使い、ホバリング。

 足下を凍らせて、それをリーポスのところにまで一気に伸ばす。


 助けに行くが、剣が振られていて危険なので、腕ごと凍らせると、一気に引っこ抜く。

 そして引っ張り上げられ、閉じられていた目が開くと……

 目の前には、アシュアス。


「じぬがど、おぼったー」

 そう言って抱きつき、頭上にあった、腕の氷をアシュアスの脳天にぶつける。

「ぐわっ」

 意識外からの攻撃。


 かなり、クリティカルなヒット。

 アシュアスは、不覚にも一分程度意識を飛ばしてしまった。


「ほへっ」

 リーポスは、倒れていくアシュアスを素早く抱えると、周りを見回す。

 御礼。そう思いながら、アシュアスにキスをする。恋愛については奥手だが、ドキドキは分かる。

 リーポスは溺れて、鼻水や海水、その他が混ざり合いドロドロだったが、本人は気が付いていない。ただ、そのキスは、とてもしょっぱかった様だ。

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