第35話 班決めにて
「――――では、修学旅行での班決めをしていきたいと思うのですが…目安を6人として自由に組んでください」
「結構適当でいいらしいよ!男女も自由だし、7人とか8人、5人とかでも許されるって!てなわけで今から決めちゃって~」
僕らふたりの説明を受け、クラスメイトが続々と席を立ち、班を決め始めた。
その様子を見ながら僕は胸を撫で下ろしていると、隣の高尾さんから脇腹を小突かれた。
「いいじゃん。成長してきたね」
「……ありがとうございます」
実行委員になってからというもの、高尾さんには助けてもらってばかりだった。委員会議とかでも僕の変わりに発言をしてくれたし、ずっと「自信もって!ね!」って励ましてくれた。おかげでクラスメイトの前に立ってスムーズに説明を終えることが出来た。
「………そんな見つめられても困るよ?康一くんにはお姫様がいるでしょ?」
そんなつもりはなかったのだが……高尾さんがクイクイっと指を差した先には膨れっ面の明日香がいた。
「…………フン!」ぷいっ
「はい怒らせたー。ほら謝ってきなー」
「……行ってきます」
ここ最近僕が高尾さんと仕事の話をしている時でも明日香は不満そうな顔をしていた。その度に高尾さんが気を使ってくれている。
そうして明日香の元へ行き、ずっと決めていた事を提案した。
「もう班は決まってますか?」
「………私は決まってないけど?」
「僕もです。よければどうですか??」
「…………早稀といればいいじゃん」
「明日香がいいんです」
「…………あっそ」
明日香は決して顔を合わせてくれなかったが、その頬は明らかに赤くなっていた。
というわけで後4人…1人は決まってる。
「矢野。どう?」
「………橘でも誘えば????」
「お前までどうした……」
矢野に声をかけると、なぜかこっちもめんどくさくなっていた。
「別に?俺は?中学で同じだっただけで親友枠にいるだけですけど??」
「何言ってんだ……?」
「普通はさぁ!もっとさぁ!俺にもおこぼれがあるもんだよなぁ!」
「おこぼれて……僕の親友は矢野だけだよ。今んとこは」
「……それが瀬名さんを落とした口説きテクニックですか。なるほどなるほど?」
「嫌な言い方すんなよ…」
変に拗れている矢野をどうにか説得しようとしていると、どこからともなく女子がかけよってきた。
「綾瀬くん!わたしたちも班に入れてよ!」
声をかけてきたのは明日香の友達でもある樋野さん。その隣には呆れている顔をした速水さんもいた。
「ごめんね綾っち。いきなりで」
「僕はいいんですけど……その…」
「はぁぁぁぁぁ……」
この様子を見ていた矢野は更に深い溜め息をついていた。
「ん???どしたの矢野くん???」
「いや…俺だけ浮くなぁって」
「……そうはならんくない???」
「……え?」
樋野さんは矢野の机に腰掛け、わざとらしいあざとい声を出した。
「だってぇ…綾瀬くんは明日香とデートするじゃん???そこを邪魔する我々ではないのさ。となれば………残りのわたしたちをぉ……誰が相手してくれるのかなぁ???」
「……マジっすか」
「マジマジ。夏菜もいいでしょ???男いるくらい」
「私はいいんだけど…恵は彼氏いるじゃん。なに言われても知らないよ?」
「ダイジョブダイジョブ。言わなきゃバレないしぃ…こんくらいで嫉妬する人じゃないもん」
「………マジかぁ」
なにやら矢野の顔がだんだんとニヤケ出した。分かりやすい奴だなホントに。
「え、なに?みんな康一くんの班になるの?ズルい!私も!」
遅れてやってきた高尾さんも話に加わってきた。
「だ、そうだよ矢野くん???女子3人侍らせての修学旅行…楽しそうじゃない???」
「最高っす!!」
「ちょっと隠してくれよ……」
「俺……お前の親友で良かったわ」
「……僕は少し後悔してるけどな」
あまりに欲望が駄々漏れの矢野に頭を抱える。たしかにこんな可愛い女子達と修学旅行するなんて一生の思い出になるだろうが……
「……………………」
矢野と女子3人が親睦を深めているのを見ていると、後ろから殺意の込められた視線を向けられているのにやっと気づいた。
「……………………」
「……違います。羨ましくないです」
「………………康一の本棚。女の子がいっぱいの漫画ばっかだった」
「…………あれはその…」
「……………ふんっ」
「……いやでも逆に明日香に似てる漫画でも困りません?」
「……それはそうw」
こうして紆余曲折ありながらも、修学旅行に向けての準備は少しずつと進んでいくのだった。
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