第26話 親友の部屋にて
「矢野………僕はなんて愚かな男なんだろうな……」
「男なんて大抵愚かな生き物だぞ」
夏休みも中盤に差し掛かった頃、綾瀬が話があるからと昼間っから家にやってきた。俺の部屋に入るなり溜め息ばっかで、口を開いたかと思えばネガティブな発言ばかり。男の愚痴に付き合う趣味はないんだが、親友だから許してやろう。
「調子にのってたんだ………真剣さを無くしてた………死んだ方がマシだ………」
「そこまで落ち込むなよ………てかいい加減何があったのか教えろ」
「……………女子に嫌われた」
「瀬名さんにだろ」
「………………そうです」
今さら相手を隠そうとしたのでもうバレてるぞって伝えてやった。付き合ってるとかいう噂も流れてきてたし、クラスでの雰囲気見てりゃ近い関係ではあるんだろうなって分かった。
「なにしたんだお前……夏休み前まであんなに仲良さそうだったくせに……」
「……………実は」
「茉莉ぃ…私は女としてダメなんだぁ……」
「はいはいそんなことないよー」
花火大会の翌日。昼間から明日香が我が家に転がり込んできた。いい加減付き合ったって報告をしに惚気にきたのかなーって思ってたら明日香は見たことないくらい絶望した顔をしていた。
わたしのベッドに転がり、枕に顔を埋めながらネガティブなことばっかり呟いていた。
「なになにどうしたの?もしかして初夜失敗した?」
「ちがう…………」
「だったらなに?惚気話なら聞かないよ?」
「………………実は」
「なるほど……」
まさか綾瀬が花火大会に瀬名さんを誘ったなんて……それだけでも驚きだ。ていうか付き合ってないのかこのふたり。
「僕は瀬名さんの優しさに甘えてたんだ…それに付き合った後のことばっかり考えて…最低な男だ……」
「………まぁそれはそうかもな」
下心丸見えだったんだろうな…それで告られてもいい気はしないはずだ。
「どれだけ謝っても返信はこないし……もう終わった………2学期からいじめられるんだ……」
「どんだけ卑屈なんだよ…分からんでもないけどよ……」
「なぁるほどねぇ…」
話の流れは大体掴めた。明日香の言いたいことも分かるし、怖くなるのも分かる。
「好きな男子の気持ちを受け止められないなんて……女として失格だよ………これだけ待たせたのに……めんどくさい女だって嫌われたに決まってる……」
「まぁ……めんどくさい女なのは事実だよねぇ……」
「うぅ…………」
康一がそのくらいで今さら嫌いになるとは思えないけど……今の明日香には意味のない言葉だろうね。
「……で?綾瀬はどうしたいんだよ」
「どうって…………もう無理だよ……」
「…どうしたいんだって聞いてるんだけど?」
わざわざ俺にこんなことを話すということは心のどこかで解決したいと思っているはすだ。じゃなきゃひとりで抱え込む男だからなコイツは。
「…………仲直り…したい」
「……ならやることはひとつだろ」
綾瀬のスマホを指差し、やることを示す。
「既読はつくんだろ?だったらブロックとかはされてないはずだ。今から通話かけろ。それで全力で謝れ。俺は部屋から出てってやるから」
「いや…でも…………」
「うるせぇ。ほら早くしろ」
俺はあえて冷たく綾瀬を突き放し、部屋から出た。後はコイツの気持ち次第だ。
にしてもあの綾瀬が瀬名さんとねぇ……世の中分からないことだらけだな……
「…………俺も彼女欲しいなぁ」
「で?明日香はもう康一のことは諦めるの?」
「…………………」
返事はない。ということは諦めたくないってこと。仲直りしたいって思っているはずだ。
仕方ない……
「だったらわたしが康一と付き合うね」
「………………」
「康一もさ、無駄に待たせる女よりもすぐおっけーしてくれる女の方が好きになるに決まってるよ。今ごろ傷心してるんだろうなぁ……通話かけちゃおっかなぁ……」
「………………ゃだ」
「………弱虫の声なんて聞こえないよー」
「やだ!!!」
「あぶっ!!?」
明日香の事を煽っていたらおもいっきり枕を投げつけられた。
「あ、ごめ…………大丈夫!?」
「後でたっぷりと怒らさせてもらいます……でも今は……やることあるで…っしょ!!」
「うぶっ!!?」
お返しといわんばかりに明日香に枕を投げ返す。そのまま反撃をもらう前に立ち上がり、部屋から出る。
「アイス買ってくる。10分くらいは戻ってこないから」
「…………ありがとう」
「………帰ってきたら本当に康一に通話かけるからね」
「…………うん」
ここまで言えば明日香もなんとかするだろう。まったく……変な関係に巻き込まれた身にもなってほしいよ。
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