第2話 四月の魚
今年はいつもより遅いが、桜が咲き始めた。そして今日から新年度に入るところが多い。新社会人の人たちが入社式を迎えたりもする。
僕はまだ学生なので、その辺は関係なく、春休みの残りを満喫するべく、惰眠を貪る予定だった。
僕の愛する彼女のあゆみからメッセージが入ってきた。「今日の夕方お部屋に行きます。夕食を作った後、大事な話があります。」
大事な話とは何なんだろう?僕はいぶかった。それに、いつもならハートマークなんかがたくさんか入ってるのに、なんだかそっけない。
僕は不安になりながらも、部屋を掃除してあゆみを待つ。
四時過ぎにあゆみがやってきた。
あゆみは、ぼくと眼を合わそうとしない。
いつもはルーティンのハグとキスもやんわり拒否された。
「じゃあ,食事の準備するね。」あゆみはそういうと、まっすぐキッチンに入って行った。
今日のあゆみは、高級スーパーの紙袋と大きめのバッグを持っている。
どうやらご馳走を作ってくれるのだろう。
あゆみは料理上手だ。
ちょっと不安になりながら、僕は、あゆみが料理を作るのをじっと待つ。
以前,あゆみの調理を手伝おうとしたら、手伝って欲しい時には言うから、それ以外の時は邪魔しないでくれ,と言われているのだ。
フードプロセッサーの音がする。たぶん、あゆみが持ってきたのだろう。
料理には気合が入っているようだ。
できたよ、とあゆみが僕を呼ぶ。
ダイニングテーブルの上に、重ねた大皿があって,その上に、綺麗に焼き色のついた魚らしいものに、ホワイトソースがかかったものが載っていた。クレソンと、ニンジンのグラッセが付け合わせで乗っている。小皿にはパンがあり、ワイングラスもある。
あゆみがワインをあけ、注いでくれる。白ワインだ。
「今日は4月の魚よ。乾杯!」
あゆみはそう言ってグラスを掲げた。
僕はサルーテと言ってあゆみのグラスに自分のグラスを当てて、一口飲む。
普段よりかなりドライなワインだ。これも何かのメッセージかもしれない。
「おいしいね。これは何?」「四月の魚って言ったよね。」やはり、とりつくしまも無い。
魚というか、鶏肉のような、ポテトのような感じもする。たぶん一度フードプロセッサーでつぶしているんだろう。濃厚なホワイトソースの味でわかりにくい。
何の魚なんだろう。四月の魚か。春の魚なら鰆(さわら)だけど、そんなことを口にできる雰囲気じゃなかった。
その後沈黙したまま、食事を終える。
あゆみが言う。「お皿をあげてみて。」
2枚目の皿の上に,紙が一枚載っている。
その真ん中に,綺麗な筆記体で Au Revoir
と書いてあった。
え?
一応フランス語の単位をぎりぎりで取っている僕でもわかる言葉。
さようならだ。
普段、あゆみは僕の部屋から帰る時、さよならとは言わない。またね、と言うんだ。
え?別れるって言うのか?
大事な話って、そう言うことなのか?
「あゆみ、なぜ?…」
僕は、やっとの思いで、言葉を絞り出した。
あゆみは一言言った。「ポワソン・・ダブリル」と。
何のことだろう?多分フランス語だ。
ポワソンはたしか魚だし、ダブリルはたぶんドとアブリルのつながり、つまり四月だ。
やっぱり四月の魚なんだ。
意味が分からない。
もしかして、四月の魚っていうのは、フランス語で別れのサインなんだろうか?
「あゆみ…」僕はそれ以上声を出せなかった。
あゆみは仏頂面を崩さないままで言う。
「猛、ちゃんとフランス語勉強しないとだめよ。調べていいわ。」
僕は携帯で調べてみた。そういうことだったんだ。
僕は、四月の魚という言葉を一生忘れないだろう。
ついでに、Au Revoir も調べてみた。
あゆみ。Au Revoir.
(完)
(
====
読者の大部分がフランス語を理解していないことを祈って。
始めたばかりなのに、第二回でいきなり打ち切りの危機か?(笑)
ちなみに、Au Revoir というのは、フランス語で「またね」に近い意味もあります。
Voirとは英語のSeeと同じなので、Re がまた、ということでSee You Again に近いんですね。
ついでに言うと、仲良しの人に言うときは、アビアント、という言葉も使います。
表記が大変なのでスペルは書きません。 興味あれば調べてくださいね。
あゆみは、作者の理想の彼女でもあります。
美人で可愛くて、すぐ怒ったり泣いたりするけど、僕のことが大好き。
そして…
こんな彼女が欲しいな~。
というわけで第三回をお待ちください。(あるのか?)
よろしければハート、★、コメント、レビューください。←読者を舐めてるのに鉄面皮
フランス語わかれば出オチという暴挙だよなあ。
でも、今日しかアップできないからやっちゃった(確信犯)
。
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