生きる希望

 夏子は本棚の蓋を開けて、中の本を全て取り出した。奥の方に宮沢賢治の青い本たちが押し込まれていた。夏子は本を手に取り、優しく撫でた。今は、そんなこと気にしたことがバカバカしく思える。気持ち悪い?それがなんだ。そんなことで宮沢賢治の素晴らしさが無くなるわけじゃないのに。それに、本当に可哀想なのは、その子だと、今の夏子ならわかった。その子は羨ましかったんだ。熱中できるものがあり、成績も良かった夏子が。ともあれ、忙しさもあってか、夏子はあれほど好きだった宮沢賢治からすっかり遠ざかっていた。 

 その夜、夏子は夢中で宮沢賢治の本を読んだ。感動は昔のままだった。 

 翌朝、ベッドの上で照明を見つめて考えた。もし、タイムトラベルが可能になったら、宮沢賢治に会えるかもしれない。夏子の心にぽっと光がともった。

 その日から夏子は人が変わったように明るくなった。会社に新しい仕事を紹介してもらい、病気とも上手く付き合っていった。その不確かな希望が夏子に命を吹き込んでくれたのだった。

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