第3話 吉祥寺がない吉祥寺でお花見(1)
3.
「猛、明日10時半に、吉祥寺のない吉祥寺のはな子さんで待ち合わせね。」
こんなメッセージが来た。
吉祥寺のない吉祥寺、というのはこの前の豪徳寺の時にも話があったけど、この場所は中央線と井の頭線のある吉祥寺のある吉祥寺だ。
はな子さんってなんだろう?僕は検索して答えを出す。
「了解。持ち物は?」
「ワインとお茶とブルーシート」
僕はOKのスタンプを贈る。
あゆみから「よろしく」:のスタンプが送り返してきた。
僕は100均でブルーシートと紙コップを買い、あとは白ワインとお茶のボトルを買い、翌日に臨む。
これらを準備するなら、当然花見だ。東京は靖国神社で満開と宣言された。まさに花見シーズンど真ん中だ。
翌日、僕は長袖のポロシャツの上に薄いダウンとジーンズに生成りのキャップというラフな格好で出かけることにした。どうせ公園でシートに座ることになるだろう。防寒はしておいたほうがいい。ま、お花見にスーツで行く人はいないと思うけど。
僕は、リュックにワインとお茶、ブルーシートとウェットティッシュを詰めて家を出た。
10時15分に吉祥寺駅に着き、はな子さんを探す。はな子さんというのは、井の頭公園の中にある動物園にいた象だ。はな子さんはタイから贈られ、人気者になっていたけど、もう死んでしまい、記念の像が吉祥寺駅の北口の広場に設置されたのだ。ちなみに、今はワシントン条約があるので、動物園で海外から動物を入れるのもどんどん難しくなっているらしい。
吉祥寺に来るのは初めてだったが、はな子さんの場所はすぐにわかった。
天気は曇りで、ちょっと肌寒いけど寒すぎることはない。雨も降らなさそうだ。
あゆみはまだ来ていない。
住みたい街ナンバーワンとか言われたり、いまでも三位くらいには入っている吉祥寺だが、僕は何があるのかはあまり知らない。
井の頭公園がある、ということくらだ、
公園があるから住みたい街なのかもしれない。でも、日比谷公園でも錦糸公園でもいいような気がするね。
見上げると、サンロードという商店街とダイヤ街という商店街が駅前に並んで口を開けている。
まだ10時台だからか、それほど人は多くない。とくに今日は土曜日だ。学生も勤め人もそれほどはいないだろう。というか、大学はまだ始まってないかもしれない。
吉祥寺には大学も高校も複数あるし、近隣の駅にも学校が沢山あるので、学生が集まるらしい。僕の友人も、吉祥寺によく行く、と言っていた。まあ彼の場合には飲みに行くってことだけど。
制服姿の高校生もいる。部活にでも行くのだろうか。吉祥寺にある女子高は、スポーツなんかに力を入れていて、日本代表とか数多く輩出しているらしいからね。
あゆみは、10時半ほぼぴったりにやってきた。
彼女もジーンズにジャケット、スカーフというラフな格好で、スニーカーを履いている。念のためなのか、ベージュ色の薄いコートを手に持っていた。
こんな姿のあゆみも可愛い。
というか、僕はどんな姿のあゆみも大好きだ。今日もショートボブの髪を綺麗いまとめている。化粧は薄目のナチュラルメイク。
「猛、おはよう。待った?」笑顔で聞くあゆみ。ちょっと目が垂れているところもチャーミングだ。
「いや、今来たとこ。」 定番のやりとりだ。まあ、こういうところをないがしろにしてはいけない。
「はな子さん、すぐわかった?」と聞かれる。
僕はうなずう。
あゆみは言う。
「じゃあ、ちょっと早いけど、ぶらぶら行こう。」
僕はうなずく。
ゆっくりと歩き出したあゆみについていく。 あゆみは、駅の方向ではなく、商店街の方向に行く。井の頭公園は、駅の反対側のはずだ。
…そもそも、なんで公園の反対側で待ち合わせたのかな?
「え、いのがしら公園に行くんじゃあないの?」僕は聞く。
あゆみは言う。
「最初に言っておくね。いのがしらじゃなくて、『いのかしら』よ。これはあとで言うね。」
いのがしら、って結構みんなが言っているような気がするんだけど。
まあこういうところで文句を言うと、あとが大変だということは経験上わかっている。
あゆみは続ける。
「それで、井の頭公園には行くよ。その前に寄り道ね。」
寄り道か。買い物かな。今は10時半過ぎだから、デパートとか開いていると思うけど。
僕はあゆみについて、ダイヤ街という商店街を歩く。入口のドラッグストアは開いているのか開いてないのかよくわからない。商店街の寿司屋とかラーメン屋はまだだね。・
ちょっと行くと、行列が出来ている店があった。
何だろう、と思って見ると、「吉祥寺さとう」と書いてある。
これはお肉屋さんのようだ。なぜ行列ができているのかと見ると、どうやらメンチカツの販売らしい。
有名なメンチカツということで、花見の前に買っていこうとするのだろう。
普段は11時くらいからの販売らしいんだけど、お花見シーズンだから早めに販売しているようだ。
その隣の「小ざさ」(おざさ)は羊羹が有名で毎朝5時から行列するらしい。この時間は羊羹は売り切れで、最中だけ売っていた。その隣のつか田は、練り物(吉祥寺揚げなど)で有名だという。
「へえ、結構朝から並ぶんだね。」などとあゆみと話しながら歩いていくと、短い商店街の出口まで行きつく。
横断歩道を渡る。右側にデパートがあるので、そこへ行くのかと思ったら違うようだ。
デパートの横の通りをまっすぐ行って、細い道を左折する。
いったにどこへ行くのだろう。美容院ではないと思うけど。
「うん、開いてる開いてる」あゆみはそう言って、店を指さす。
店名は「カーニバル」という。
輸入食品とかを並べている感じだったが、中へ入ると、いわゆるデリがあった。
デリと言っても、変な男性が使う妙なサービスではなく、いわゆるデリカテッセンだ。
レジに「販売は11時から」と書いてある。
透明のショーケースの中にはいろいろおいしそうなものが並んでいる。まだ開店前なので、すべててんこもりだ。
いや店は開いていて、普通のお菓子やら缶詰やらは買えるんだけど、デリは11時からということのようだ。
すでに4人くらい並んでいる。あと10分くらいなので、僕らもその後ろに並んだ。
メニューを見て驚いた。ごはんと、デリの品4品選んで、デザートもつけても900円しない。料理の選択も12種類あった。
「安いね」僕が言うと、「そうなの。それから、エスニックもあるの。」とあゆみが答える。あゆみはエスニック料理が大好きだ。
もちろん、エスニック料理より僕のほうが好きだと思うけどね。そのうち「エスニック料理と僕と、どっちを取るんだ!」とか言ってみたいけど、エスニック、と言われたら立ち直れないだろうから言わない。
僕らの番になり、僕は五穀米とユーリンチーとバターチキンカレーと唐揚げと、ナスとピーマンのマリネにした。 あゆみはシュリンプのカレーと、唐揚げと、エスニックの野菜2品だ。僕はティラミス、あゆみはかぼちゃプリンをデザートにつける。
二人足しても1800円しない。僕らは、にこにこしながらランチボックスを二つ抱えて、井の頭公園へと向かった。さあお花見だ。昼間からワインを飲むぞ!
==
長くなりそうなので、ここで切ります。
たぶん、あと2回は続きます。いや、二回で終わらせたいと思います…。(希望的観測)・
今回はうんちくが少ないです。ご当地紹介シリーズということでお願いします。
読者の皆さま。
ハート、★、フォロー、コメント、レビューなどいただければとても嬉しいです。
いつも言っていますけど、
袖すりあうも他生の縁。
情けは人のためならず。
あなたの御心をぜひ少しだけ分けてください。
猛の反省。「五穀米じゃなくて白米にすればもっと安かった…」
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