第20話 童貞大好きな居候のお姉さん
俺の裏SNSアカウントの投稿。
『今日引っ越したんだが、住人の女たちめっちゃエロイ!」
『やっべ。一緒に住んでいる女の子が可愛すぎる。スタイルもめっちゃ良いし、えっちすぎ!」
『この動画の変態管理人って結構イケメンじゃね?」
「うわあああああああ!」
俺は気づいたら悲鳴を上げていた。
見ないでくれ、アヤメ……
見ていたエッチな動画サイトの閲覧履歴。
『実録! 童貞大好きな居候のお姉さん」
『美少女YoutuberとS〇X生配信』
『褐色ロリ少女監禁』
「うわぁ……」
アヤメの冷めた声が聞こえる。顔を向けることができない。
俺は苦痛で頭を抱え、篠本に叫ぶ。
「やめろおおおおおお! ひ、卑怯だぞっ、篠本! お前だって人に知られたくないことくらいあるだろ!」
「なめるな小僧! 俺がなぁ……俺が毎日毎日夜遅くまで残業して、エペリの地味な監視任務をしている間、お前はアパートの美少女達とイチャイチャイチャイチャ……しまいにはラッキースケベまでやりおって! 最近赤島刑事は俺に冷たいし……羨ましすぎてムカつくんだよ! 次はこれだ!」
ネット検索履歴が表示される。
『ファーストキス 同性の男の人 ドキドキした』
『セックス 初心者テクニック』
『実家がお寺の彼女 結婚 知識袋』
「うわあああああああ!」
もう心はボロボロだ。俺は頭が真っ白になり、膝から崩れ落ちた——
——気がつくと篠本の声が聞こえてきた。俺は一瞬意識を失っていたようだ。
「クククッ、安心したまえ。エシュロンは機密中の機密。今回も特別にNSAに申請し使用できた。普段からお前たちを四六時中監視しているわけではない。日本政府はこんなくだらんことに労力は割かないのだ」
俺の恥ずかしいプライバシーを晒して、拷問するためだけに税金を無駄にしやがって……
「カオル……大丈夫?」
アヤメの声が頭上から聞こえる。俺はいつの間にかショックで床に倒れこみ、アヤメに膝枕をされていたようだ。
「よかった。倒れて動かなくなっちゃったからびっくりしたわ」
「アヤメ……俺、おうち帰りたい……」
「そうね、あんたの残念な面も知れたし……ねぇ篠本さん、もういいでしょ。私たち帰るわ。じゃあね」
アヤメに肩を担いでもらい、暗いモニタールームから出て行こうとする。
「ククッ、待ちたまえアヤメさん。もうあなたも部外者ではないのだよ」
「え……?」
「ここに来てエシュロンを知ってしまったこと自体、国の秘密保護法の対象になる。日本の安全保障のため、あなたにも政府の怖ろしさを思い知らせ、コントロールしなければならない! アヤメさんの恥ずかしい裏の姿も晒してやる!」
「ちょ、ちょっと、やめてよ……ねぇお願い!」
アヤメの恥ずかしい裏の姿……どんなものなんだ。アヤメが嫌がっていることだから知るのは悪い……でも気になってしまうのも事実だ。
「では二か月間の天滝アヤメの情報を検索っと」
「いや、やめてぇーー!」
こ、これは……!
モニターにアヤメの、真の姿が映し出された。
監視カメラの映像だろうか。動物保護施設の部屋で、汚れて弱った保護犬を丁寧に世話するアヤメ。
別の場所、児童養護施設のような場所で、駆け回る大勢の子供達を相手に優しく面倒を見るアヤメ。
横断歩道を渡っていると、向かいからゆっくり進むおばあちゃんを手助けし、道を戻るアヤメ。
どれもこれも善人でしかない姿ばかりだ。
篠本は高笑いをし、拍手をしている。
「なんてこった。君は日本人として常日頃に良い行いをしている。素晴らしいよ。ん、これは……」
Youtubeの画面が巨大モニターに表示された。マオの部屋に侵入したことになっている「変態管理人動画」になる。画面はスクロールされコメント欄が表示された。
『変態管理人ってドン引きよ。女の子の部屋に入ってくるとか気持ち悪いわ!』
アヤメをちらっと見るが気まずそうに目を逸らされる……
こいつ、俺の出てる動画にアンチコメント書いてやがる! マオと一緒に寝たこと、根に持ってたのか!
アヤメは俯きながら篠本に近づいていく。
「どうしたアヤメさん? いいではないか。一部でアンチコメントを書いていたが、全体としては君は善人のようだ。誇りたまえ」
アヤメは篠本の前に置かれているキーボードを無言で振り上げる。
「ん?」
篠本は呆気に取られていた。
「……勝手に、覗くなぁーーー!」
「ほんぎゃあああああああ!」
篠本の頭に叩きつけた。
キーボードのキーが飛び散り、篠本も地面に倒れ落ちる。
キーがある部分で打ったのは、せめてもの情けだろうか? それでも気絶しているようだが……
近くにいた赤島刑事も驚きで硬直していたが、すぐ我に返り、駆け寄って無線で救助を求める。
「篠本さん、篠本さん! くそっ! 至急救急車を呼んでくれ! 場所? 事件は会議室で起きてるんじゃない。モニタールームで起きてるんだ!」
救急車が来るみたいだし、大丈夫だろう。
「アヤメ、もう十分だ。帰ろう……」
「そうね。これに懲りてもう覗いてこないでしょ! 帰りましょ」
アヤメはスッキリした笑顔で戻ってくる。こいつを盗撮したら、怖ろしいことになるのはよくわかった。
アヤメに付き添われながら、俺たちはモニタールームを抜け出した。
内閣府庁舎の廊下を二人で歩いていると、すれ違う職員に怪訝な目を向けられる。確かに私服姿の若い男女が入館証もなく歩いていたら怪しまれるのは当然だ。
目立たず脱出しようとしたが、警備員に見つかってしまう。
「ん? なんだ君たちは。一体何をしている?」
「あわわ……違うんです。これはその、篠本っていう内調のおじさんに連れてこられて……」
俺は必死に言い訳するも、増えていく警備員達に取り囲まれて——
「なんで私も捕まってるのよー! うわーん!」
泣くアヤメと一緒に、新しく来たパトカーで赤坂警察署に連行された。
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