第5話 吉祥寺がない吉祥寺でお花見(3)

僕たちは、二人でワインを一本開け、そのあとお茶を飲んだりしてゆっくり過ごした。

鳩が飛んできて、その辺を歩いている。人をこわがらずに、こぼれたおかずなどをついばんでいる。


代々木公園で、鳩を捕まえて焼いて食べるって外国人がいたような気がする。あれ?上野だったかな? まあ僕らは今日は食べないけど。


「そろそろ歩こうか。」あゆみが言う。

酔い覚ましにもなるし、いいだろう。人通りも多いことだし。


荷物を付け始めたところで、親子連れが目に入った。

母親は荷物を持ってストローラーを押し、父親は子供を抱いている。


「あゆみみ、あの人たちに場所を譲ろうよ。声かけて。」

あゆみはうなずいて、その親子連れに声をかける。


「もう出ますから、こちらへどうぞ」

親子連れは恐縮しながらも、ちょっとほっとした感じでやってきた。


僕らはブルーシートはそのままで席を立った。

シートはどうせ100均のものだし、再利用するつもりもなく、捨てて帰るはずだったから、使ってもらえるならそれでいい。


ちょっと広めだったから、ストローラーを置いても十分スペースがあるし、ちょうどよかった。


僕たちは井の頭公園の池をめぐって歩き出す。

池にはボートがたくさん出ている。白鳥の足こぎボートも、オールでこぐ普通のボートもだ。


「ボート乗る?」僕は聞いたけど、あゆみは首を横に振る。

「ここでボートに乗ったカップルは別れる、ってジンクスがあるみたい。都市伝説だとは思うけど、やめとこ。」


それなら、僕も全面的に賛成だ。


歩いていると、電車の高架が見えた。井の頭線の井の頭公園駅がその向こうにある。


「当然、いのかいら公園駅だよね。」僕が言う。

「もちろん。」あゆみが答える。


僕らは池の逆側に出た。桜はこっち側のぽうが綺麗かもしれない。


池のすぐそばで桜が咲いていて、枝が人の頭くらいのところにある。

人々が交代で自撮りしたり、写真を撮ってもらったりしている。


僕らも二人並んで自撮りした。二人の写真、もう何枚撮ったかな。


こちら側の広場でも、花見のシートが広げられている。

こっちも学生が多い感じだ。


男だけ4人で飲んでいるグループを見て思う。

僕も、あっち側だったら、周りのカップルとかを見て、心の中で呪詛を振りまきながらやけ酒を飲んでいただろうな。

あゆみと恋人になれたことは本当に僥倖だ。


麻雀をしている人たちまでいる。お酒を飲みながら花見麻雀か。まあ、真似はしたくないな。


人はとても多い。見ると、ピザ屋のジャケットを着た若者がピザの箱を持っている。

今の時代、花見の場所からスマホでピザのデリバリーを頼めるんだね。


男6人、女性3人のグループが、宴会スタートなのか、立って乾杯している


「仲良さそうだね。サークルかな。」僕はあゆみに言う。

あゆみが言う。

「猛、甘いよ。よく見たらわかることあるよ。」


僕には、普通の集団に見える。

「何がわかるの?」


「まず、今の時期は、大学の入学式はまだだから、サークルにしても1年生はいないよね。」


「うん、それで?」


「女の子の恰好を見て、何か思わない?」


ジーンズの子、ロングスカートの子、ふわふわしたミニスカートの子の3人だ。

「3人とも違うファッションだけど、それが何か?」


「あのミニスカの子、彼氏いないから勝負賭けてる感じね。」

なぜそんなことが言えるんだろう?


「お花見ってことは、地面にシート敷いて座るのはわかってるよね。それでミニスカートだと、どうなると思う?」


「あ、見えそうになるね。」


「そう。男の子の視線を集めるよね。ほかの二人はたぶん、彼氏がいるか、募集してない。でもあのミニスカ―トの子は、スカートで男の目を誘って、あわよくば手を出してもらおとうって思ってるよ。」


「え、考えすぎじゃない?」

「じゃあ猛、私があの恰好で集団でお花見に行って、パンツ見えそうになってもいいの?」

「それはない。そんな恰好で来られたら、僕が前に座って完全ガードする。」」


「でしょ。そんな男性はいないみたいだから、彼氏はいないよね。で、もう1-2週間したら、サークルは新入生が入ってくるの。上級生の男子たちは、初々しい新入生を虎視耽耽と狙うことになって、売れ残った上級生は放置されちゃうのよ。だから彼女は焦ってる。きっと勝負下着よ。」


そういうものかもしれない。平和そうな集まりでも、水面下ではいろいろあるんだな。

よく見ると、男子の目線が彼女の動きを追っている。


男は単純だよな~と改めて思う。狩る者と狩られる者。どっちがどっちなんだろうね。


「あっちの女の子3人は、ナンパ待ちね。4人以上はたぶんガードが固いけどね。」


そういうものなのか。なかなか深いなあ。男のほうも、ダメ元でナンパしようと思うグループと、麻雀グループのような試合放棄組もいる。


カップルとか家族連れなら、桜を楽しめるだろうが、実は水面下で戦いも繰り広げらていたんだなあ。


僕らはそのまま池をめぐる。

野口雨情の歌碑があるのだけれど、その前でシートを広げているグループがいる。さすがにこれは失礼だと思う。


池の上に建物が建っている。

「あれ何?見に行こうか。」僕が言うと



「ノンノンノン!あれは、井の頭弁財天。弁天様よ。、」

弁天って女性の神様だよね。


「弁天様はやきもち焼きなので、カップルが行くと別れさせるっていうジンクスがあるのよ。」


「スルーで。」


一周する手前で、橋をわたるとその先には行列があった。ボート乗り場だ。

その先には、天幕が張ってある。


「何、あのテント?中で何か売ってるのかな?」


「全然違う。行けばわかるよ。」あゆみが言う。


僕らがテントに行ってみると、その下には何もない。ただ、その先の橋へいくだけだ。


何だろう?と思って上を見ると、白い天幕に、鳥の糞がいっぱいついていた。


「この横の木の上に、カワウの巣がたくさんあるの。そこから落ちてくるものを避けるために設置してるのよ。」


なるほど。


テントを越えて、橋の上から池を見る。

なかなか素晴らしい景色だ。ボートだけじゃなく、水鳥もいる。


「あれはカイツブリ、こっちはバンね。」


「バン?」 僕は初めて聞く名前だ。

「え?アーサー・ランサムの『オオバンクラブの無法者』知らないの?」


童話作家希望のあゆみは児童文学に詳しい。僕は聞いたことがないけれど。


「バンは、ああいう黒い鳥ね。泳ぐのはとっても下手なの。田んぼの番をしてるみたいだから、バンって名前になったのよ。」


あゆみは本当に詳しいなあ。


僕らはそれからテントをもう一度くぐり、、水生園という、水族館のようなところへ入る。

有料だけど、動物園にもこのチケットで入れるらしい。


魚とかエビとかいろいろいたけど、人が集まっているところがある。

「あれは何?」僕が聞く。


「あれは、ミズグモ。井の頭公園の中にあるジブリ美術館で、ミズグモのショートムービーが上映されていてね。帰りに寄った人がミズグモはいないの?って聞かれて飼うことにしたんだって。」


本当によく知っているなあ。

ちなみに、イモリの展示もあった。本当に「水に生きる者」を展示してる感じだ。



ここの生き物たちは、水と生きているる。


僕は、愛するあゆみと生きている。



====

結局、まだ続きます。

吉祥寺はこれでもまだ最初の部分と井の頭公園しか書いてないんですよね…


しかし、猛はホント、臆面もなく愛するあゆみ、とか言っちゃうんですよね。そこまで言い切れる猛が羨ましいです。



そうか~大学で一年彼女ができなかったら、後輩を口説けばよかったのか…でも、結局はイケメンに女の子が集まるだけで、非モテには関係ないんだよな~


逆に、オタサーの姫みたいなケースもあって、男が多いと女性は無条件でモテる。


…女子大に入学していればきっと…(無理)



読者の皆さま。

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いつも言っていますけど、


袖すりあうも他生の縁。

情けは人のためならず。


あなたの御心をぜひ少しだけ分けてください。





















「おい白い鳥、お前はなんだは?」「俺、かもめだよ」 「そうか、お前、ホントのことを言ってるのか?」「言ってない」「この嘘つきカモメめ!」「いや、俺サギだから。」


…井の頭公園にはゴイサギやコサギもいます。(本当)

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