第14話 ビザッティの町

 あっという間に盗賊は退治され、話し合いの末。大量のオッサン達を貰ってしまった。


 合算で百二十人もの盗賊達を引きずり、馬車は山を下っていく。


 出発時に、なぜか、クリシュという女の子が、こっちへ付いてこようとして、仲間に引きずられていった。


 夕暮れの中。ドナドナされた盗賊達を、町の憲兵達に引き渡そうとしたが、人数が多すぎるので、もう一つ向こうの町まで連れて行けと言われた。

 当然、報告のために、憲兵が一人。付いて来るようだ。


 ザワつく町中が、落ち着きを取り戻し、静かになる時間。


 盗賊の仲間達は、当然やってくる。

 何せ、そこら中に居るのだから……


「ナニをやってんだ。お前達は」

 呆れた感じで、捕まっている盗賊達を見る男。


「いやいや。それは、お前だよ」

 背後から、不意に声がかかり紐を切ろうとした奴らは気絶させられ、盗賊達の列。その後ろに繋ぐ。

 それを繰り返し、朝までに十人ほど増えた。


 朝食代わりに水を飲ませていく。


「さて行くか」


 変に身なりの良いのが混ざっているが、盗賊ですと押し切った。


「おや、君は宿の番頭さん。なぜここで縛られているんだい?」

 新入りはやかましいから、猿ぐつわをしている。


「そいつも盗賊です。宿に泊まった客の情報を流して、峠で襲うタイミングを決めるようですね」

 それだけで、メルカトアさんは理解をしたようだ。

「なるほど。それは効率的だ」

 何か感心をしていた。情報は金だと、納得が出来たと後で教えてくれた。


 そうして、アングラの町を出て、ビザッティへと向かう。


 途中の休憩を取っていた村でも、五人ほど増えた。


 まるで、昔話で聞いた話のようだ。

 ハメールと言う男は、食べ物で村人を誘い。引き連れて向かった先は自領。

 領主だった男は一変し、村人達はそこで、飲まず食わずで働かされて、ひどい目に遭うと言う話だが。

 目先の欲に飛びつくと、痛い目に遭うという戒め。だが、言い得て妙だな。



 夕方にはたどり着き、役人に渡す。

 報償は、ギルド経由で渡されるようだ。

「帰りに寄っておくれ。報償の引き渡し期限は一年だからね」

「ギルド同士で、話が伝わるような道具でもあれば良いのに」

 アミルがそう言ったが、そんな便利な道具はないようだ。


 ビザッティの町は、窯で焼いた薄いパンに具材をのせ、トマトという野菜のソースをかけて、食べるのが名物だった。

 それは、四角く。三十センチ角で一枚が銀貨一枚もした。


 あと、麺と呼ばれる、小麦粉を練って細くしたもの。

 茹でた後、炒めたりスープに入れたりするようだ。

 野営用に便利だから、乾燥タイプを大量に購入をする。


 パンの方も、高いが買ってみる。


 上にのせるものが違うと、かなり味が違う。

 アミルやフィアと、お互いのものを少し交換していくつかの味を試す。


 それを見て、すでに食べてしまった、クノープとリーポスが買い足しに走る。


 わいわいと、相変わらず火を囲み、町の広場で野宿生活。


 そして、それを見つめる双眸が一つ。

 メルカトアさんの娘。リディアーヌ。


 初めての時は、石を投げていた。

 でも今回は違う。

 いつも、ヘラヘラしている皆が、真面目な顔をした時。

 非現実的な魔法が、いきなり何もない所に起こり。彼らの動きは、目で追えないくらい加速をされた。


 だけど、その動きは繊細で流れるような……


 それは、リディアーヌの目を釘付けにして、そう憧れてしまった。

 子供の頃から絵や器、そんなものに心を動かされることがあった。

 でも、人の動き。


 それは、美しくキラキラしていた。

 ううん。雷魔法のせいではないの。

 それは…… そう。


 例えば、モサモサジェロのような古代遺跡。


 ルーザンス時代の巨匠。トゥギャザー聖堂に納められている、ミケジャネが作ったとされるダンク像。

 像の意味は分からないけれど、何かを投げ下ろすような躍動感と、筋肉美に皆は感動をした。


 彼らは、それに近い。

 ――存在そのものが、奇跡であり芸術。


 多少、見方が変わったようだ。


 それのせいなのか、馬鹿なことをして喜び合っている姿が、少し羨ましく感じる。

『だけど、人の心は変わり。裏切るものよ』

 母さんが言った言葉。それが、頭の中でぐるぐるする。


「あんなに仲が良くても、裏切るのかしら?」


 人は、三ヶ月一緒に暮らすと愛情が湧くらしい。

 だけどそれは続かず、いがみ合い。別れることがある。

 だが、アシュアス達は、幼馴染み。


 特に彼らは、別の家で育った兄弟のようなもの。

 物心が付いた頃から、ずっとそばに居た。


 共に遊びという名の、鬼特訓を受けながら。

 チャンバラは、緊張感と重量に慣れろと真剣だし、川遊びは下半身強化と狩猟のかんを鍛えるため、必ず魚の手掴みから始まる。

 仲間内の鬼ごっこは、個人対多の戦闘訓練。


 狩猟は本格的で、罠の設置と獲物が残した痕跡を追う訓練。地形を見ながら追い込み。確実に捕らえる。

 むろん、その処理は当然の技術だし、探査と気配隠蔽。身体強化。覚えなければいけないことは山のようにあった。

 そして、それを行うには、賢くなければいけない。

 瞬時の計算なども教えられた。


 罠を張る時に使用する紐の長さ。

 川に橋を架けるには、歩数と角度で川幅を見る。崖を見れば、距離と角度でおおよその高さを求める。


 彼らは、お互いに、力を理解している。

 そして、剣技と魔法を二十四時間、両親からたたき込まれたアシュアスは、生きる非常識と皆が認めるくらい壊れ性能だ。

 

 ――そう彼らは、凶悪な両親達に鍛え上げられた、サバイバルを含めた超戦闘マシーン。

 全くもって、無自覚だが……

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