第19話 昇級
「そうかい。それは心配だねえ。私の方でも聞いておこう。町の外からも、やって来る連中がいるからね。しかし、水の精霊様がそんな所にいるとは……」
エレオノールさんは、そう言いながら、不敵な笑みを浮かべる。
「ただ一緒にフェンリルが行ってくれたので、普通に洞へ入って、会えるかどうかは分かりませんよ」
そう言うと、うん? と言う顔になる。
「それは面倒だね。テレーゼに加護でも貰おうかと思ったんだが。まあ何とかしよう。じゃあ行ってきな」
バケツが並べられる。
「――テレーゼ行くよ」
芋の皮を剥いでいたが、いきなりそう言って連れ出される。
山に向けて。
「この滝だよねぇ」
「おかあさん、どうしたの? 魚でも獲るの?」
「いいや。捕るのは精霊さ」
そう言って滝壺のヘリを、滝に向けて歩き始める。
急傾斜の崖を、指一本分の段差を足がかりに一気に移動する。
テレーゼは、当然落水。
苔むし、滑りまくる壁面、歩けるはずが無い。
「仕方ないね。そのまま泳ぎな。鍛え方が足りなかったねぇ。あの村に預けておけば良かったかね」
やれやれと、滝の裏へ回り込む。
だが、洞がある様には見えない。
「ほう。幻術かい」
探査では無いが、独自の気配察知を使う。
「うーん。判らないが、この辺りかね」
おもむろに剣を抜き、崖を切る。
すると、何かがはじけるような音がして、幻術が解けた。
「こんな所に穴が」
「そうだね。いくよ」
びしょ濡れのテレーゼも、引っ張って行かれる。
ワンピースが濡れているが、一般的なコットン素材。水を吸って重いだけで透けるような事は無い。残念。
奥に入ると、外からの光は届かなくなるが、中から青い光が見え始めてくる。
「ほほう。これは居るね」
奥から、奇妙な圧がやって来る。
入り口の幻術を解いたことに、気が付いているのだろう。
奥の泉にたどり着く。
その泉は、水底で放射性物質が、臨界でも起こしているような光を発している。
「綺麗」
テレーゼは喜んでいるが、エレオノールは警戒する。
さっきから、鳥肌がすごい。
「精霊様。アシュアスに聞いたのだが、ここに住まわれているそうだね。うちの娘に加護をくれないかね。昨日、いや一昨日か。フェンリルと一緒に子供が来ただろう」
それを聞いた瞬間。
圧が消えた。
水の表面に目までが出てくる。
地味に怖い。
「あの者と関わりがある者か?」
「ああ」
「ならば教えなさい。あの者。王との関わりがあるだろう?」
「王?」
「そうだ。精霊王。我らを統べるもの」
それを聞いて、エレオノールは思い出す。
『破天の狂宴』と、付き合いのあった冒険者。チームが全滅し、命かからがら帰ってきた後。不思議な話をしていた事。
子供を産み落としたが、まるで、精気を取られた様になって死んでいた事。その時、どのくらいの時が流れたか知らないが、元気で赤子が泣いていたと。
その子は、魔力量が多く。サローヴァがいたく気に入り、引き取った事。
そう、大人の間では、知られた事実。
「良くは分からないが、母親はむごい姿で見つかったようだ。普通、子供を産んでもああはならない。何か関わりがあるのかもしれないね」
そう言うと、精霊はぬぼーっと出てくる。
「加護をあげよう。あの者が健やかに暮らせるよう助力なさい」
そう言うと、空中に水の球が浮き。その瞬間、二人の額にヒットする。
テレーゼは当然だが、エレオノールも反応が出来なかった。
「んがっ」
妙な声を上げて、見せてはいけない物を見せながら、引っくり返る。
だが、すぐにその効果は実感できた。
そして、得られた水系統の精霊魔法。
普通の魔法は不得意だったが、これは違う。
思えば発動できるし、洗浄に浄化。
「これは良い。ありがとうよ」
エレオノールはそう言うが、精霊は念を押してくる。
「あの者のこと。よろしく頼みましたよ」
そう言って、水中に没していく。
「貰うものを貰ったし帰るよ」
そう声をかけたら、テレーゼはもう使いこなし、服から蒸気が上がっていた。
「ふわあ。これ便利」
そうして精霊から加護をもらい、水魔法の極みといえる力を得て、二人は、もう一段料理が美味くなったようだ。
「料理は、素材と水が大事だね」
がははと、エレオノールは語ったとか。
水の精霊は黙して語らず。ただ、猿めとは思ったようだ。
そして、ワイバーン退治のおかげか、アシュアスたちは銀級に上がった。
まあ盗賊退治の一件もあったし、順当だろう。
そして……
「話は聞いてもみたが、この大陸にはいないのかもね。銀級になったのなら、別の大陸に行って見るかい」
「別の大陸ですか」
「ああ、ここから少し戻って、南に行くとトヨースという漁港がある。そこから船が出ている。小銭は稼いだんだろ?」
「ええ、意外とワイバーンが高値で売れたようでして。ええと」
「まあいい。早めに行動をして、早くその奇跡の実とやらを見つけな。かわいい弟の為にな」
そう言ってぐりぐりと、アシュアスの頭をなでる?
その頃。
「御父様。彼らのような友人を得るにはどうすればよろしいのでしょうか?」
「ふむ。難しいね。彼らは幼馴染み。利害のない友人はなかなか得られるものでは無い」
アシュアス達の姿を見て、メルカトアさんの娘リディアーヌも少し心が変わったようだ。
「彼らには、また護衛を頼むし、彼らに友人となってもらえるようにお願いをするかね」
「かれらは、下賎な者達では?」
それを聞いて、メルカトアさんは教育の失敗に気が付く。
「人に上下はない。外で大きな声では言えないが、国が管理をする上で作られた仕組みだ。そんな事で区別をすると損をするよ。それに、彼らはすぐに貴族位を得るだろう」
「貴族位を?」
「そうだ。手柄にもよるが、白金級になれば、騎士爵や、準男爵になる」
「そうなのですね」
メルカトアさんは、少し教育をやり直すことを決意する。
「えっ。もう居ない?」
「はい。彼らは、旅立ちました。遠い。そう遠い所へ……」
そう言いながら、珍しいことにイミティスは、悲しそうな目をする。
「そうですか……」
そして、メルカトアさんは盛大に誤解をした。
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