23~

第23話 お部屋にて

「ふっふふのふーん……」


「こら茉莉。サボんないの」


「きゅうけーいでーす」


「ったく……少しだけだからね」


 綾瀬との出会いとか、遅すぎる初恋とか、本当に色んな事があった一学期も終わり、今は夏休み真っ最中。今日は茉莉を部屋に呼んで夏休みの課題に取り組んでいた。

 だがまだ1時間しかやってないってのに茉莉は既に飽きていて、寝転がりながらスマホをいじりだした。


「………………」ポチポチ


「……………」カリカリ…


「…………んふふふw」ポチポチポチ


「………………ちょっと」


「え??wなーに?ww」


 指の動きとか茉莉の反応から誰かとやりとりしているのだろう。問題はそれが誰かってことだ。


「それ誰。見せて」


「やーだーwひみつーw」


 私に画面を見せないようにとスマホを遠ざける茉莉。その反応からやりとりしてる相手は予想がつく。


「ついこの前まで嫌いとか言ってたくせに…」


「えー?なんのことー??わかんなーいw」


「いいから!休憩終わり!スマホは没収!」


「あ、ちょっと!やだ!えっち!」


「は??なにが…………って!!?」


 強引に茉莉からスマホを取り上げると茉莉から変なことを言われる。何かと気になり画面を見てみると写真のフォルダが開かれており、際どい格好の茉莉の自撮りが何枚もあった。


「な、なななにしてんの!?ダメだよこういうの!!」


「ちがうってば~それは康一に送る用だよ~折角一番盛れてる奴送ろうと思ってたのにぃ」


「あ、それなら……って余計にダメだってば!ズルい!!もっと正々堂々と…………」


「いいんだ?正々堂々と戦っても」


「うっ…………!」


 ニヒ~って笑いながら覗き込んでくる茉莉。


「彼氏いたことない処女に、わたしが正面からの勝負で負けるとは思えないんだけど?」


「処女とか関係ないし…………てか綾瀬は私の事好きだし………」


「ふーん?…………てかさ?ずっっっっっと気になってたんだけどさ???」


「なに急に……」


「なんで付き合ってないの???」


「それは………その……」



 唐突に茉莉に確信をつかれ、言葉に詰まる。



「だって康一も明日香の事が好きじゃん?で、明日香も康一の事が好きじゃん??」

「………なにしてんの?まさかキープ??」


「そんなんじゃない……んだけど…」


 ぐいぐいと詰め寄られ、顔が熱くなる。こういう展開になるのが嫌だったから今まで誰にも言わずに誤魔化してきたのに……


「ほれほれ。正直に言わないと~…下着での自撮り送っちゃうぞ?」


「それは絶対にダメ!!」


「はいだったら白状する~。康一がかわいそうだよ~」


「………………だってぇ……」


「だって?」


 じっと覗き込んでくる茉莉。本当の事を白状するまで逃がしてくれなそうだし、本当に下着の自撮りくらい送りつけるだろう。


 ならここはもう腹をくくるしかない。



「…………茉莉がよく言ってたじゃん」

「付き合ったら……男は冷たくなるって……かわいいとか…好きとか…言ってくれなくなるって……付き合う前が一番楽しいって…」


「…………だから?」


「………………綾瀬が好きって言ってくれなくなるかもって考えたら……こわくて…だから…今の関係なら好きって言い続けてくれるのかなって………」


「ふーん………かわいそ康一。えいっ」


「ぁう…………え、ちょ、待って!」


 情けなくなっている間に茉莉からスマホを取り返され、ポチポチと操作される。


「だめ!送んないで!」


「流石にあんなの送んないよ…………あ、もっしもーし!」

「うんw……え、ダメだった?ww………うんwありがとwLINEしてたら声聞きたくなってさw…………こら照れるなw浮気か~??w」


「あわわわ………」


 茉莉が誰かと楽しそうに通話してる。多分相手は綾瀬。目の前で繰り広げられる親友と好きな人の談笑がめちゃくちゃ辛い。


「………………ね、康一。明日暇?」


「!!?」


 こちらをチラリと確認したかと思えばそんなことを提案しだした茉莉。これが経験豊富という事なのだろうか。

 私が何度も文章を書いては消し、書いては消しを繰り返してたデートのお誘いをそんな簡単にするなんて……


「なんでって………明日香がデートしたいんだってさ。……そ。デート」


「…………ぇ?」


「うん………うんw午後からなら?おっけー伝えとく~wカッコつけとくんだぞ~ww」


 私が言ってもない約束をとりつけ、通話を切ってしまった茉莉。少し不満そうな顔をしながらも再び課題に向き合い始めた。


「……頑張ってメイクしてきなよ~」


「茉莉…………ありが――」


「あ、あとこれ。どうせ持ってないだろうから。はい」


「え、うん……ありが…………ほわぁ!?」


 茉莉に感謝しようとすると、鞄から何かを取り出して手渡される。

 それはどっからどーみてもアレ。「0.01」とパッケージに書かれたアレ。


「いいいいいらないよ!!!返す!!!」


「そう?だったらわたしが康一に渡しとく」


「にゃっ………そそそそれもダメ!!」


「わがままだなぁ………ナマはダメだよ??もしもの時は言ってね?ピルあげるから」


「だからぁ…私たちはそんな関係じゃ……」


「はいはい………めんどくさいなぁ…」


 私で遊ぶのに飽きてしまったのか茉莉はひたすらに課題を解き進め、一方の私はずっっっと「0.01」の箱とにらめっこすることになるのだった。

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