第6話 大神殿にて

参道は石畳で整備されていて、馬車がぬかるみにはまるようなことはない。大雨だったが三人を乗せた馬車は無事に本殿に到着した。


岩盤をくりぬいて造られているその大神殿は、半分山の岩と一体化している。柱は小神殿の倍くらいの太さがあり、三人を神殿の中に誘っていた。サウラが竪琴を持って先頭に立ち、イノス、ミーアが後に続く。


神殿の中には先に到着していた巫女たちと侍従が並び、三人を出迎えた。

「国王が中にいるはずです。」

そう言いながら三人は神殿の中心へと歩を進める。

イノスはサウラに尋ねた。

「俺は生贄ってことか?」

「いいえ。国王が刑執行前の死刑囚を連れてきているはずです。あなたはミノスの流れをくむ者。生贄にはなりえません。」

イノスはそれでも神様の気まぐれってこともあるからなと用心しながらサウラの後を歩いた。ミーアが楽しそうにぴょんぴょん跳ねながらついてくる。


三人は半地下になった大神殿の大広間に着いた。真ん中に泉があり、透き通った水がこんこんと湧き出ている。泉の端に大きなドラゴンのレリーフが彫られているが、それは半身が山の岩肌と一体化している。窓がないため中は暗く、あちこちに松明の明かりが灯されている。ドラゴンのレリーフは松明の明かりにぼうっと照らされ、暗闇の中にそびえてリアルで不気味だ。


泉の中央に祭壇がしつらえられている。そこに国王が待っていた。隣には檻に入れられた囚人がいる。

「刑執行前の死刑囚です。」怪訝そうなイノスを見てサウラが言った。サウラは国王に一礼し、祭壇の正面に歩を進め、待っていた巫女たちと手早く儀式の準備をした。そして竪琴を祭壇の正面に据えてイノスを呼んだ。

「わたくしが合図をしたら竪琴の弦を弾いてください。」

そう言うと、凛とした美しい声で祝詞(のりと)を上げ始めた。少し抑揚があり、歌のようでもある。

イノスはしばらく聞き惚れていたが、サウラが目くばせをするのに気づいて竪琴の弦を弾いた。

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