第6話 吉祥寺がない吉祥寺でお花見(4

僕らはそれから、坂を登り、歩道橋を渡って、動物園に行った。先程の入場券でそのまま動物園にも入れる。入場は4時までとの事だったが、ギリギリ間に合った。


「動物園には何がいるのかな?少なくともゾウの『はな子』さんんはもういないよね。」

僕は聞く。


「そうね。はな子さんがいなくなって、あまり注目されるような動物はいないかな。でもお猿さんがいるよ。」


僕らは歩いて行く。すると、羊とかに触れるエリアがあった。子供たちが集まっている。


「あれ英語ではペッティングズーって言うのよ」あゆみが教えてくれる。


エッチだなんて思っちゃいけないんだろうな。少なくともアメリカでは多分普通の言葉なんだろう。


ふくろうや珍しい鳥とか、たぬきなんかもいる。それなりに面白いな。


猿のエリアは、低くなって塀で囲われている。母猿が子猿を連れていたりして、なかなか可愛い。


ロープがあって、猿が器用に渡っている。

「人間にはあれできないよね、」あゆみが笑う。


「こっちよ。」

あゆみが僕を先導する。

美術館みたいなエリアに着いた。中に入ってみて驚いた。大きな彫刻がある。手を上と横に伸ばしている。


「これどこかで見たことあるなぁ」

僕が言うと、あゆみが説明してくれる。


「これは、北村西望が作った長崎の平和の像の原型よ。これをもとにして、長崎で本物を作ったの。」


すごいな。原型がここにあるってことは、ここで作って長崎まで運んだのか。


「最初は公共からお金が出てたの、このアトリエも都が用意したみたい。でも途中で政治的にいろいろあって、補助が切られて、それから大変だったみたい。」


なかなか大変なんだな。芸術家なんて、食っていくのだって大変だと思うな。僕には無関係の世界だけれど。


隣の棟ではそのメイキングが展示されていた。ひな形を作ったり、何か石膏を流し込んでみたり、いろいろ手順が示されていた。その辺の技術に革新的なことがあったとか書かれてるけど、僕にはそういうところはは全くわからない。、


だけど、作るのが大変なことだけはよくわかった。西望さん、ご苦労様でした。


僕らはその後、もう一度井の頭公園の池の方へ戻り、さっきの橋を渡って対岸に行き、違う出口から出て行く。


階段を上ると、左側に行列ができていた。


「これは何?」聞くと、


「ここは、焼鳥屋の『いせや』よ。地元で有名な焼き鳥屋で安いの。あとジャンボ焼売も有名ね。

もう一つの大通りに面した方の店だと、立ち飲みの人たちがたくさんいるわ。作家さんなんかも常連がいたみたい。」「


あゆみ先生の講義が続く。


「こっちの公園出口のお店はテイクアウトか、中で飲食する場所ね。」


いせやと言うのは有名な焼き鳥屋らしい。これもご当地グルメだね。


あゆみ先生は言う。

「この辺に、昔の遺跡があったの。そこで焼いた鳥の骨が見つかったんだって。」


なるほど。ということは、ここの『いせや』という店は、もしかしたら縄文時代からあったのかな。などと馬鹿なことを考えてみる。


行列ができてるっていうことは、花を見ないで飲んでる人たちがたくさんいるってことだね。外にたむろしている人たちは、テイクアウトして公園に行くんだろうね。


「僕らも並ぶ?」

一応あゆみに聞いてみる。あみは首を横に振る。


「まだ行くところがあるんだよ。」


夕方で、だんだん暗くなってきている。まぁ吉祥寺はたぶん1日じゃ見切れないな。

でも今からあゆみが行きたいところがあるなら一緒に行こう。


僕らは駅を越えて、朝に入った商店街とは違う『サンロード』という名前の商店街を通り過ぎる。ここもアーケードになっている。


「一時期、ここは、日本一人が来る商店街だったらしいよ。」あゆみが言う。


そこまでにぎわってるとは思えないけど、それなりに人がいる。靴屋とか本屋とか小さな店もあるけれど、チェーン店もそれなりにある。


途中で信号をわたり、もっと行くとお寺があった。月窓寺というようだ。


「ここのお寺さんは、吉祥寺で有名な大きなお寺の四つのうちの一つで、この辺の土地はほとんど持ってるのよ。商店街は全部借地なの。」


例によってあゆみ先生が説明してくれる


「それじゃあ、すごいお金持ちだよね。」

僕は下世話なことを言う。


「そうみたいね。実は駅ができたのも、ここのお寺の尽力があったからみたいよ。もともと中央線の電車の駅は、もっと東側の、五日市街道と交差するところに作ろうとしたらしいんだけど、そこは地元の農家の反対で、作れなかったんだって。そこで、ここのお寺が、地元の他の人たちと協力して、土地を提供して、ここに駅を作ったんだって。」


「それでこんなに発展したんだから、当時反対した人は先見の明がなかったんだね。」


「結果的にはそうなるわよね。でも、新しいものを受け入れるってすごく大変なことよ。反対した人たちの気持ちもわかるわ。」


あゆみはあくまで人に優しい。


商店街を越えて左へ曲がり、まっすぐ行くと、神社があった。


「ここが武蔵野八幡宮よ。ここにもお参りしましょう。」あゆみが言う。


僕らは、暗くなった参道をまっすぐ進み、正面の大きな社殿でお賽銭を入れ、お参りをする。おみくじも考えたけど。社務所が閉まっているようだ。というか、あんまり商売っ気があるようには見えない。


あゆみは踵を返し、僕を連れてもう一つの小さい社殿でお参りすると言う。


小さいし、単なるおまけだなと思って行ってみて驚いた。提灯に七つの神社の名前が書いてある。ここは、日本の他の神社の出先だったのだ。


「ここでお参りすれば、他の神社でお参りしたことと同じなのよ。」あゆみは言う。


僕らはここにもお賽銭を入れてお参りをした。


「何のお願いしたの?」あゆみが聞く。

「内緒だよ。」僕は答える。


「あゆみは何をお願いしたの?」

「内緒よ。」あゆみも言った。



僕がお願いしたのは、出雲大社の神様だ。ここには出雲神社と書いてあったけど。


願ったのはもちろん縁結び。あゆみと、これからも仲良く一緒に末永く生きていけますように。


あゆみは何を願ったのかな?わざわざここへ寄ったということは、きっと僕と同じなんだろう。僕はそう願っている。





===

はい、吉祥寺編、やっと終幕です。


全4回のご当地紹介編になりました。

これても全然足りなかったんですが、まあいいでしょう。

井の頭公園が広いので、尺を食ってしまったんですね。



あゆみ先生、よく知っていますね。

全部本当のことですよ。




読者の皆さま。

いつもご訪問ありがとうございます。


ハート、★、フォロー、コメント、レビューなどいただければとても嬉しいです。


いつも言っていますけど、


袖すりあうも他生の縁。

情けは人のためならず。


あなたの御心をぜひ少しだけ分けてください。



















「ねえ、公園の話が長かったけど、これでいーのかしら?」

「僕は、あゆみのセンスも嫌いじゃないけど、ほかの人はどうかなあ。」

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