第8話 出会い

「あーまあ。分かった。俺達も街道側から回ろう」


「谷越えは面倒だしね」

 シルヴィさんが、笑いながらそんな事を言う。

「そうだな。あっいや」

 ルーラントさんが言い訳しているときに、口を挟む。


「すぐ近くに、安寧の守護者。シュレーターさん達がいるので伝えてきます」

 そう言って場を離れる。



「なあおい。全員が魔道士なのか?」

「それも、絶対私より上位よ」

 ルーラントさんとシルヴィさんが話し始める。


「だけど、腰に剣を下げているぞ」

 マリオンさんが、さっきの後ろ姿を見て思いだし、ついでにアシュアスたちの装備を思い出す。

 全員が一応剣は持っている。

 クノープは槍を使うが、短いのを一本吊っている。


「あー。全員吊っていたな」

 スウィフトさんも思いだしたようだ。

 マルガリーテが、ちょっと引きつりながら質問をしてくる。


「あの弓を持った子。フィアちゃんだっけ。あの子近接もするの?」

「それを言えば、魔法師って言っていた小さい子。なまえは、えーと」

「アミルちゃんね。彼女強いわよ。さっき馬車の中でも、起きてからずっと魔力循環をしていたけれど、漏れ出した魔力で少し干渉を受けたもの」


 眠気覚ましに遊んでいて、魔力のお漏らしをしたようだ。

 サローヴァにバレれば、しがみつかれて強制的に魔力注入をされるところだ。


「いいアミル。自分の魔力は、他人にとっては毒なの。わかるう」とか言いながら。

 強烈なので皮膚が火傷し、アシュアスの前で裸になって治療を受けた日々。

 それは、全員記憶がある。

 アシュアスはかなり小さい頃にやられ、お漏らしをしなくなった。

 ついでに、自身で治療が出来るようになった。おまけ付き。


 さて、アシュアスは安寧の守護者に対して、同じ事を繰り返し、説明をしてやっと戻ってくる。


「行きましょう」

「おう」


 すっかり座り込んでいた仲間達。

「おそーい」

「悪い。行こう」


 そうして街道側から回り込み、小さな橋を渡った向こうで、今まさに馬車が襲われていた。


「おら、ケチって弱い冒険者を雇うから、こんな事になるんだよ。勉強代だ。娘と有り金をおいていけ。ぐべっ」

 良い調子でしゃべっていた、盗賊の頭がはじける。


「なっ」


 言葉をしゃべらせる事も無く。盗賊達が死んでいく。

「なっ。これは一体」

 襲われていた商人さんが驚く。


 かなり距離は遠いが、石を投げたのはリーポス。

 過去の盗賊退治の時、自分も襲われそうになり、盗賊を見ると少しスイッチが入る。

「屑が」

 そう吐き捨てる。


 一緒に居るルーラントさん達も、呆然である。

 そこからは、少し小走りで、現場に向かう。


「大丈夫でしたか?」

「今のは、君達が?」

「ええ、まあ」

「いや、ありがとう。護衛の冒険者さんが怪我を負ってしまった」

 そう言われてみると、切り傷に矢傷、ぶん殴られた痕。


「治療しましょう」

 そう言って、いつもの様に無造作に矢を引き抜く。

「うぎゃああ」

 生意気にやじりに返しが付いていたか。

 さびもある。これは、浄化をしつつ治療だな。


 泣きわめく冒険者。

 痛みの大部分はアシュアスが、返しがある矢を抜いたから。返しは元々、刺さった矢が抜けないように作られている。肉が切り裂かれ、血が噴き出した。

「あっー。痛いですよね。うんうん。よく知ってます」

 叫び声など、当然だが無視。一応声はかける。


 よくやられたのは、『痛ければ手を上げて』。そう言っておいて、無視か叱られるか。

『はいはい。痛いね。そのくらい我慢しろや』

 ――子供時代の記憶。


 順に治療をする。


「ぐっはっ。お前達、早すぎ」

 やっと、ルーラントさん達が、追いついてきた。


「おっ。おまえら黄銅級の『自由への翼』。ガイ達じゃないか。護衛か」

「ルーラントさん。すみません。情けないところをお見せして」

「謝るのは、こっちじゃない。依頼主のほうだろう」

「あっ。はい。すみません」


「いや、まあ。助かったからいいが、君達、良ければ護衛をしてくれないかね」

「すみません。今丁度、盗賊退治の真っ最中でして。もう少しいけば、ギルドの馬車が駐まっています。そこまで行っていただければ、ヘルキニアまでは安全ですよ」

「おお、それは良かった」

 安堵をした顔になる商人さん。


「では、失礼します」


 そう言って別れ、山側へ入る。

「アシュアス君。どのくらいだ?」

「ここから、五百メートルくらい上です」


 緩い斜面の先に、少し切り立った崖があり、その上に集落が作られている。

 さっきから、見張りを射落とすのに忙しく、フィアが無言になっている。


 木の上に板を渡し、ロープを張り巡らして、移動をしているようだ。


 見張りに、俺達も石を投げる。



「君達、一体」

 ルーラントは驚き疲れていた。

 見えない茂った木の中。

 その中に隠れている者まで、正確に射貫いている。


 初めてなのに、正確に地形を判断して、高低差がある中を真っ直ぐ歩く。


 途中で、穴が掘られて廃棄された人間達の脇を行くが、顔色さえ変えない。

 一体どれだけの、修羅場をくぐったのか、想像が出来ない。


 やがて、先頭のアシュアス君が止まる。

 ことらへと向き直り、俺達に忠告をしてくる。


「今から戦闘に入ります。状態によりますが、各自で戦闘をこなしてください。それと使わないと思いますが、強い風が吹き出したら、このくらいより下へしゃがんでください」

 そう言って示したのは、一メートルくらい。


「分かった」

 その時、俺は忘れていたが、アミルちゃんが魔法を打ち上げる。

「あっ合図」


 その合図は高く上がったが、まだ谷向こうに居たチームからは、木の葉がじゃまをして見る事が出来なかった。

 だが、ドーンという破裂音が鳴り響く。


「なんだ?」

 そう思って、出遅れたチーム達は、何とか空が見えるところへ向かう。


「谷向こうだ……」

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