第4話 雪兎先輩
その日の放課後。
俺と吉野と春ちゃん先生は早速、サッカー部再建の計画を練るために、部室に訪れていた。
「ここに入るのも久しぶりだな」
吉野が、そう言いながら部室の扉を開ける。
部室には来たが今日は、練習はしない。
サッカー部再建の景気付けということで、まずは部室の大掃除をすることにした。ジャージに着替え、箒やら雑巾やらを持って長年の汚れを払い落とす。
「けっこう汚れてんな~」
「最後に掃除したのって、多分一年以上前になるかな」
「マジかよ。じゃあ、綺麗にしないとだな」
俺は腕まくりをして、雑巾を絞って、窓から拭いていった。
三人とも、しばらく黙々と掃除をしている。それなりに綺麗になった所で、机と椅子、ホワイトボードを引っ張り出して、サッカー部再建の作戦会議を開始することにした。
「じゃあ、サッカー部再建のために、まずは何をするべきか、だな。何か、意見は?」
春ちゃん先生がホワイトボードに「サッカー部再建計画」と書き、俺達に意見を求める。
「まずは、部員を集めることですね……」
「だよな」
「やっぱりな」
「そうだよね~」
「……って、雪兎先輩じゃないですかっ! 何でここにっ⁉ ていうか、いつの間にっ⁉」
その雪兎先輩とやらは、忍者のごとく気配をほとんど感じさせずに、俺の隣に座っていた。
「ここに来たのは、ついさっきだよ。春ちゃんから『あの吉野に、ついに友達が出来た!』っていう喜びの電話が来たから、その友達君を見に来たの~」
俺と目を合わせて、ニッコリと笑う雪兎先輩。その笑顔につられて、俺も微笑み返す。
「君が吉野の友達君だね?」
「はい、長月結弦です」
「僕は冬月雪兎だよぉ。吉野の憧れの先輩でぇす」
「憧れの、ねえ……」
「ああ、変な意味じゃないよ。それに、サッカープレイヤーとしては憧れるけど、普段のこの人には失望しまくってるよ」
「え~、ひっどいなぁ、吉野」
優しい吉野が失望するほどの先輩って、何やらかしたんだ、この人。
「ええっと、先輩ってことは、このサッカー部のOBってことですか?」
「そうそう。僕と春ちゃんと、その他愉快な仲間達は、七年前に全国優勝をした、モノスゴいOB様なのだ~」
「えっ、全国優勝⁉ ここのサッカー部って、そんなにスゴかったの⁉ ていうか、先生も全国出場者⁉ スッゲー!」
それは初耳だぞ。
「キセキの世代って呼ばれてたしね」
「あなた達はサッカーで全国制覇した人達ですよね?」
「そうだけど」
「本当に、そう呼ばれてたんですか?」
「さあ、俺は聞いたことないけど……」
「雪兎先輩が勝手に言ってるだけじゃないですか」
「そんなことないよん。きっと影では皆そう呼んでくれていたって」
「推測でしかない!」
「でも、あの全国優勝は、やっぱり奇跡だったと俺は思うんだ」
遠い過去に思いを馳せるように、春ちゃん先生は言う。
「まあ、あの時の僕達よりも、今の君達が全国行く方がスゴイと思うけどね。超奇跡って感じ」
「あ、別に、俺は全国なんて目指してないですよ」
「えっ、目指してないの⁉」
「目指してないよ。俺は兎に角、サッカー部をちゃんと再建して、大会にも出れるようにして、それでそれなりに勝てるようになればいいと思ってる。……それ以上ははっきり言って、俺達の代じゃ無理だ」
「現実的だな、吉野は。目標はデッカく持とうぜ」
これがドラマだったら全国行くのが普通だ。
たとえ全国に行けなくても、目指すくらいはしてもいいだろう。
俺が、こっそり天使パワーを使って手助けしてやるのもいいかもしれないけど、それで優勝してもなあ……。フェアじゃないよな。
有明吉野、青春ミッション、サッカー部のサクセススト―リーは本人が現実を見過ぎているせいで頓挫しそうだ。
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