第22話 夏休み前にて




 つまんない。



 好きって言ってくんない。手も繋いでくんないし、わたしに合わせて歩いてくんないし、スマホばっか見てて話してもくれない。わたしの買い物には付き合ってくれないし、ご飯だってファストフードで済ませるし、すぐホテルだなんだって言い出す。そのくせ自分だけ満足して寝るし。薬って高いんだよ。



 でも分かってる。所詮男なんてそんなもの。釣った魚にエサはやらないってやつ。



 だから明日香も騙されてるだけ。



 あんな冴えない男なんてもっと酷いに決まってる。デートだってまともに出来ないし、下心丸出しで明日香に近づいてるだけ。




 だって車道側を男が歩くなんて当たり前じゃん。わたしがご飯食べてるとこそんなにジロジロ見ないでよ。スマホでも見てなよ。「好き」とか軽々しく言わないでよ。



 ……むかつく。



 あんな奴、明日香には似合わない。明日香を幸せに出来ない。


 明日香も嫌がってるに決まってる。優しいから断れないだけなんだ。



 そうだ。そうに違いないんだ。







「茉莉~おまたせ~」


「全然!待ってないよぉ!」



 ある日の放課後、わたしは明日香にお願いされて教室にひとり残っていた。

 どうやら何か話したいことがあるらしい。仕方ないから付き合ってあげよう。


「で?なにさ話したいことって」


「えっとね…彼氏とはどうなのかなって。最近聞かないからさ」


「あー……別れたよ?」


「え!!?いつ!!?早くない!?」


「テスト前くらい……かな?」


「マジかぁ……え、何が原因?」


「色々あったけどねぇ……まずは―――」


「聞きたいことってこれかぁ」って思いながら明日香に別れた理由を話す。

 彼氏の話は明日香にすると心配されるだろうと思って黙ってた。テスト前ってこともあったし、明日香の邪魔をしたくなかった。


「すぐホテルホテル言い出すんだよぉ?そのくせへったくそだし……マジありえん」


「へ、へぇ……」


「男ってデートをホテルのための言い訳だと思ってるんだから。明日香も気を付けなよ?」


「…………肝に命じておきます」



 ホテルの話をしたら何故か明日香がしゅんってなった。こういう話は苦手じゃないはず…むしろ好きなはずなんだけど。


「そういう明日香こそどうなんだぁ?そろそろ好きな人のひとりやふたり出来たんじゃないのかぁ?」


「え??それ聞いちゃいます??えーーどうしよっかなぁーー」


「マジ?出来たん??誰!!?」


 いつもははぐらかされるのに意味深なリアクションをされる。


「特別にヒントを教えてあげよう」


「うんうん!」


「まず同じクラス」


「ほうほう!!」


 同じクラス……海藤くんは他の彼女出来たらしいし…ということはやっぱり文化祭の時のイケメン!?


「……んーで、あんまり頭は良くないかなぁ…結構鈍感でもあるし、実は話もあんまり合わないんだよねぇ」


「………それホントに好きな人?騙そうとしてない?」


 あのイケメン君かと思ったんだけど……頭良さそうだし、なんかイメージと違うかな。


「でもね……ちゃんと気持ちを言葉にしてくれるんだ。大事なとこは外さないし、なんかほっとけない感じする」


「ほぉ……なかなか良いですな…」


「ところがさぁ……最近その人のことで困ってることがあってさぁ…」


「え、なになに。まさか彼女持ち??」


「んーん。なんかねぇ……変な噂がたっててぇ」

「……私がその人の事を嫌ってる。付きまとわれて困ってるって噂が流れてるんだよねぇ」


「……………っ!!!?」



 その言葉で空気が一瞬で凍りついた。


 まるでわたしを試してるみたいな視線と言い方をしてくる明日香。

 わたしはその噂に聞き覚えがあった。というかわたしが自分で流したのだから知ってて当たり前だ。


 でも今のわたしにはそんなことよりも気になることがあった。


「明日香…なに言ってるか分かってるの?」


「ん?何が?」


「それだと……アイツの事を好きだって言ってるようなもんなんだけど………」



 そうだ。今の流れだと完全にそういう事になる。ありえない。やだ。そんなわけない。


「………そうかもね」


 だけど明日香の答えはそのとおりだってニュアンスだった。

 それを聞いたわたしは頭に血が上って、机を叩きながら叫んだ。


「なんで!!?あんな奴のどこがいいわけ!?絶対明日香には似合わないって!!」


「似合うかどうかで人と仲良くなったことは私にはないよ。それと茉莉は綾瀬のこと嫌いすぎ。そんな嫌いになる要素ある?」


「だって………良い奴な訳がないじゃん!色んな男子を見てきたわたしには分かるもん!」


「それは茉莉の付き合ってきた男子が悪い人ばっかりだったからでしょ?いい加減イケメンだからって告るのやめたほうがいいよ?」


「なっ…………!?」


 興奮しているわたしと違って冷静なままの明日香から詰められる。普段はそんな厳しいこと言わないのに……そんなにアイツの事が好きなの??


「………今回の件は私も悪いと思ってる。ずっと綾瀬との関係をはぐらかしてきたからさ」

「茉莉が心配してくれてたのも分かってる。だからごめん。本当にごめん」


 深々とわたしに頭を下げる明日香。わたしがあんな噂を流したのはそんな綺麗な理由だけじゃない。なのにそんな風に謝られると心が痛む。


「……茉莉。私は大丈夫。綾瀬も悪い男じゃない。私は綾瀬と居られることに苦痛なんて感じてない。むしろ幸せなんだよ」


「…………でもぉ…」


 うまく気持ちが言葉に出来ず、涙がこぼれる。明日香の目はすごく綺麗で、嘘はついてなかった。本当に明日香はアイツの事が好きなんだ。



 認めたくない。



 認めたくないけど………



「ごめんなさい……………」


「ん。こっちこそごめん」



 色んな感情がごちゃまぜになって、明日香に泣きながら謝ることしか出来なかった。

 明日香もそんなわたしの頭を撫でてくれながら、わたしが泣き止むのを待ってくれた。




「茉莉もさ、一回綾瀬とちゃんと話してみたら?」


「え、それはやだ」


「なんで!?」


 わたしが泣き止んだ後、明日香からそんな提案をされたがすぐに断った。


「だってぇ…ああいうナヨナヨした男タイプじゃないもん」


「ナヨナヨって……意外とちゃんとしてるってば。てか今までその感性で失敗してきたんだからさ、イケメン以外にも目を向けてこ?」


「やーだー。イケメンしか勝ーたーん」


「重症だこりゃ……仕方ない…」



 駄々をこねていると明日香は唐突にスマホをいじりだして誰かにメッセージを送り出した。


「……なにしてんの?」


「すぐ分かるよー」



「失礼します……」


 明日香の言葉通り、すぐに教室に男子がやってきた。見るからにオタク~みたいな感じでビクビクしてて……ほんっとに男らしくない。


「んじゃ、私はちょっと用事あるから。ふたりで仲良くなっててね」


「はぁ!!?」

「はい!?」


 明日香はそう言い残すと、足早に教室を後にした。



「えっと…………」


 残された男子と目が合う。無駄に目を見てくるのキモい。ホントに無理。


「…………楠根茉莉」


「……………はい」


「っ!!!!はいじゃないよ!!アンタの名前も教えろって言ってんの!!これだから陰キャは!!」


「すいません…………」


「もぉぉぉ!!謝らなくてもいいから!!ほらもっとシャキッとして!堂々と!!はいお名前なんですか!!!」


「え、あ、はい!!綾瀬康一…です!」


 変な噂を流したことを謝ろうと考えれば考えるほど言いにくくなる。そのせいで言葉もトゲトゲしくなってしまう。


「なるほど綾瀬康一くん!!ご趣味は!!」


「趣味…………えっと……ゲーム…?」


「なるほど!!!ゲーム!!いいね!」


「………………はい」


「………っだからぁ!!はいじゃないってば!!そこは『楠根さんの趣味は?』って聞くんだよ!!バカ!!!」


「…………すいません」


 なんですぐ謝るんだよこの男は!!わたしが謝りにくくなるじゃん!!!


 早く帰ってきてよ明日香ぁ!!!わたし耐えられないよぉ!!









「優~?お客さん来てるぞ~」


「あ、はい。今行きます」


 3年生が引退し、新しいキャプテンとして部活に取り組んでいた時、体育館に瀬名さんがやってきた。


「お疲れ様。新キャプテン」


「まだまだ慣れなくて大変だよ」


「ごめんけどコイツ借りてくねー」


「おいおい優!やってんな!!」

「早めに返してくださいよ明日香さんw一応それキャプテンなんでw」


「一応ってなんだ一応ってw」


「すーぐ返すから安心してw」


 そうして体育館から連れ出され、購買前のベンチで話をすることにした。


「座んないの?」


「座っちゃうと疲れがくるんだよ。だから柔軟しながらでもいい?」


「なるほど…じゃあとっとと済ませようか」


 そう言うと、さっきまでニコニコしていた瀬名さんは急に真剣な顔つきになった。


「どっからがあんたの作戦なわけ?」


 なるほど。流石にバレたか。綾瀬くんとは違って誤魔化しは効かないだろうが…なるべく頑張ってみるとしよう。


「………例の噂自体は元々あったし、それが最近酷くなったってのも俺は関係ない。むしろ俺は否定してたんだよ?」


「ふーーん。でも綾瀬に言ったらしいじゃん。この噂を流した人間は『瀬名さんが嫌がってる』って言葉の信憑性が高い奴だって」


「そうだね」


「いくら茉莉が私と仲良いって分かってるとしても、他のクラス1人の言葉であそこまで信じるわけがない。疑いはするだろうけど確信は持てないはず」


 淡々と推理を進めていく瀬名さん。その表情は真剣そのものだが、どこか楽しそうにも見える。付き合ってあげるとしよう。


「『瀬名さんが嫌がってる』って言葉の信憑性

が高い人。それって他にもいると思うんだよ」

「例えば…文化祭の時に一緒に仕事をしてた男子とかね」


「……なるほど」


「噂は女子だけじゃなくて男子にも広まってた。茉莉の影響力は正直そこまでない。でも文武両道のバレー部新キャプテン殿がその噂に乗っかったらどうなると思う?」


「…………何が言いたい?」


「つまり!真犯人はお前だ!橘優介!!」


 急に立ち上がってビシッと指を指される。やりたかったんだろうなってのが伝わってくる。


「………理屈はわかった。でも動機は?それに証拠だってないし、それじゃあ俺が犯人とは決めつけられない」


 合っているのだが、一応犯人らしく抵抗しようとすると、瀬名さんは気まずそうに呟いた。


「………………勘だよ」


「……くっwなにそれwwそこ固めてきてないの?w」


「仕方ないじゃん!そんなの分かんないだから!橘がこんなことする意味がない!」


 それほどまでに信頼されている事に嬉しく思いつつ、仕方ないので自白することにした。


「意味ならあるよ。ほら、今日の朝にも聞かれたでしょ?」


「……まさかあんた!」


「そう。『君と綾瀬くんが付き合ってる』って噂。それを広めるのが俺の真の目的」


「な……なんでそんなこと………!」


「…………あれは…先週のことだったね」


「あ、待って曲流したい」


「やだよw時間ないんだからw」


 曲を流すのを止められた瀬名さんは少しムッとした顔になりながらも俺の話をおとなしく聞くことにしてくれた。


「部活の休憩の時にさ、課題を教室に忘れたのを思い出したんだ」

「だから急いで取りに向かったんだけど…そこでとある光景を目撃してね」


「………………まさか」


「そ。惚れてた女子がクラスメイトの男子に肩を揉まれながら大声で楽しそうにイチャイチャしてる光景をね」


「………………あれはぁ…違くてぇ…」


「ビックリしたよwそのふたりが仲が良いのは分かってたけど、あれじゃあまるで付き合ってるみたいだった。てかカップルそのものだったよw」


「あぅ…………」


 俺の話を聞いている瀬名さんは顔を真っ赤にして、どんどんしおらしくなっていった。


「でもね、おかしい事があるんだ。だってその女子は誰とも付き合ってないって公言してる。なんならその男子ともただの友達。普通の関係だよって話を皆にしてたんだよね」


「………………いゃぁ」


「火のない所に煙は立たぬって言葉知ってる?そもそもの噂の元は楠根さんや俺じゃない。噂ってのはねじ曲がるもの。端から見ればあんなに仲良さそうなのに、本人から『普通の友達だよー』って言われれば当然みんな疑う」

「……正直言うと君たちは少し不釣り合いだからね。となってくれば自ずと1つの仮説にたどり着く」


「本当は嫌だけど、瀬名さんは仕方なく仲良くしてあげている。実のところは困っているってね」


「………………何が言いたいの」


 俺は仕返しと言わんばかりに瀬名さんに指を指し、結論を言い放った。


「今回の黒幕は……瀬名明日香。君だよ」


「ぐぅ…………!」


「動機は……概ね綾瀬くんとの関係を誤魔化したかったからでしょ?証拠は俺らが散々聞いてきたからね。『綾瀬とは友達!なんの関係もない!』ってね。そうしてついてきた嘘が巡り巡ってこんな事になったってわけ」


「……だとして!それがなんで橘が悪い噂を広めるって話になるの!論点が刷り変わってる!」


 さっきまでと立場が逆になった。まぁ瀬名さんもノリノリだからいいとしよう。


「んー……強いて言えば危機感を持って欲しかったからかな?」


「……危機感?」


「そう。今回の噂ってもちろん俺や楠根さんが誇張して広めた結果ってのは分かってる。でもさ、もし瀬名さん自身が綾瀬くんとの関係性を誤魔化してなかったらどうなってたと思う?」


「…………ごめんなさい」


「そゆこと。いずれは他の誰かの手によって起こってた事件だと思う。だから俺が早めに手をうったってわけ」


 まぁあわよくばって気持ちがなかったとは言わないけど……


「………でも!だからって付き合ってるって噂を流さなくてもいいじゃん!」


「…………あのさぁ、今のふたりがどういう関係かは分かんないけどさ……あれで付き合ってないは無理があるって。綾瀬くんが可哀想だよ」


「うぅ…………」


 さっきからの反応で大体察せられるが、ちゃんと両思いではあるはずだ。それで付き合ってないのは意味分からないけど。


「あとはまぁ……嫌がらせもあるよ。だってこっちの身にもなってよ。好きな女子が楽しそうに他の男子とイチャイチャしてるとこ見せつけられて…挙げ句の果てには付き合ってませんとかさ。はぁ???ってなるよ」


「だって…………綾瀬とは……」


「はいはい。だからそれやめようね。本当の事は言わなくてもいいけどさ、変な嘘はついちゃダメだよ」


「…………はい。ごめんなさい」


 赤面したまま俯く瀬名さん。そのかわいい様子をもう少し眺めていたかったがそろそろ戻らないと怒られそうだ。


「それじゃ、俺戻るね。明日ちゃんと綾瀬くんには謝っとくよ」


「はい………お手間を取らせました……」


「……っww元気だしてよwどうせ夏休み明ける頃には噂はなくなるよww」


「だといいけど……」


「それかこの夏で事実にしてもいいんじゃない?w」


「うっっっっざ…………」



 とりあえず言いたいことは言ったので、瀬名さんを残して体育館へと戻ることにしたのだった。









「はぁぁぁ……」


 橘に文句を言いにいくつもりが見事に反撃されてしまった。

 正直今回の原因が私にあるのは薄々気づいてた。だから自然消滅するのを待ちたかったんだけど……見事に橘に阻止されてしまった。

 これからしばらくは皆に弄られるんだろうなって思い、溜め息をつきながら茉莉と綾瀬がいる教室に戻る。


 今ごろふたりはどうなったのだろうか。仲良くなる……訳はないか。気まずい感じになってるに違いない。少しでも茉莉の綾瀬への偏見がなくなればそれで………





「え、康一はさ、誰が推しなん??」


「僕は…ハヤテさんとか見てます。切り抜きばっかりですけど」


「マジ!?わたしも!!イケメンだしぃ!声もかっこいいよねぇ!!!配信も見てよぉ!めちゃおもろいよ!!ほらほら!このアーカイブとかオススメ!」


「あの…近いです……」


「これくらい普通だって~!ほらほらイヤホンも貸したげる!明日香帰ってくるまで見てようよ!」




「……茉莉さん????」



 あまりの衝撃にしばらく呆然とし、声をかけた。

 何がどうなってこうなっている?なんで机くっつけて話してんの??てか距離近すぎない?は???なに???浮気?????


「あ、おっかえり!もう少し遅くても良かったのに~ねぇ康一!!」


「違うんです違うんですお願いします本当に違うんです!」


 すっごい楽しそうな茉莉とは違って焦りまくっている綾瀬。そこから大体の想像はつく。どうせ茉莉がイケイケモードに入ったのだろう。こうなるとめんどくさい子だ。


 だが問題はそこじゃない!!


「あのさ茉莉。さっきまで『イケメンしか勝たん!』とか言ってなかった?」


「え?言ってないよ?てかそれって康一に失礼じゃない?酷いこと言うね明日香ってば…大丈夫だよ康一!わたしは好きだから!」


「なっ!!?」


「違うんです……ほんとに……」


 見せつけるかのようにさらに綾瀬に近づく茉莉。てか綾瀬も綾瀬で強引に引き剥がしなよ!!しれっと堪能してるでしょ!変態!!


「ちょっと待って茉莉。一回離れて。お願いだから一回離れて!!」


「仲良くなって~って言ったのは明日香だよ?これがわたしなりの仲良しだよぉ」


「ダメっだってば!!!綾瀬も!!離れて!!怒るよ!!!」


「もう怒ってんじゃ~ん。顔怖いよ~」


「うるさい!!いいから綾瀬!こっち!!」


 固まってしまっている綾瀬を引っ張り、茉莉から隠すように私の後ろに立たせる。


「……なんのつもりかな茉莉さんや」


「別にぃ?ただ話してみたら意外と話があってさぁ?」

「ほら明日香は見ないって言ってたけどさ、わたし最近VTuberっていうのにハマってるって話したじゃん?そしたら康一も好きだって言うからさ!!いやぁ周りにいないから話せなかったんだよね!!」


「な、ななななるほど………」


「そうやって話してたらさぁ?良いかもって思えてきちゃって!目を見て話してくれるし!髪とか遊べばもっとカッコよくなるダイヤの原石だって気づいたわけ!!」


「いやぁ…………」


「こら照れるな!」


 茉莉に褒められて満更でもなさそうな綾瀬を叱る。叱られた綾瀬は気まずそうにしゅんってなった。

 それを見た茉莉はニヤって悪い顔をしてこちらに近づいてきた。


「もぉ……こんな怖い束縛女よりぃ………わたしの方が良いと思うんだけどぉ……」


「誰が束縛女だ!!」


「束縛女じゃん…しかもまだ付き合ってないんでしょ?なら康一は誰のものでもないよね~」


「それは…………ッ…!」


 何も言い返せない。この女強すぎる。私とはレベルが違いすぎる。


「ねぇ康一……わたしならぁ…なんでもしてあげれるよぉ?けーけんほーふだしぃ……着けなくてもいいよ?」


「こらこらこら!!それはダメでしょ!ライン越えてるよ!!てか言ってることがさっきまでと違うってば!!!」


「えと…………」


 茉莉のズルい誘惑に揺らいでるのかドキマギしている綾瀬。私だって………綾瀬がどうしてもって言うなら…………それくらい………


「僕は……瀬名さんが…好きなので……その…ごめんなさい……」


「ッ~~~!!!!もぉ…………綾瀬ってばぁ…もぉw……えぇ…………ぇへ……」


 しっかりと茉莉の誘いを断りつつ、私への想いを伝えてくれる。こういうとこなんだよなぁ…もぉ………


「…………なんかわたしの想いがイチャイチャに使われたんだけど???」


「残念でした~。綾瀬は私に夢中なんですぅ」


「………まぁいいや!ねぇ康一!一緒に帰ろっか!!」


「待っておかしいそうはならないでしょ!」


 これだけ見せつけたというのに茉莉は止まる気配がなかった。それどころか勢いは更に増していった。


「話したいこといっぱいあるもんね!話合わない明日香よりも、わたしと帰った方が楽しいよ!ほら行こ!!」


「待って!せめて3人で帰ろう!ね!!」



 その後、私が荷物をまとめてる間にしれっと逃げられたり、何故か茉莉が綾瀬の方のホームに行ったりなど、一学期が終わる直前に本当に色んな事があったのだが……とにもかくにもふたりが仲良くなって良かっ…………たのかな?うん。良かったでしょう!!!きっと!!

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