第32話 ショッピングにて―1

 康一が私との関係を隠さなくなってからしばらくが経った。最初こそ周りからはつつかれたが、最近では友人達以外にはからかわれることは無くなった。話題に飽きたってのもあるだろうけど、それ以上に康一が堂々としているのもあると思う。


 そんなこんなで今は中間のテスト期間。私の部屋で康一とテスト勉強をしている最中だ。


「テスト終わったらさ、久しぶりにデート行こうよ」


「………具体的にはいつですか?」


「そうだなぁ…土曜とか?」


「土曜………てことは19日…………」


 珍しくデートのお誘いをすぐに受けてくれない康一。スマホを確認して頭を悩ませていた。


「その日は……ちょっと予定が………」


「あ、そう?」


「すいません……」


「いやいやw先約があるなら仕方ないってw」


 なぜか申し訳なさそうにしている康一。康一にも色々あるのは分かってる。だからいちいち言及するのも野暮ってものだ。



 というわけでデートの日程は他の日にずらし、なんやかんやとテスト期間も終わり、例の土曜日を迎えた。


 家に居るのも暇だったので、康一との初デートをした時にやってきた大きなショッピングモールへと買い物をしにきた。もうすぐ修学旅行だし、今のうちに揃えられるものは揃えておかないと。


 適当にぶらつきつつ、買い物を楽しんでいたその時、アクセサリーのお店で見覚えのあるふたり組を見かけた。


 そのふたりは何やら楽しそうに商品を物色しており、まるでデ………



「こんにちは」


「うぉっはぃ!!?」


 ふたりに気を取られていると、突然前方から声をかけられ、目の前には必死に笑いをこらえている橘がいた。


「っwごめんww」


「………笑うな」


「いやw仕方ないでしょ………ww」

「………で、奇遇だね。お買い物?」


「……そうだったんだけど」


「だけど?」


 ふたりにバレないように一旦対面の洋服屋に橘を連れて身を隠し、ふたりを指差した。


「あれは楠根さんと……まさか綾瀬くん?」


「そう」


「へー……学校以外だとイケイケなんだね」


「そんなことはどうでもいいの」

「問題は何してるのかってこと」


「たまたまじゃない?俺らみたいに」


「康一がひとりでこんなとこ来るわけない」


「なんか変な信頼の仕方してるね……」


 だとすれば康一の今日の予定とは茉莉と遊ぶことだったのだろう。それ自体はいい。正直未だに康一の趣味にはついていけない時もある。でも茉莉なら話も弾むだろうし、そもそも既に何回かふたりで遊んでいる。


 問題は!!私に言ってないこと!!!


 茉莉と遊びに行くときは絶対私に報告してくれてた。茉莉も連絡くれてたし、わざわざ隠してなかった。


 でも今回は隠した!!!つまりやましいことがあるってわけ!!!


「………面白い顔してるね」


「してない」


「多分瀬名さんが想像してる事じゃないから大丈夫だよきっと」


「別に疑ってないし……てか『さん』付けしなくていいよ。呼び捨てでいいから」


「そう?ならあす――」


「名字ね?」


「はい………」


 ちゃっかり名前で呼ぼうとしてきたのでやめさせる。昔は気にしなかったが彼氏が出来てからなんだか嫌になった。あんまり康一以外に呼ばれたくない。


「で?橘的にはなんだと思うわけ?」


「………………秘密」


「なにそれ」


「まぁまぁ。それよりほら、次行くみたいだよ」


 明らかに何かを誤魔化してる橘から言われて気づく。結局ふたりは何も買わずに店を出ていった。


「よし行くよ」


「いってらっしゃい」


「なに言ってんのあんたも気になるでしょ?」


「……はいはい最後まで付き合いますよ」


 少し不満そうな橘を連れ、ふたりを尾行することにした。

 その後ふたりが訪れたのは他のアクセサリーショップやら、財布の店やら、洋服やら…あんまりふたりらしくない場所ばかり巡っていた。

 どれも茉莉の趣味に合うような物でもないし、康一がよりオシャレに目覚めたという可能性もあるが女物ばっかりな気がする。


「なにしてんだろ………買うわけでもないし……」


「なんだろうねー」


 橘に話を振ってもまともに返してくれない。さっきの口ぶりといい何かを知っていそうだ。まさか共犯か??


「今のうちに白状した方が身のためだよ?」


「本当に何も知らないってw」


 その後もうろちょろとショッピングモールを回り、ふたりはフードコートへと足を運んでいた。

 私達もなるべく観察しやすい位置に陣取り、張り込みを続けた。



「俺達も何か食べる?奢ろうか?」


「いや、1000円貸してあげるからタピオカ買ってきて。橘の分もあげる」


「……了解。味は?」


「当然ミルクティー」


「はいはーい」


 とりあえず橘に買い出しは任せ、私はずっとふたりを見ていた。


 康一は何を食べるわけでもなく、茉莉がハンバーガーを美味しそうに食べてるのをずっと見ていた。


 すると茉莉はポテトを手に持ち、康一の口へと………って!それはダメでしょ!


 ついに我慢できなくなった私はふたりの元へと駆け寄るのだった。






「ほれほれ~食べていいよ~」


「自分で食べますから………」


「遠慮せず~」



「ちょっと茉莉!」



 奢ってくれたお礼に康一にポテトを押し付けていると、ようやく明日香がやってきて、康一の隣の席へと座った。


「あっれ~奇遇だね~」


「明日香……なんで………」


「それはこっちのセリフなんだけど???なんで私に内緒で茉莉と遊んでるのかな??」


「それは…………えぇっと……」


 事情も事情なだけに明日香に詰め寄られて言い返せない康一。ていうか明日香もまだ分かってないらしい。自分のことなのに鈍感というか……康一が絡むと考える余裕がなくなるのかな。


 ともあれ、なんだか面白そうな予感がしてきたので康一に加勢してあげることにした。


「でもでも~それを言うなら~あのバレー部キャプテン様は一体どうしたのかなぁ??」


 さっきまで明日香が居た席でひとりポツンとタピオカと共に座っている橘くんに手を振る。すると苦笑いしながら優しく手を振り返してくれた。どうやらあっちは今日のことを既に理解しているようだった。


「アイツは…………たまたま……」


「わたし達もたまたま~……ね??」


「…………そ、そう…ですね」


 明らかに焦っている康一。これじゃあ隠し事も出来たもんじゃない。


「…………だったら、康一はひとりでわざわざ何してるの。買い物ならいくらでも付き合ってあげるのに」


「えっとぉ…………えっと…………」


「…………ダメだこりゃ」


 わたしがいくら協力しても本人がこれじゃあ意味がない。仕方ないからひとりで寂しそうなイケメンに構ってくるとしよう。


「後はふたりで解決してねー」


「ちょっと茉莉!」


「わたしもいい加減疲れたんだよ……勝手にしててよ…」



 止めてくる明日香を振りきり、ハンバーガーのセットを持って橘くんの元へと向かう。 

 橘くんはスマホを見ながら黙々とタピオカティーを飲んでいた。


「お疲れ様~」


「……その感じだと気付いてたんだ」


「当たり前じゃん。君おっきすぎw」


「それもそうだよねw瀬名には言ったんだけど聞かなくてw」


 その後、バカップルに連れ回された者同士で愚痴を言い合った。こんなことに付き合わされたこっちの身にもなってほしいものだ。


 にしてもほぼ初対面のはずなのにスラスラと話が出来る。女子とのコミュニケーションに慣れてるなこの男。さぞモテモテなのだろう。


「ところで橘くんは何してたの?ホントにたまたま?」


「そ。ここの店が品揃えいいからさ、新しいシューズでも見にきたんだけど……」


「捕まったとw」


「そういうことw」


 疲れきった顔でタピオカティーを飲む。のだが、全然進んでいない。もしかして……


「橘くんってタピオカ苦手??」


「…………好きではないかな」


「だったらなんで?」


「………奢ってくれるって言われてさ」


「そういうの断ってもいいってwほれわたしが飲んだるからw」


 まだまだ半分残っているタピオカを奪い取り、何の躊躇いもなくストローに口をつけた。


「ん~~………おいしぃ……」


「あの………それ……」


 所詮は男子。唐突な間接キッスには流石に対応出来ないようだ。


「これくらいで動揺すんなよ~童貞か~?」


「…………悪い?」


「え、マジ??彼女は???」


「……………今はいないね」


「え……わたしとかどう?お手軽だよ?」


「それ胸を張って言えること?w」


「重くなるかは君次第だから大丈夫w」



 最近明日香と康一のノロケをダブルで食らってるせいで耐えられなくなっていた。


 わたしもそろそろ彼氏欲しい!羨ましい!


「…………考えとく」


「さんきゅ」


 そうして橘くんとの親睦も深めつつ、絶賛話し合い中のバカップルの様子を見守ることにしたのだった。

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