第2話 怪談になった先輩の話

ええ、あれは中学校2年生ぐらいでしょうか。

7月頃だった気がします。その日は珍しく黒いような澄んだ青空が印象的でした。


避暑地になるくらい涼しい場所なのに、蝉がとてもうるさかったです 。


先輩が死んだことが、無機質な放送で伝えられた日はそんな日でした。


学校では詳しいことは言いませんでしたが、大人たちがどのように死んだか話し合っていたので……嫌でも分かりました。


アレだって。


帰り道、通学路のすぐ側にある瓦屋根の先輩の家には、忌中と書いてある紙が貼ってありました。


うっすらと開けてある障子からは、セーラ服姿の先輩の遺影がありました。


そんな光景を見て、初めて死を実感できたような気がしました。


数ヶ月後。

音楽の授業で文化祭の合唱の練習をしてる時後ろで男子達がこんな話をしてました。


「午後4時44分、この音楽室の窓を覗くと、先輩が血まみれで睨んでるらしい」


「吹奏楽部の仲間を恨んでるらしい」


先輩は亡くなった時、血まみれでは無いと葬式で言っていました。


だから、血まみれなんてありえないのです。


また、別の日の音楽の授業の際に窓を見ながら女子がいいました。


「午前4時44分44秒に音楽室の窓を見ると、悲しげな顔の先輩が見えるらしい」


そもそも、午前4時44分に校舎に入れる訳無いのです。例え早起きして入れたとしてもALSOKが来ますから……その後騒ぎになります。だからこの話もありえないのです。


誰かが起こった事件を盛りに盛って噂にすることで怪談が生まれる。それを目撃した瞬間でした。




あれから何年が経ったのでしょうか?

何もかも変わりました。


吹奏楽顧問は色々なやらかしで逮捕されました。学校の自慢と言っていた森は壊されて、制服もジャージも変わりました。


校舎も新校舎が建って、あのカビ臭くて、狭すぎて乱闘が起きた更衣室ももうありません。


汗をかきながら部活動をしていた体育館も老朽化で壊されました。


それでも


先輩は怪談として語り継がれているようです。


4時44分に音楽室の窓から見える少女として。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私の友人の話 八月朔 凛 @sakarasaku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ