第3話 食事会
近くのスーパーで買い物をするというので一緒に付き合った。
これで解散かと思いきや……
「なんで全員管理人室に集まってるんだ?」
管理人室の居間に集まる住人達。
エペリがカレールーや人参、じゃがいもを袋から取り出している。どうやらカレーライスを作るらしい。
「たまにこうやって、みんなでご飯を食べるんだ」
ユヅキがキッチンでまな板を取り出し調理の準備をしている。
「管理人室だと広いからね。遊んだりもして、みんなの憩いの場よ」
アヤメは管理人室を使うのは当然といった口調で説明してくれる。
「アヤメ、お前爺ちゃんに住んで良いって言われただけだよな?」
「そうよ。だからここにみんなと集まって遊んでるの。そっちのほうが楽しいでしょ」
「?」
共用スペースにしても良いとは言ってないと思うが……
勝手にフリースペースにしてしまうアヤメ達の思考回路は不思議だが、確かにここの住人達は仲が良いらしい。
美少女たちが楽しそうに喋り、食事の準備をしたり、部屋の片付けをしている姿を見てなんだかホッとする。
「やけに食材買い込んでいると思ったらそういうことか。で、マオは手伝わないのか?」
俺とちゃぶ台を囲み、おとなしく座っている盗撮少女に質問する。
「前、ボクが料理してレンジが爆発したから免除されてる」
「爆発⁉」
確かに座っておいてもらった方が良さそうだ。
「いやー、しかし今日は最悪警察に突き出されるかと思ったが、こうやってみんなが晩御飯を作ってくれるなんて幸せだなぁ」
俺が座布団に座りながら呑気なことを言うと、アヤメがキッチンから歩いてきた。手には剥きかけの玉ねぎを持っている。
「あんたはお呼びじゃないわよ」
「えっ」
「当たり前じゃない。なんで変態のご飯まで作るのよ」
「いや、でも……ご飯食べたい。え……」
「ふふ、噓だよぉー」
「⁉」
アヤメが舌をペロっと出してからかってくる。
「あんたの分も準備してるから。でも条件があるわ」
「な、なんだよ?」
「おいしいカレーライス食べたいにゃああああって言ったら作ってあげる」
「はあ?」
「オイシイカレー、タベタイニャア」
マオが無表情、棒読みで喋る。
「ほら、マオもやってくれたわ。あんたもやるのよ」
「……そんなこと、俺がやるか!」
俺はそっぽを向いた。なんでそんな恥ずかしいことをしないといけない。
「エペリの作るカレー、管理人さんにも食べてほしかったです」
エペリが俺の前に来て顔をのぞき込んでくる。ブラウスの胸元が重力に従い開いている。胸は小さいが、もう色々と見えてしまいそうだ。
「管理人さーん、聞いてますかー?」
エペリが少しづつ顔を近づけてくる。
俺は顔を見るようにするが、どうしても胸元をチラ見してしまう。
遂にエペリは俺の耳元に顔を近づけてきた。
「どうしたんですか、管理人さん? それより、言ってください。カレー食べたいにゃって……」
「⁉……カレーライス食べたいにゃあ……」
ゾクゾクするような声で耳元で囁かれ、俺はふざけたセリフを言う。
「ふふふ。可愛いですね」
エペリは満足したようでキッチンに戻っていく。
「っく……アヤメ、これでいいだろ」
「う、うう……換気扇の音で聞こえない」
キッチンに立つアヤメが振り返ってこちらを見ると泣いていた。
「なんで泣くんだよ?」
「玉ねぎが目に染みるよぉ」
結局俺も一緒に手伝った。
「「「いただきまーす」」」
居間にあるちゃぶ台には、レタスとトマトのサラダとカレーライスが並ぶ。
美少女四人と一緒に食事。夢みたいだ。
俺の左側で美味しそうに食べている、と思いきや4L焼酎を嗜んでいるユヅキがこちらを向く。
「そうだ、カオル。お前が新しい管理人なんだよな。このアパート色々調子わりーんだよ。とりあえずエアコンが古すぎて冷房入れても暑くて夏は参ったぜ」
「そうね。この管理人室のエアコンはまだマシだから、真夏はみんなここに避難してたのよ」
向かいに座るアヤメが思い出したように説明してくる。髪はポニーテールにまとめてある。
右側のマオが何か言いたげに俺を見ている。
「温泉がほしい」
「それは無理だ」
他にも住人達があれがおかしい、これで困っていると訴えてくる。
そうか、そういう設備もオーナーが責任持たなくてはいけないのか!
直してやりたい気持ちは山々だが、ほいほいと買い替える金はない。
俺が悩んでいると、
「管理人さん、無理しなくても良いんですよ。お手伝いとかできることあれば言ってくださいね」
天使のようなエペリが優しく微笑んでくれた。
それに比べて……
「私ルンバ買おっかな。動きが可愛いのよね」
アヤメが物欲しそうにスマホを見つめている。
それ買うなら滞納してる家賃払えよ。
みんなが自己紹介をしてくれた。
「まだ名前言ってなかったな。あたしは田奈ユヅキ。よろしくな!」
ユヅキが4L焼酎をコップに注ぎながらにこりと笑う。酔いで上機嫌のようだ。
スレンダーな印象の一方で胸元は大きく膨らみ、大人びた印象も相まって色気がある。
無心でカレーを食べていたマオも会話に入ってくる。
「丹波マオ。YoutubeだとMAOで活動してる」
ミディアムボブで無表情。人形のように凛とした美しさがある。
縛られる哀れな俺を撮ってないで、自分の顔を配信しておけば良いだろうに。
後、顔はロリ系なのに胸がデカい……
次は小麦肌の美少女。
「ロテ・エペリです。南太平洋の小さな島国出身で、二年前から留学しています。日本にまだ不慣れなところはありますが、管理人さん、どうぞよろしくおねがいします」
光る蒼い目。顔と胸はロリ系で背は高くないがモデルでもおかしくないスタイル。
礼儀をわきまえている振る舞いに、問題児ばかりの住人達と違って育ちの良さを感じる。
最後にアヤメが挨拶するのかと思っていたがアヤメは一向に始める様子がない。
「アヤメは自己紹介しなくていいのか?」
「アヤメ、天滝アヤメ」
「趣味とかなんでもいいから教えてくれよ」
「んー、ゲームと映画観ること。因みに今のはジェームズボンド風に自己紹介したの気づいた?」
「007は知っているけど今のは地味だから気づかなかった」
エペリが俺たちの会話に笑いながら加わってくる。
「お二人とも前からの知り合いみたいに話してますね」
アヤメへのインタビューは終わったので、俺も無難に自己紹介する。
ちょっと緊張したが。拍手で迎えてくれる暖かい住人たち。
アヤメだけは俺の顔をじっと眺めて考え込んでいる。なんなんだ……
「いやしかし、家賃を払ってない住人がいるなんて驚いたよ。他のみんなは大丈夫だよな……? そんなわけないか」
「んっげほっ……!」
お茶を飲んでいたマオが急にむせた。あ、と何かを察する住人達。
「用事あった気がするから部屋に戻る……ばいばい」
「マオ、待つんだ……俺は聞かなかったことにする。今日はもう疲れたしな」
気まずい表情をしていたマオの顔がパッと明るくなる。
「許してくれるの?……好き」
「いや許してはないが」
潤んだ瞳でマオが見つめてくる。結構ドキッとする……
こいつクールで無表情な感じだが、媚びることもできるんだな。
アヤメも嬉しそうにマオの背中に抱き付く。
「よかったわね。マオもタダで住んで良いらしいわよ」
「言ってねぇって。っていうかお前が決めるな」
こうして懸念していた住人に拒絶されることは回避し、俺のパメラ荘管理人生活が始まったのだった——
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