第34話 女子トークにて

 放課後の教室。窓際にある康一の席に座り、反対側の校舎にある会議室をじっと見つめる。その部屋はびっしりとカーテンで閉ざされており、外からは見えないようになっている。


 本当なら私があの場に居たかったのに……はやく帰ってこないかなぁ………




「みなさ~ん……見えますかぁ???あれが彼氏の席に座って黄昏てる明日香で~す…」


「かわいいですね~………」


「……………………」


 クラスメイトは全員帰ったと思ったのに後ろの扉の方からうざったい女子ふたりのわざとらしいヒソヒソ声が聞こえてきた。


「なにしてるんですかね~……?」


「さぁ…???会議中の彼氏の事が気になるんですかねぇ……???」


「あのさぁ…………」


 このまま無視してもめんどくさいので仕方なくふたりに声をかける。


「なにかな???」


「それやめて。ムカつく」


「なんと恐ろしい…昔の優しくてかわいい明日香はどこにいったのでしょうか……」


「恋が明日香を変えたんだよ……ね???」


「マジでうっっっざい……」


「ごめんごめんw」


「でもそんな怖い顔してたら彼氏に嫌われちゃうよ???」


「……康一ならこんな顔でもかわいいって言ってくれますぅ」


「「ふぅ~~~」」


 友人達とふざけあう。これは康一と付き合ってから変わった関係のひとつだ。今まではどこか距離があるような間柄だった私達だったが、私と康一が付き合ってるってなった途端にグイグイと絡みにきた。

 曰く、「明日香って普通に恋とかするんだ!なんか親近感わいてきた!」だそう。失礼な。



「でもそんなラブラブな綾瀬くんと離れ離れで寂しいねぇ???」


 この常に人を小馬鹿にしてるみたいな喋り方をしてるのは樋野恵ひのめぐみ。康一との関係がバレてから真っ先に私をイジってきたノンデリガール。

 ちなみに他校にいる彼氏の前では小動物のようになるらしい。一度見てみたいものだ。


「ホントは私があそこに居たはずなのにぃ…なんで早稀がぁ……ってことかな?」


 そんな恵の隣にいるのは速水夏菜はやみかな。黒髪ロングで普段は静かなタイプなのだが、恵や早稀と合わさると途端にうるさくなる。その場に応じてテンションを上げ下げするカメレオンみたいな女子。


 ……ちなみに海藤の元カノのひとり。


「…………嫉妬とかしませんしぃ?」


「そうだよね???文化祭で実行委員したから修学旅行はさせてもらえなかったくらいで拗ねないよねぇ???」


「てか早稀もわざとやったよねw綾っちが立候補したのにも驚いたけど……山先からダメって言われた時の明日香の顔www」


「……………あんたらねぇ」




 そう。なんと康一が自ら修学旅行の実行委員に立候補。最近までそんな話してなかったのに私にも言わずに頑張ろうとしてた。

 だから私も?仕方なく??サポートしてあげようかなって思ったんだけど???


「瀬名は文化祭でやっただろ。ダメだ」


「そんなぁ!!?」


 担任の山口先生に却下され、私が説得を試みる前にその席を奪い取るかのように早稀が猛スピードで名乗りを上げ、そのまま実行委員になってしまった。




「まぁまぁ。そんなことはともかく。暇なんでしょ???お話しようぜ」


「はいはい……」


 私の前に恵。右前の席に夏菜が座り、ニヤニヤと前のめりになってこちらを見てきていた。


「…………ぶっちゃけさ。ぶっちゃけね?どうなの?」


「……なにが?」


 夏菜が少し恥ずかしそうに尋ねてきた。一体何の話を……


「えっちしたの???」


「ブフッ!!!!!?」


 照れている夏菜を横目に恵は全力でアクセルを踏んだ。おかげで完全な不意打ちをくらい、吹き出してしまった。


「……恵。もうちょっとオブラートに包むとかさぁ」


「いつ会議が終わるかも分からないんだ。なら恥ずかしがってる場合じゃないんだよ夏菜隊員」


「……なるほど!」


「で、どうなの???したの???」


「そ、それは…………」


 なんと返したものかと悩んでしまう。そもそもこの反応でバレているだろうが、そこが問題じゃない。


「なになに?私達には聞いといて自分の番になったらだんまりかぁ?」


「それは良くないですな~???」


「ぐぬぬ…………」



 ……ごめん康一。嘘つくけど許して!


「……ま、まぁ?康一がどうしてもって言うから?」


「あらあら~綾瀬くんも狼なんですな~」


「あの草食男子も明日香のボリューム満点おっぱいの前には流石に我慢できないかぁ」


「う、うん…………」


 ごめん………でも流石に私から襲いましたなんて恥ずかしくて言えないんです……しかも付き合う前にとか……ごめんなさい…


「で???感想は???」


「………まあまあ?」


「そんなもんだよねぇ……しかも綾っち絶対童貞じゃん?痛かったでしょ?」


「す、少しはね………」



 やばいなにこれめっちゃ恥ずかしい。皆こんな話をさも当たり前のようにしてたけど、どういうメンタルしてるわけ?


「じゃあずばり~どんくらい???」


 そう言い出すと恵は私の筆箱から定規を取り出すと、縦にした。


「どんくらいって……」


「おちんちん!」


「「だからぁ!!!」」


 あまりに隠す気のない恵に夏菜とふたりでツッコミをいれる。私達しかいないとはいえアクセルベタ踏みしすぎだ。


「でも明日香ってハッキリ言わないと誤魔化すじゃん。そんなめんどくさい時間はわたしたちにはないんだよ」


「……たしかに!」


「あのさぁ……流石にそれは………」


 康一のプライバシーに関わる問題だし、そんなおいそれと言えるわけは……



「ちなみにわたしの彼氏はこんくらい!」


 恵は13cmの辺りを指差してドヤ顔していた。


「平均じゃん。なにドヤってんの」



 ………え???へい…きん??



「イケメンで優しいからお釣りがくるんだよぉ~そういう海藤くんのはどうだったんだい???」


「あー……アイツは論外。多分10もない。そのくせ乱暴だからマジで最悪」


「へ、へー………」



 まって。ちょっとまって。

 確かに大きいなとは思ってたよ?

 でも漫画とか動画だとあのくらいだったし…普通だと思ってたんだけど……



「で???綾瀬くんは???」


「…………普通くらい?」


「こりゃちっちゃいなw」


「まぁ見た目どおりだねwww」



 言えない………ホントはその15cm定規よりおっきいとか………でも私は嘘ついたわけじゃないし……ホントに普通だと思ってたし……


「でもえっちなんて愛だからね。大きさなんてあんまり関係ないんだよ???」


「そうそう。これからこれから」


「あ、あはは………」



 もう無理。耐えられない。

 早く帰ってきて……



「お疲れさまでーす!」


 ふたりから謎の慰めを受けていると、元気な声が教室に響き渡った。


「おっつー早稀~」


「あれ?なんでふたりが居るの?」


 この一際声のでかい女子は高尾早稀たかおさき。ポニーテールの女子バスケ部。完全な陽の固まりみたいな女子。


 そして康一の隣を奪った女。


「明日香が暇そうだったからさ。女子トークしてたの」


「えー私も聞きたかった!」


「とりあえずわたしたちは帰ろうぜぇ。王子様のお迎えが来たからよぉ」


「はいはーい」


「私も部活行く!じゃあね康一くん!!」


 そそくさと教室から出ていく3人と入れ替わるように康一がやってきた。嵐みたいな勢いの3人に気圧されて何も言えなくなっていた。


「………楽しそうですね」


「うるさいだけ…楽しいのも事実だけど」


 急に静かになった教室でふたりっきりになる。康一は私の方を見ながらどうしたものかと悩んでいた。


「……なにしてんの?」


「いやその……そこ僕の席です」


「……あ、そっかw」


 机の引き出しの中にはまだ色んな教材やらなにやらが入ったままだった。つまり私がいる限り邪魔で片付けらないといった所だろう。

 なので、私は康一の机にわざと突っ伏してやった。


「…………どかしてみろ」


「…………分かりました」



 この後結局康一のテクによって席を取り返された訳だけど………楽しかったからよし!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る