第7話 ドラゴンの解放
「Oooooooon…」
竪琴の音が大神殿と共鳴し、岩肌に弾かれて神殿全体に響き渡った。それは大きな咆哮となり、レリーフのドラゴンが命を吹き込まれたかのように眼を開き、禍々しく赤く燃える目で祭壇の前にいる二人を睨んでいた。戦慄したイノスはサウラのウエストを抱いて引き寄せ、竪琴を片方の肩にかけて咄嗟に古代の子守唄を演奏した。イノスの村に古代から伝わる歌の一つで、これを歌うと子供たちは例外なくすやすやと眠ってしまう。龍神にどれだけ効果があるかわからなかったが、とても穏やかで優しい歌なのだ。
ドラゴンのレリーフの瞳が青くなり、正気を取り戻したかのように見える。サウラはイノスの腕の中で震えていたが、小声で促した。
「龍神が他の歌も聴きたいと言っています。古代の歌を聴かせてあげてください。」
イノスは続けてドラゴンと若者の旅の歌を歌った。古代の歌は数曲あり、一連のストーリーで繋がっている。陽気で弾むような歌や、しっとりとした愛の歌など、歌い手の技量も試される。最後にドラゴンと若者の別れを描いた歌を歌っていると、サウラは龍のレリーフが涙を浮かべているのに気づいた。その歌は、旅を共にしたドラゴンが、泉の白い水龍アウラに恋をし、その泉で暮らすことを決意する歌だった。
「アウラ…!!!私を一人にしないでくれ!」
レリーフの岩盤と一体となった部分に無数の亀裂が走り、岩盤の後ろから水が溢れ出てきた。ドラゴンは苦しそうに上半身をくねらせ、岩盤から離れようともがいた。龍神の咆哮と岩盤の揺れが大神殿を揺るがす。ミーアはすばしこく大広間の出口まで走り、皆を呼んだ。
「はやく!崩れる!!」
国王と巫女たちは出口に急いだ。国王はサウラを呼んだが、サウラは祭壇を離れなかった。
「陛下!お先に逃げてください!わたくしたち二人は何とかなります!」
ドラゴンの後ろから水がほとばしる。イノスはサウラを抱いたまま祭壇から後ずさりしたが、サウラがそれを留めた。
「ミノスの剣を龍神に捧げてください!」
この切羽詰まった状態で冷静に状況を判断している。イノスはやはりサウラもただものじゃないと思った。祭壇に突き刺さった剣を抜き、龍神の方を向いた。
龍神は苦しそうだったが、その剣を見てイノスの心に話しかけてきた。
「それ…ヲ、ワタシのひたい…ニ、ナゲテくれ…!」
悶えながらゆっくりとイノスの前に額を寄せてきた。イノスは抜身の剣をレリーフの第三の目の位置にしっかりと差し込んだ。ドラゴンの断末魔の咆哮が響き、剣を境にレリーフは真っ二つに割れ、中からとてつもない勢いで濁流が噴き出した。
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