青空の下
翌朝、夏子が目覚めると賢治はもう起きていて、朝ごはんの準備をしていた。二人はまた黙って食べた。外は雲一つない青空が広がっていた。今日はとても暖かい日で気持ちの良い風が縁側から入ってきた。
「夏子さん、イギリス海岸って知ってますか?」
「もちろん。小説も読んだことがあります。」
「今から行きませんか?」
二人は並んで歩いていたが、賢治も夏子も手を繋ぐのを躊躇っていた。気持ちの良い青空の下でお互いを求めてしまうようなそんな行為がとても恥ずかしかった。一定の距離を保ちながら、迷っていたら、もう着いてしまった。
賢治は伸びをした。
「本当に気持ちの良い日ですね。」
「はい。」
賢治は学校の先生のようにこの辺りの地層について、わかりやすく説明してくれた。夏子は地学は中学以来で、賢治の言う言葉がどれも新鮮だった。
二人は河原に腰掛けた。川では子どもたちが楽しそうにはしゃいでいた。
賢治は深く息を吐いた。そして夏子の目を真っ直ぐ見た。
「夏子さん、夏子さんが、もし、もし、この時代に残ってもいいと思うなら、わたしに夏子さんの残りの人生をくれないでしょうか。」
賢治は夏子の手を握って言った。夏子ははいと言ってしまうのを懸命に飲み込んだ。
「賢治さん、とても嬉しい。本当に嬉しい。だけど、それはできません。」
賢治は苦しい顔をしていた。
「歴史が変わってしまうからですか?」
夏子は首を横に振った。
「いいえ、わたしが賢治さんの残りの人生をもらえないからですよ。賢治さん、あなたはわたしなんかに時間を使わないで欲しい、それだけです。」
賢治はそれでも夏子の手を離さず、夏子を抱き寄せようとした。しかし、夏子はそれを拒んだ。賢治は本当に苦しそうに、そうですか。と言った。
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