第3話 昼休みにて
あの一件から1週間が過ぎた。あの日のことはまるで夢かのようにお互いに何事もなかった。フラれた男子も何食わぬ顔で学校に来ていたし、それに対して瀬名さんが公の場で触れることもなかった。変わったことといえば度々その男子から睨まれるということと、瀬名さんと目が合うことが増えた気がすること。
そうして日々を過ごし、あの日のことを思い返して思うことがひとつ。それは……
「………女の子の胸って柔らかいのかな」
「え、なんだよ急に」
昼休み。中学からの友人と昼御飯を食べながらついつい欲望が漏れてしまった。
「いや………その……気になって……」
「おいおいやめてくれよ昼飯の最中に……誰かに聞かれたら俺も巻き込まれんだけど」
友人の名前は
「ごめん………それで、矢野はどう思う?」
「続けんのかよ………そだなぁ…人によるんじゃねぇの?」
「なんだよそれ。そんなの当たり前だろ」
「うるせぇなだったら具体例でも提示してみろや」
少し強めの口調で文句を言われる。とはいえ確かにそれもそうだと思い、教室の中を見渡し、本人がいないことと周囲に聞いている人がいなそうなことを確認して話す。
「その……瀬名…さん………とか…」
「ずいぶんと王道だな。アレはそうだなぁ……スゴいだろうなぁ………」
ふたりでこそこそと話を続ける。端からみれば怪しさ全開だろうがわざわざ気にかける人もいないだろう。
「制服の上からでもやばいからなぁ……体育の時とか揺れ方ハンパないもんなぁ……」
「だろ?」
「だろ?ってなんだよ。というか今更そんなの気にしてどうすんだ?」
「あー………それは……」
理由を問われ、返答に困ってしまう。まさか胸を揉める直前までいったとは言えない。
「……まさか狙ってんのか?あのギャルを?お前が?」
「お前が、は余計だよ。……夢見るだけタダだろ」
「……犯罪者にだけはなるなよ。嫌だぞ。友人枠としてテレビに出なきゃなんないのは」
「犯罪者って………僕にそんな度胸があるように見えるか?」
「意外とお前みたいな奴がやらかすんだよ」
なんとも失礼なことを言われ、ついついあの日の事を思い返してみる。襲われていた瀬名さんは隙をついたとはいえ、サッカー部の期待のエース様を一撃で沈めていた。僕なんかでは相手にすらならないだろう。
「……襲ったところで僕じゃ勝てないって」
「いやいやw火事場の馬鹿力的な?w」
「なんだそれ……そんなの胸揉みたいくらいで発揮出来るわけないだろ」
「あーやせ。なんか落としてるよ」
「あ、ありがとうございます……」
女子から声をかけられ、弁当のゴムバンドを拾って貰った。しょうもない会話を聞かれていないかと心配し、なるべく目を合わせないように返事を…………
「………どういたしまして」
「あ、お……あ…」
「………なにさふたりして。まるでお化けでも見たかのような顔して」
僕らがこそこそ話をしていた隣にはいつの間にか見覚えのある女子が不思議そうに佇んでいた。
「あ、いや………なんでもないよな!そうだよな!綾瀬!」
「うんうんうんうんうん!」
怪しさ溢れる矢野の誤魔化しに必死になって頷く。これでは何かありましたと言わんばかりではないか。
「そ?ならいいけど……」
「明日香~?まだ~?」
「あ、ごめん今いくー」
瀬名さんの左手には英単語帳が握られており、恐らくはこれを取りに戻ってきたことが察せられた。
そうして友達に呼ばれ、この場を去ってくれるのかと思いきや………
「……ちなみに矢野くん」
「はい!!?」
「私も矢野くんの意見には賛成。綾瀬なら火事場の馬鹿力でなんとかしそうかもw」
「…………へ?」
意味深な発言を残した後、「じゃね」と小悪魔的な笑顔で去っていった。
そうして残された僕達はしばらく放心し、やがて瀬名さんの言葉の意味を理解してお互い顔を見合わせるのだった。
「俺達……終わった?」
「……………ごめん。マジでごめん……」
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