#012 木製の恋人
「久しぶりだな、友よ!」
と彼は大きな声で私を迎え、ガチャンとグラスを合わせながらエールを喉に流し込んだ。
「うまいじゃないか!これが故郷の味だ」と言い、彼はグラスから口を離さず、アクが強い酒を啜り続けた。
「おいおい、ゆっくり飲めよ」と私は言いながら、テーブルに置かれた山羊肉のシチューを口に運んだ。
「さて、今回の旅はずいぶんと長かったろう?面白い話を聞かせてくれ」と促した。
「ああ、長かった」と彼は酒で少し頬を赤らめながら言った。
「東の地で珍しい品々を仕入れ、それを北の国々で売り払ったんだ。船で南の海を回り、陸路で東へ向かった。道中は災難もあったがな...」と彼は危険な遭遇や出会った人々、そして滑稽な出来事など、様々な体験を面白おかしく語り始めた。私も興味津々で質問を投げかけ、話は盛り上がった。
やがて酔いも回った頃、彼は不思議な体験について話し始めた。
「ある谷間の村でこんな出来事があってな...」と切り出した。
ある日のこと、彼は村外れの小道を歩いていた。風は穏やかで、空は高く澄んでいた。すると目に入ったのが、一軒の古びた木工所だった。扉は半開きで、中が見渡せた。好奇心に駆られ、彼はその扉を押し開けた。
中は時が止まったかのような静けさが広がっていた。そして部屋の中心に、美しい木製の乙女が佇んでいた。まるで生きているかのような造形に、思わず「こんにちは」と声をかけた。
すると彼女は、まるで生きているかのように微笑んで答えた。
「ようこそ、旅人よ。私はこの工房の守り人です」と彼女は言った。
彼は驚きを隠せなかった。彼女は人形なのに、話すことができた。
「守り人?」と彼は尋ねた。
「そう、守り人です」と乙女は優しく答えた。
「あなたは人形なのに、どうして話せるのですか?」と彼が尋ねると、彼女は美しい口調で工房の物語を語り始めた。
この木工所は代々、人形作りの名家として知られていた。最期の職人は、かつて木彫りの腕前に長けていたが、近年は老いと共に衰えを隠せなくなっていた。
しかし、老人はひと際の思いを人形に寄せ、最後の力を振り絞って彼女を彫り上げた。見る者全てを魅了する美しい形体に、老人は我が生涯最高の傑作と呼んでいた。
そして最期の時が来た。老いぼれた職人は、人形に生命を吹き込むように願った。「生きろ、私の希望を託す」というのが老人の最後の言葉だった。すると人形はまばたきを始め、実際に生命を宿した。
「それ以来、私はこの谷間で、やってくる旅人を出迎え、この工房を守り続けています。この地を離れれば、私は再び木製の無生物となってしまうからです」と彼女は語った。
彼は彼女の話に夢中になり、心を打たれた。そして数日間、彼女と時間を過ごした。
彼女の温かさと気品に触れるうちに、彼の心は深く打ち解けた。
しかし、ついに彼は旅立たねばならなくなった。工房を後にする時、彼女は微笑んでこう言った。
「ありがとう、旅人よ。私の存在を知ってもらえて、嬉しかった。私はこの地で、また会える日を永遠に待っています」
村へ戻ると、彼は不思議な人形に出会った話をした。人々は彼女を「木製の恋人」と呼び、大切にしているそうだ。
「どうだった?信じられない話だったろう?」と彼は私に尋ねた。
私は小さく頷いた。
「いつかまた会いに行きたいよ」と彼は言い、グラスをじっと見つめながら、恋人に思いを馳せているようだった。
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