長月結弦は天使である。

第1話 転校生

 俺の任務はとても変わっている。

 とある少年に青春を味わわせてやること。

 他の天使のように一緒に冒険したり、幽霊や悪魔退治をすることではない。

 このことを最初に聞いた時は「マジか」と思った。

 天界は暇なのではあるまいか。

「ユイさん、俺の任務、何か変じゃないすか。何すか、青春って」

 俺は上司でもあるユイさんに愚痴る。

「青春、それは青い春。若さで何とでもなる時代のこと」

「いや、意味を聞いてるんじゃなくて」

「ユヅル君、君はまだ学生でしょ。幽霊退治とかは一旦置いておいて、若いうちにしかできないことをしてくるの。まあ私からのプレゼントだと思って、気楽にやっておいでよ」



 という訳で、俺は私立毬藻高校という変な名前の高校に夏休み明けに編入し、ターゲットと同じクラスになった。

 女顔の薄桜 春はくおう しゅんという先生に転校生として紹介される。

長月結弦ながつき ゆづるです。宮城から来ました。前の高校では色んな部活の助っ人みたいなことをしてて、スポーツはだいたい出来るので、良かったら今度一緒にやりましょう。学校のことも寮のこともまだ何も分からないので、気軽に話しかけて、俺に色々と教えて下さい」

 宮城から来たことも、色んな部活の助っ人をやっていたことも本当だ。掴みは上々、あとはターゲットと、どう近付きになるかだ。

 ターゲットの名前は有明 吉野ありあけ よしの

 運良く隣の席になり、早速あいさつをする。

「よろしくな、吉野」

 いきなり下の名前呼びで親しさアピールだ。

「ああ、うん」

 その後は始業式と簡単なホームルームをやって、夏休み明け最初の学校は終わった。


 俺は吉野に付いて行って寮へ向かった。

 吉野と同じ寮生活をすることになったのだ。

 ここでも運が良いことに同じ部屋だ。

 荷物を運び入れていると吉野も手伝ってくれた。良い奴だ。

「せっかく同じ部屋なんだし、色々と語ろうぜ、吉野」

「別に、特に語ることもないだろ」

「いやいや、あるぜ。お互いのこと、まだ全然知らないだろ。自己紹介も兼ねてさ。これから仲良くやっていくんだから」

 天界から与えられた情報は「有明吉野」という名前と通っている学校、クラスくらいだった。

「いいよ。テキトーに質問してくれれば、答えるから」

「テキトーって……。まあいいか。じゃあ、趣味は?」

「サッカー」

「へえ、サッカーか。あ、もしかして、サッカー部?」

「まあ、そうだけど……」

「俺もサッカー部だった時期があるんだよ。助っ人によく呼ばれてさ。けっこう楽しいよな、サッカー」

「うん、まあ……」

「吉野の方から、俺に質問ってないの?」

「俺の方から? ……えっと、長月は何で、この学校に来ようと思ったんだ?」

「何となく。名前が面白かったし。あ、あと、寮生活って何か楽しそうだったし」

 お前がいるから、という本当のことは言えないのでテキトーに誤魔化す。

「あ、そういえば、俺のことは結弦でいいよ。ルームメイトなんだしさ、仲良くしようぜ」

「ゆづ……」

おっ、名前で呼ぼうとして、止めた。

「やっぱ長月のままでいいよ。その方が呼びやすいし」

「え~、結弦の方が呼びやすいだろ」

「俺は長月の方が呼びやすいの」

「何でだよ」

 変に意地を張っている。

 こうなったら早めに結弦呼びにさせてやる。



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