夏子の夢
その日の布団の中で夏子は賢治の唇を思い出していた。心臓が久々にドキドキと胸を打っていた。そして、政次郎さんの言葉もそれを後押ししていた。40も過ぎて何をやっているのか。自分より15も若い男性を。夏子は頭がぐるぐるしてなかなか寝付けなかった。
夢の中、夏子は縁側に座っていた。賢治は何やら畑の土の様子を調べている。夏子が呼びかけた。賢治は夏子の横に腰かけた。
「なにを調べていたんですか?」
「土が酸性になってないか調べていたんですよ。」
言って、賢治はあっとした顔になった。
「酸性って言ってもわからないですよね。」
夏子はふっと吹き出した。
「こう見えてもわたし、未来では大学で化学を専攻していましてね。宮沢さんよりわかるんじゃないかしら。」
「未来では女性も大学へ行けるのですか。日本も変わるんですな。」
賢治は感心したように、そして嬉しそうに言った。
それから二人は化学についても語り合った。夏子が様々な未来に開発された肥料や東北で取れる野菜のことなど話すと賢治は目をキラキラさせた。
「この化学式はどうも書かないと理解ができない、ノートを持ってきます。」
賢治はノートと鉛筆を夏子に渡した。夏子が鉛筆を走らせると賢治は顔を近づけてきた。夏子は急に賢治の顔を見た。もうダメだ。夏子は賢治の顔を両手でそっと包むと、その柔らかい唇に自分の唇を近づいていった。
そこで目が覚めた。久しぶりの感覚が身体を包んでいた。もう帰らないと。夏子はとても不安な気持ちに駆られた。
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