第12話 源五郎の神様

 朝だ。

 確か昨夜は常連のおじさんにお寿司の差し入れをもらって、アヤメたちと一緒に食べようと管理人室に行ったんだ。

 だけど管理人室を開けると、部屋の奥でアヤメが泣きながら、うずくまって震えていた。横にはカオルが憮然とした表情で立ち尽くしていた。

 すぐに状況を察した私は、カオルを怒りに任せ殴った。

 だが話を聞くとそれは壮大な勘違いで、二人を介抱して、一緒に寝たんだ。


 横を見ると一緒に寝ているはずの二人がいない。

 布団は置いたままだから、記憶違いではないはずだ。

 おかしい。部屋を見渡しても誰もいない。

 二人とも先に学校に行ったのか?

「なんだよ、一声掛けてくれればいいのに……」

 昨日殴ったこと、まだ怒っているのか?

 朝から一抹の寂しさを感じるが、あたしも授業に行かなければならない。

 立ち上がってトイレに向かう。

 なんだ? トイレの前で最初は脱ぎっぱなしの服が二人分落ちているのかと思った。

 だけど違う! アヤメとカオルがうつ伏せで床に倒れこんでいた。

 カオルがうつ伏せで床に這いつくばり、アヤメがクロスした状態で、カオルの体の上でうつ伏せで倒れている。


 二人が死んでいるっ……!

 死んでいる死んでいる死んでいる死んでいる死んでいる死んでいる死んでいる死んでいる死んでいる死んでいる死んでいる死んでいる死んでいる死んでいる死んでいる死んでいる死んでいる死んでいる死んでいる死んでいる死んでいる死んでいる……


 嘘だ、嫌だ!

 アヤメを肘で殴り殺したのはカオルだ。悲しいけどあたしは殺ってない……

 でも、カオルを死なせた原因はあたしだ!


『人殺し』


 そんなつもりはなかった。

 だけど確かに、泣くアヤメを見下ろして、拳を握りながら険しい顔を向けているカオルを見た時、「殺意」を抱いてしまったのは間違いがない。

 捕まってしまう。殺人をしたら死刑なんだっけ……

 大好きな弟になんて言おう。お母さんは泣くだろう。

 ごめんごめんごめん!

「うわあああああああ!」

 気づくとあたしは叫んでいた。

 同時に力が抜け膝から崩れ落ちる。

 神様、どうか、あたしを許してほしい。お酒を飲んで失敗するのは何度目だろう。

 もう、お酒は飲まない! 源五郎だって買わない! 頼らない!

 だから……神様……


「……んー? なになに、どうしたの?」

 カオルの上で死んでいたアヤメが生き返った。

「ぐふっ、アヤメ……俺を敷布団かなにかだと思ってないか……」

 アヤメの下敷きになっているカオルも生き返った。

 神様が助けてくれたんだ。

「ありがとう神様……二人とも生き返った」

 不意に涙が溢れ出てくる。本当によかった——

「みんな、源五郎で祝杯をあげよう!」

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