第7話 盗賊退治は計画的に。

 ガタガタと揺られて、街道を進んで行く。


 寝ているフィアとアミルを、クノープと手分けして、膝に抱えて眠らせる。

 リーポスは甘やかしすぎと文句を言っていたが、寝不足で怪我でもされたら困ってしまう。


 なぜか先に起きたフィアが、クノープに抱っこされた状態が判り、飛び起きる。

「ごめんなさい。クノープありがとう」

 そう言って御礼を言っていた。


「いや良いさ。フィアは軽いしな」

 クノープが気を使ったのか、そんなことを言う。


「そう」

 そんな感じで返事をするフィアと目が合う。

 気が付き、なんだか居心地悪そうに目をそらされる。


 そう、フィアはアシュアスに抱かれて眠っている夢を見ていた。

 心地よく体温を感じ、心拍も? 魔力が? あれ違う。

 アシュアスの魔力は、もっとこう温かく。優しく包み込む感じがするはず……

 目を開くと、居たのはクノープだよ。

 あわてて飛び起き、膝から出る。


 そして目の前には、本来私の席であるアシュアスの膝の上で、アミルが気持ちよさそうに寝ている。アミル…… 友人だけど殴りたいわ。

 そんな事を思って見ていると、アシュアスと目が合う。


 心を見透かされたような気がして、つい目をそらす。


 そして馬車は、盗賊達の出現エリアの端へとやって来た。


 ここからは、歩きで奴らを探す。

 見つけたら、笛を吹くこと、それと出来る人間は、位置を示すように魔法を打ち上げる。


 まあ何でも良いから、知らせろという事だな。

「音なんか出したら、逃げられるじゃない」

 リーポスが当然の疑問を、聞いてみる。

 

「ああ、ここから真っ直ぐ探していくから。各チームで、そんなに差は出ないだろう。音が聞こえれば、すぐに駆けつけるから大丈夫。それよりも君達は対応できるのかい」

 ああ、言っていた話だな。殺せるかという事。


「ええ。幾度か経験がありますし。大丈夫です」

「そうか、なら見ていなくても、単独で良いな。元々盗賊の規模にしては、こちらのメンバーが少ないんだ。どうしたって、結構エグいからギルドメンバーでも皆が嫌がってね」

 少し悲しそうな顔になる、シュレーターさん。


「大事な事なんですけれどね」

「そうだね。それじゃあ、行くよ」

 そう言って、ぞろぞろと、山側へ入って行く。


 入ってすぐに、皆で探査をする。


 谷を一つ挟んだ向こう側に、大人数が居るな。

「どうだ?」

「谷かな、その向こう側」

「俺もそう思う」

「そうだね」

「うん」

 皆の賛同が得られた。ただ問題は。


「街道側から回った方が早いな。皆が山から行くのなら、街道側へ逃げられると面倒じゃないか?」


 探査をすると、まだ近くに『安寧の守護者』と『双頭の騎士』。両チームが居る。

 ああは言ったが、試験だし、見てくれているのかもしれない。


 近い方の双頭の騎士、ルーラントさんに話をしに行く。

「ちょっと行ってくる」

「いってらぁ」

 真っ直ぐに、ルーラントさん達に近付く。

 あれこの人達、探査を撃っていない。警戒中か?


「あの、すみません」

 こちらに気が付き、警戒をするので声をかける。


「脅かしてすみません」

「いやいい。どうした。怖くて帰るなら却下だ。もう作戦は始まった」

「いいえ。探査をしたら、少し向こうに谷があるんですが、その対岸側に集落っぽい物があります。それで、あれが盗賊達なら、一チームくらい街道側から行かないと逃げるかと思いまして」

 そう聞いても反応が微妙。


「―― はっ? 探査?」

「ええ。探査。魔力をこう、ピコーンと広げる奴です」

「えっ。ちょっと待って、探査が使えるの? そんな遠くまで」

「ええ。全員で答え合わせをしたので、合っているはずです」

「全員?」

「ええ。全員」

 なぜか静かになった。


「おい、シルヴィ探してみてくれ」

「あっうん」

 なんだか、難しい顔をして手を広げる。

 あっ、出た。でも弱いし、収束がいまいち。

 もっと細くして、それで範囲内を走査しないと絵にならない。


 四角い紙だと考えると、横一列に、点々で返ってくる魔力の強弱を描いていく。

 それを、縦に少しずらして、横一列、横一列と降ろしていくと、点々で描かれた絵が出来上がる。

 その点が大きいと、無駄な魔力が必要だし、隣り合った物が塗りつぶされてしまう。


 母さんが、背後に立って言うんだ。

『駄目駄目ね。もっと細く高速に走査させるの。出来なければ、ご飯が食べられるのは一週間後かなぁ。途中ではお父さんとの剣術も、お稽古があるし大変ねえ』

 それ以前に、肩幅よりちょっと広めに足を開き、立っているのは大変なんだ。

 体術における足腰の鍛錬。


 僕たちは、遊びや練習の中で複合的に訓練をした。

 あれが訓練だとは、後で聞いたことだけれど。

『お父さんもお母さんも、あなたたちがかわいいの。怪我をしたり死んでしまったら辛いの。だから、目の届くところで、死なない程度に訓練をするのよ。分かった』

 そう言って、微笑みを浮かべると、一瞬で回り込んで背中にしがみつき、体重をかけられた。

 あの日は、本気で足腰が死んだ。


 そんな思い出を回想していると、シルヴィさんが何かを言い始める。

「谷はある。でも感じ五キロくらい先」

 そう言うと、なぜか皆が一斉にこっちを向く。


「そう、その谷…… さらに、向こう側です」

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