第24話 二匹の動物

「管理人室に戻ろっかな」

 あたしがテーブルで源五郎を飲んでいると、アヤメが呟いた。

 アヤメは向かいに座り、ノートにメモをしている。今度一緒に作ろうと約束した、筑前煮のレシピを調べてくれている。可愛い子だ。

「あたしはここで、アヤメといても良いけど……」

 さっきまで一緒に紅茶を飲んだり、寝落ちしたアヤメに添い寝して楽しく過ごしてた。

 ずっと二人きりでいてもいいのに。寂しさを紛らわすため、源五郎をグラスに注いで飲む。

 カオルは悪い奴じゃない。それはわかっている。だけどあいつの女たらしは危険だ。

 アヤメは簡単に男に惚れるようなタイプじゃない。だから同居くらい問題ないと思っていたが、考えが甘かった。

 いつ、あの変態管理人の毒牙に、アヤメが掛かるかわからない。

「ねえユヅキ。筑前煮の絹さやって私苦手だから、入れなくてもいいわよね?」

「そうだな、あたしは食べれるけど、アヤメが要らないなら無くてもいいぞ」

「おっけ」

 無邪気に筑前煮のレシピとイラストを描いているアヤメを見ると心が和む。

 ここでアヤメを引き留めておくのも難しい。あたしがさっきみたいに、カオルからアヤメを守れば大丈夫……

 そう自分に言い聞かせた。

「よし、じゃあ管理人室に戻るか。先にカオルの様子を見てくる。どうせ落ち込んでるだろうし、からかってやろう」

「うん! さっき急に泣いちゃったの謝らなきゃ。なんであんなふうになっちゃうんだろ」

「あたしも泣いた時はびっくりしたけど、もう元気になったみたいだな。安心した」

「私、寝たらスッキリできるのよね! あと少しでレシピ書き終わるから、先に行っててー」

 あたしはグラスを飲み干し、外へ出て管理人室に向かった。

 アパートの庭に植えてある木の枝が風でしなり、辺りに葉を散らしている。

「カオルのやつ、あたしのビデオレター見てどう思ったかな。ふふ、返事が無いようだし、さぞ落ち込んでいるんじゃないか?」

 あたしは管理人室のドアを開けそっと中を覗き見る……


 そこには二匹の性獣がいた。あたしはグラグラめまいがしながらも、これはカオルの姿だ、驚くことはないと自分に言い聞かせ、その様子を伺い続けた……

 カオルは居間に座って、ちゃぶ台の下にいるマオに下半身を差し出し、口で淫らな行為をさせている。

 マオの後ろ姿で股間は見えないが、やっていることはすぐにわかった。

「はぁー、気持ちよかったぁ」

 カオルが天を仰ぎ、自らの快楽を高らかに宣言している。

「あ、ちょっとダメっ」

「マオ、なにしてんだ?」

 マオは行為がまだ終わっていないと告げ、なんとポニャンタまでも用い、共にカオルの棒に奉仕させようとしている。

「あ、棒からこぼれちゃう。舐めなきゃ……ジュルル、グッポグッポ!」

「おいおい、床を汚さないようにしろよ」

「お掃除しないと……ほらベロ見て、青い」

 青色⁉ やはりカオルのようなド変態だと、アレまで特殊な色をしているのか……しかもまだ出しているらしい。一体どれだけやれば気が済むんだ⁉

「あ、マオ。カメラまだ置いてるのか? まったく、撮っても仕方ないだろ」

 さ、撮影⁉ あの二人、エロい動画を撮影して、ネット販売までしている⁉

「ハアハア……」

 ……気づくといつの間にか自分の声が漏れていた。

 ダメだ! なんであたしが興奮しているんだ。

 くそ、これもカオルの罠か……なんて策士だ。

 この半日であたしの乳を揉みしだいて、アヤメを泣かせ、マオに舐めさせてごっくんを強要。更にあたしを欲情させている!

 流石カオル……あたしが見込んだだけの男だ。

 ——そうだ、もうすぐアヤメが来てしまう。あんなプレイをアヤメが見たら泣き出すどころじゃなくなる!

 あたしは焦って、不意に強くドアを閉めてしまった。だが気にしてる場合じゃない。

 走って部屋のドアを開けると、丁度アヤメも出てくるところだった。

「あれ、どーしたの? 忘れ物?」

 アヤメはあどけない顔であたしを見つめる。

 この純粋で穢れの知らないアヤメを、カオルに汚されてたまるか!

「アヤメ聞いてくれ、あいつは性獣だ!」

「セイジュ―?」

「あいつの性欲は、全部あたしが受け止めてやる。任せておけ」

「えっ……?」

 一瞬、なに言ってんだコイツみたいな顔でアヤメがあたしを見る。

 良いんだ、あたしがどう思われようが。

「ユヅキ、最近ちょっと変よ? さっきも、カオルにもよくわかんないこと言ってたし。無理しないで」

「アヤメ……」

 あたしは無理してない。ただカオルからアヤメを守りたかった。

「あれ? ユヅキ、服濡れてるわよ」

 アヤメがあたしの下半身を見つめる。しまった! カオル達の性の営みを覗いていたから、パンツが吹き付ける雨で濡れていた。

「ここにいてもまた濡れるわ。風邪引いちゃうから着替えに戻りましょ。タオル準備しておくね」

 アヤメは優しく微笑んで、部屋に帰って行った。

「ありがとう……」

 こんなあたしにも、あの子は暖かく接してくれる。

 だけど相変わらず、別の感情があたしを支配している。

 カオルがプレイボーイだとわかればわかるほど、胸が高鳴り鼓動が早くなる——

 ——いや、ダメだ! あたしは一体何を考えているんだ。

 危うくカオルの毒牙にあたしもかかるところだった……絶対、カオルなんかに負けないんだからな!

 決意を新たにし、びしょ濡れのパンツで部屋に戻った。

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