第4話 暇つぶしのお遊び

「では、少しお待ちください」

 そう言って、ティナさんは身体強化をしたのだろう。一瞬で消えた。


「やっぱり、基本だって言っていたけれど、皆使えるんだな」

 父さん達に言われた言葉。『身体強化は基本だ。二十四時間使えるようにしておけ』だが、魔力で強化して、強引に動かすので生物的な限界はある。

 筋肉は切れ、骨は折れる。その限界を見極めるのは意外と難しい。


「でも、そこに転がっている、ええと」

 アミルが考え込む。


「漆黒の兵団?」

 何とか思い出す。


「そうそう。皆使っていなかったよね」

 アミルは魔力の流れを見るのが得意だから、見たのか?

 まあ動きを見れば、判断が出来るけど。


「それは試験だから、手を抜いたんだろ。元々低ランク用の試験みたいだったし」

 俺がそう言うと、皆が焦る。


「やば、普通にやっちまった」

 クノープがそう言ったのを皮切りに、皆が言い始める。

「私も」

「うん。やっちゃった」

「上位だって言うから、やったわよ。手を抜くなんて失礼じゃない」

 リーポスの言い分も、正解だな。


「怪我をさせないように、止めちゃったよ」

 つい言ってしまった。

「蹴って、とどめを刺す」

「こら駄目だって」

 走り始めるリーポスを、背後から羽交い締めにして止める。


「もう。せっかくなのに」

 なにがせっかくのか、判らないが、まあいい。


「ほらほら、離れて」

 フィアが、おれたち二人の間に割り込んでくる。


 そのまま待っていたが、ティナさんがなかなか帰ってこないので、皆でひさしぶりに椅子取り合戦をして遊ぶ。


「遊んでいて、いいのかね」

 クノープが珍しく真面目な事を言う。


「良いんじゃ無い。はい椅子」

 リーポスが訓練場の端から、椅子を抱えてくる。


「そんじゃあ、やるか。ルールは?」

「広いし、ありありで良いんじゃ無い。怪我をさせたら袋ね」

 まあ、いつもの奴だな。

「「「ほーい」」」

 皆が一度、椅子から三メートルくらい離れて、同心円状に広がる。


 ありありだから、魔法もあり。

 怪我をさせたら袋の意味は、皆に囲まれ、罰として一廻り蹴られる。

 何でか知らないが、囲んで蹴ることを袋と言うらしい。

 その後、怪我をした相手に、ごめんなさいと言って、締める。


「それじゃあ。始め」

 いつもの様に、アミルのかけ声で始まる。

 最初父さん達に、これを習った頃。アミルは体が弱く参加できなかった。

 その時の名残で、かけ声係。


 隣から、風切り音が聞こえる。

 そちらを見ることなく、空気と魔力の流れで、飛んでくるリーポスの右足を掌で受け流し、上方へ持ち上げる。

 リーポスは側転をする要領で、そのまま回転をする。


 その隙に、フィア達へ火槍の小さいのを撃ち込む。

 フィアは避けたが、アミルは蹴り返し、さらに追加を撃ち込んでくる。

 クノープは、当然のように槍の一振り。

 魔力を纏わせて、槍で魔法を壊す。


「んっ、もう」

 リーポスは剣を抜き、剣の腹で足を払いに来る。

 あたると結構痛いんだよね。


 バク転をして、足が地面に着いた瞬間、立ち上がらずにそのままリーポスの足を取りに行く。

「ちょ」

 掴んだ足を振り回し、そのままリーポスを、クノープの方へ投げる。

 リーポスは滑りながら、体をひねると手をつき、回転してクノープの頭へ踵を落とす。

「んがっ」

 珍しく躱せず、もろに喰らったようだ。

 その間に、フィアとアミルが共闘して、俺に魔法を仕掛けてくる。


「ちっ、アースニードルと真空。風の刃か?」

 伸び上がった土の棘。

 それの後ろに回り込み、風の刃をかわす。


「うりゃ」

 速度重視で、水球を二人の顔にめがけて撃ちだし、その後ろで水を壁にする。

 角度を調整して、違う景色を二人に見せる。


 その間に、一気に背後へと回り込み、電撃を喰らわせる。

「ぎゃ」

「あばっ」


 すぐに、リーポスを探すと、すでに椅子に座って、にまにましていた。

「私は女王よ」

 びしっと、右拳を上に上げる。


「あー。ずるい」

「勝ちは勝ち。なにを、命令しようかなぁ」

 そう言って、リーポスは嬉しそうだ。

 勝てば、その日は女王だったり、王様だったり。


 最近は、アシュアスに触られると、なぜかドキドキするのよ。そう言ってマッサージを命令されることが多い。

 フィアとアミルが起き上がり、理解したようで悔しそうだが、クノープが目を回したまま起きない。


 魔法で水をぶっかける。

「起きないか?」

「ぬるいからよ。氷を混ぜれば、きっと大丈夫」

 そう言って、珍しくリーポスが魔法を使う。


「それは……」

 一気に一メートル以上に育った氷の塊が落下し、クノープの顔面へと向かう。

 あっ気が付いたようだ。

 目が開き、一瞬で状態に気が付きかわす。


 結構大きい氷だったから、重かったようだ。数センチくらいは地面にめり込んだ。

 まだ、クノープの目は、大きく見開かれたままだ。

 驚いたようだな。


「まけだぞ。今日はリーポスが女王様だ」

 一応説明をしておく。


「またかよ。それは良いけどリーポス。下履きを忘れているぞ」

「えっ」

 リーポスは旅の途中から、トイレに行くときに面倒だと言って、膝上くらいで布を巻いてスカートにしていた。


 フィアとアミルはその下に、短いズボンをはいているが、リーポスは穿いていない。

 それどころか、その下も脱いでいたようだ。


「ああ、それでさっき。踵をもろに喰らったのか」

「そうだよ。男の心理を突く作戦かと思ったが、違ったようだな」

 流石のリーポスも、恥ずかしかったようだ。


 ちなみに、指摘はしないが、良くあることなので、慣れた。

 この世界、意外と皆おおらかなのだ。



 だけど、すぐ近くで、この遊びを見て引きつっていた連中がいた。

「何だあの動き。皆がそろって、ただのガキじゃねえ」

 そう、瞬殺された人たち。


 魔法の発動。

 体術すべてにおいて人外。


 前に仕事で、金級の人たちと一緒に護衛をしたが、その人達より圧倒的に早い。

「あれで、成人したばかり……」 

 漆黒の兵団全員が、少し自信をなくすことになった。


「さて、皆さん。明日の朝九時に正門前に集合してください。昼食とおやつを用意してくださいね。冒険者はその辺り、自前ですから」


 いつの間にか、ティナさんが降りて来たようだ。

 そんな説明をくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る