第5話 昇級試験前夜の事

「判りました。それで、宿は何処でしょうか?」

「あっそうですね。説明もするし、一緒に行きましょう。すぐ近くです」


 そう言って、ティナさんが案内をしてくれた。


 ギルドを出て、すぐの所を裏に回り込んだ、ひっそりとしたところ。

 町の入り口周辺は危険なため、土地が安い。

 大きなモンスターが来れば、ギルドを含めて破壊されるから。

 そんなことを、後日女将さんからきいた。


 元冒険者だった女将さん達が店を開き、その時に父さん達も絡んだ話があったようだ。


 ティナさんが説明をすると、女将さんが驚いていた。


 旦那さんは、数年前に町を襲ってきた、モンスターの氾濫で亡くなったようだ。


 たまにモンスターは、氾濫を起こす。

 ダンジョンだけではなく、ごく普通の森だが、魔力の濃度が高くなったりして、起こる事もあるようだ。


 町を囲む壁を高くすれば良いが、時間と金が掛かる。

 辺境の町にこそ、高い壁が必要そうだが、なかなか予算が無いようだ。


 その晩はゆっくりとして、女将さんから、顛末を聞いた。

 女将さんであるセヴラーヌさんと亡くなったダーナムさんは、仲間三人を依頼途中になくし、たまたま通り掛かった父さん達に助けられた。


 その後、話を聞いた父さん達は、面倒を見てやれと、クレッグさんに投げたようだ。


「懐かしいわねえ。お父さん達は元気?」

「ええ、この前もワイバーンが迷い込んで、おもちゃにして遊んでいました」

 山へ少し入ると、自然が豊か。

 そうすると、モンスター達も豊かである。


 よく、ハニービーを追いかけて、蜜を盗ったりして遊んだ。

「いい。アシュアス。盗むときに気が付かれると、居なくなっちゃうからね。魔力を体の周りに纏わせ気配遮断をするの。そして、全部は盗らず、必要な分だけを盗るのよ。たまに、デスベアとかが来ているときには、気配遮断をせずに一緒になって攻撃をするの。するとハニービーも、御礼に少しくらいなら分けてくれるようになるから。そうなれば儲けものよ」

 うーん懐かしいな。


 蜂蜜のきいた、クッキーを頂きながら思いだした。


 女の子達は、ミードを飲んでいるけれど大丈夫かな?

 ミードは、蜂蜜を酵母や花粉を混ぜて発酵させたお酒。うちでは五パーセントくらいのアルコールだった。


「うちのミードは改造をしたものだから、ガツンとくるだろう」

 そう言って、ニコニコしている女将さん。

 普通なら、十パーセントくらい? だったよな。


「甘いけれど、すっきりしてますね」

 少し赤くなりながら、フィアが聞いている。


「そうだろう。蒸留をしたアルコールをさらに添加してあるんだ。甘くて飲みくちはすっきりしているからね。女の子が飲むと、いきなり足が立たなくなるんだよ」

 そう言って女将さんが、こちらを見ながらにまにましている。


 その横で、リーポスが、かぱかぱと空けている。

 リーポスは酔うとおとなしくなって、甘えんぼになる。

 適当なところで止めよう。


「さて、ありがとうございました。冒険に出るときの注意点とか、また教えてください。明日は試験なので、おやすみなさい」

「そうかい。じゃあまた日を改めよう。試験は何の試験だい?」

「旅をしたいので、黄銅級です」

「そうかい。確かに黄銅級を持てば、町から町へそのまま行けるね」

 そこまで言って、旅の目的を思い出す。


「噂でも何でも良いのですが、精霊種のすむ森の話を知りませんか?」

「精霊種ねえ。この大陸には居ないかもしれないよ。人に見つからないように森全体に幻術をかけて居るとも言うし」

「そうですか。何かを聞いたら教えてください」

 そう御礼を言って、部屋へ行こうとするが、クノープが半分寝こけて、リーポスはふにゃふにゃしてる。


「カパカパ飲むから」

 二人を担ぎ、フィアとアミルをつれて、部屋がある二階へと上がる。

 部屋は隣同士で、男と女で別れる。二人と三人で少し女の子が窮屈だけど仕方が無い。


 クノープをいったん廊下へ転がして、リーポスを部屋の中へ連れて行く。


「寝ているからベッドを使わせるよ。良いかな」

「うーん。多分大丈夫」

 少し酔っているのか、フィアもヘラヘラしている。


 ベッドへリーポスを寝かせて、振り返るとフィアからお願いされる。

「ねえ。ちょっとぎゅっとして」

「ああ」

 ハグをして、一言言っておく。


「ありがとうな。弟のために皆を巻き込んで」

「んーん。それは良いのよ。一緒に旅をするのは楽しそうだし。それに皆アシュアスと離れたくなかったのよ」

「そうか。それでも。ありがとう」

「えへっ。お休み」

 そう言って、離れ際にキスをされた。


「えっ」

 挨拶のほっぺじゃなく口へ。

「お休みのキス。うちは家族でするの」

「へっ。あっそうなんだ」


 翌朝、皆が起きない。

 電撃を喰らわして、皆を起こす。


 椅子に座らせ、強制的に、朝食を口に詰め込む。

 そのまま、引きずっていく。

 目が覚めたのは、リーポスとクノープ。

 昨夜まともだった、フィアとアミルがなかなか目を覚まさない。

 担いでいく。


 あの後、フィアは舞い上がり、寝れなかった。

 家族のキスを口にするなど、当然嘘。

 そして、それを羨ましそうに見ていた、アミルだが、不意に何かに目覚める。


 お父さん達の睦み事。

 それを見てしまった記憶。

 それが急に蘇り、ドキドキが止まらなくなった。そして、アシュアス達に異性を感じ始める。そして眠る事が出来なかった。


 そう十五歳。丁度多感なお年頃。

 リーポスもまだ、愛とかそういうものには、はっきりと気が付かず。モヤモヤ状態。

 ただ、アシュアス達と一緒に居たい。

 触れ合いたい。

 そんな気持ちを持て余していた。


 村から出て、町で初めて迎える十五の夜だった。


 クノープは疲れていて、さらに、初めて薄めずにミードを飲んだので寝た。


 それも、女将さん特製の、四十パーセントミード。


 宿名物、レディキラーシリーズの一つ。

 他にも、生クリームがウォッカにフロートされた、ホワイトルシアンやオレンジジュースがステアされた、スクリュードライバーなどもレシピとして持っている。


 客から「彼女にあれを」と言われると、部屋の鍵とともに、この手の酒が提供される。

 意外とかみさんも凶悪な人だった。

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