第7話 図書室にて
時は過ぎ5月の中頃。クラスはとある行事に向けて盛り上がっていた。その行事というのは…
「それじゃあ文化祭の出し物について意見がある人~!」
そう。文化祭である。
1年生の文化祭は合唱コンクールをするため、屋台やお化け屋敷などを見て回ることしか出来なかった。だが今年は違う。2年生ともなれば本格的に文化祭に参加できるのだ。といっても、それで盛り上がれるのは陽キャな方々だけなのだが……
「どうするよ文化祭」
「どうするって?」
席替えにより僕の後ろの席になった矢野から話を振られる。
「そりゃもちろんこの期間の過ごし方だよ」
「僕は図書で仕事があるから忙しいんだなこれが」
「なん………だと……」
今決めているクラスでの催し物の内容にも寄るが基本的には委員会の仕事があるからとシフトや準備から逃げることが出来るはすだ。矢野には申し訳ないがひとりで頑張ってもらおう。
「うーん意外と案が出てきたね……とりあえず多数決しますか!」
僕らがこそこそと話をしているといつの間にか案が出揃ったらしく、文化祭実行委員の瀬名さんが楽しそうに仕切っていた。
「はいまずはお化け屋敷!」
数名の手がおずおずと上がる。主に女子が中心だ。
「ではでは……バルーンアート~!」
これまた女子が手を上げる。男子は微動だにしない。
そしてその謎の団結力は次の案の投票で明らかになる。
「…………で、メイド喫茶」
ビシッ!!!!
今まで動かなかった男子達が一斉に手を上げた。女子もあげてなかった残りの数名がニコニコしながらあげていた。
「…………ズルだと思うんだけど?」
「頼むよ明日香!売り上げ一位を目指したいだろ!?」
「そうそう!瀬名さんとなら絶対とれるって思ってるから!私たちも頑張るからさ!」
「ここはどうか一肌……いや!メイド服を着てくれ!」
「えぇ……マジかぁ………ぇへ……どうしよっかなぁ……」
クラスメイトにのせられ、満更でもないといった顔でニヤケている瀬名さん。そんなかわいらしい顔をしながら最終確認を取り始める。
「えっと…じゃぁ…多数決の結果、メイド喫茶ってことで……いいんだね?」
「「「意義なし!!!」」」
圧倒的な熱量により、我々の文化祭の出し物はメイド喫茶に決まったのだった。
「いやぁ……綾瀬くんは委員の仕事忙しくて大変ですなぁ?当日も頑張ってね?」
「…………意地でも抜けてきてやる」
その日の放課後……
図書の当番の日だったのでのんびりと受付に座って過ごしていた。この時期は図書室にくる人なんて限られてくる。放課後なら尚更だ。
そうして時間が過ぎていき、そろそろ帰ろうとしていると、ギリギリになってひとりの女子生徒が現れた。
「まだ……返却…間に合いますか……!?」
急いできたのか息を切らして本の返却を頼んできた。持ってきた本人には敢えて触れないように淡々と仕事をこなす。
「ごめんなさい………ってなんだ綾瀬かぁ」
どうやら僕のことには気付いていなかったようで、さっきまで申し訳なさそうにしていた瀬名さんの表情は一気に明るくなった。
「今度はギリギリはやめてくださいね」
「分かってるって……この後は?帰るの?」
「それはもちろん」
「じゃあさ、急いでないなら少し話さない?ほらまだ時間あるしさ。誰もいないし……綾瀬に聞きたいことあったんだよね」
時間があるとはいってもあと5分しかないが…仕方ないので話に付き合うことにした。
「………僕なんかしましたっけ?」
「したよ~。今日の出し物決めの時にさ?メイド喫茶の話したじゃん?」
「そうでしたね」
「男子はみーんな手をあげてたのにさぁ?綾瀬だけあげてなかったじゃん?」
しれっと矢野も手をあげていたのか。
「…………綾瀬は、見たくないの?」
「……何がですか?」
もちろん言いたいことは分かるが一応しらばっくれる。一種のテンプレみたいなものだ。
「わ、た、し、の~……メイド姿に決まってんじゃん?」
「それは…………まぁ……」
実をいうと話を聞いていなかったからノリにのれなかっただけなのだが……それはそれで怒られそうなのでグッと堪え、次の言葉を待った。
「あ、もしかしてメイド服嫌いとか?」
「嫌いという訳じゃないですけど……」
「じゃあ好き?」
「…………どちらかといえば」
「あーwボカしたーw恥ずかしがってやんのーw」
僕の反応を見て楽しそうにしている瀬名さん。遊ばれてるだけなのは分かっているが、なんだかこの関係性にも少し慣れてきた。
「同じクラスだからぁ……綾瀬のメイドさんにはなってあげられないんだよねぇ……」
「そうだメイドといえば………綾瀬はオムライスは好き?定番だよねぇ」
話がコロコロと変わる。これが陽キャの会話を途切れさせないテクニックなのだろうかと素直に感心しながら答える。
「まぁ……好きですね」
「へぇ……チキンライス?それとも白米?」
「…チキンライスの方が味があって好きです」
「ほぅほぅ……え、じゃあクレープとかは?好き?てか食べたことあんの?w」
「あんまり食べたことはないですけど……好き…ですかね」
「美味しいよねぇクレープ……私は見かけると買っちゃうんだぁ」
まるで普通の友達かのように他愛もない会話を繰り広げる。僕の回答はつまらないものばかりなのに話を途切れさせる様子がない。これが瀬名さんのコミュ力。流石はギャルだ。
「やっぱりバナナ?私はイチゴも好きなんだけど~」
「そのふたつでいえばバナナの方が好きですかね」
「なるほどなるほど……ぇ、じゃあさ」
「私のこと、好き?」
「それはもち……ろん…………はぃ???」
唐突な質問に思わず聞き返す。聞き間違えかと瀬名さんの方を見ると、少しずつ顔が赤くなっていた。
「……………ほらぁ…ハッキリ言えよぉ…」
「いや…えぇ……流石に唐突過ぎません?」
「いいからぁ…私がバカみたいじゃん……」
明らかにタイミングを間違えたのだろう瀬名さんは顔を真っ赤にして催促してきた。恥ずかしがってるのは新鮮だったからもう少し堪能したいが……ここは従っておくのがいいだろう。
「……もちろん。好きです」
「…ぉふ……………ぇへ……オムライス…より?」
「比較対象おかしいでしょ……まぁ、はい。オムライスより好きです」
「へ、へぇ………そっかぁ……」
取り返しのつかないようなミスを無理矢理誤魔化しており、それが恥ずかしいのかいつもよりへにゃへにゃした声で告白への返事をしてくれた。
「私は……オムライスの方が好きかなぁ……だから……その………ごめんね?」
まさかのオムライスに敗北したところで時間になり、司書の先生から追い出される形で図書室から退出した。
その後、折角だからと今日も一緒に帰ることにしたのだった。
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