飲み会
大学3年の夏休み、ゼミでバラバラになる前に学年で飲み会をしようと言うことになった。夏子は飲み会が苦手で、いつも黙ってみんなが騒いでいるのを見て、ひとりお酒を飲んでいた。だから、その飲み会にも参加するか迷っていた。しかし、ある日、サークルの帰り道、夏子は少し気になっていた男子に話しかけられた。その子は良くはわからないが3年になってからいつも夏子の好きな宮沢賢治の詩集を机の上に置いていた。
「山本さん飲み会いくの?おれ、山本さんが参加するなら行こうかなって思ってて。」夏子は初めて男の人にそんなことを言われた。夏子は混乱した。そして、なんで宮沢賢治の詩集を置いているのか聞いた。その子は宮沢賢治の詩集の好きなところを話してくれた。夏子はダムが決壊したように宮沢賢治について話しだした。その子は夏子の話を黙って聞いてくれた。気がついたら、夏子は飲み会に行くと言っていた。
飲み会の日。夏子の人生で最悪な日。しばらくの間、その日のことを思い出すと夏子は吐き気が止まらなかった。
その日、その男子は夏子の隣に座って夏子に話しかけた。
「山本さん、宮沢賢治のこと本当に好きなんだね。」
てっきり夏子はまたその子が宮沢賢治について話してくれるのだと思った。しかし、そいつはニヤとして、
「妄想でしか男と関われないとかマジないわ。キモ。」
と言った。周りの人は笑うしかなかったのか、苦笑いしていた。
そいつはそれから学校に来なくなった。なぜかはわからない。あとで一緒のゼミの男子がそいつがいつも夏子を馬鹿にして、話のネタにしていたことを教えてくれた。みんな最低だと思っていたらしい。消えた理由もそこにあるのだろう。しかし、だからといって、夏子の気持ちはズタズタでもう元には戻らなかった。それから、宮沢賢治のことは心の奥の方にしまい込んだ。
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