渉じゃなくて俺にしなよ


咲月は渉の家でのバーベキューを終え、家に帰ってきた。

「…。ただいま」

朝陽の靴はあるのに返事はなかった。

(怒ってるのかな…)

咲月は朝陽を探すように部屋を見回した。

リビングやキッチンにはいなかった。

咲月は、朝陽の部屋の前まで来た。

朝陽の部屋からは、音楽が流れていた。

咲月は部屋の扉をノックした。

「はい」

朝陽の返事が聞こえた。

「咲月だけど、入っていい?」

「あ、ちょっと待って…」


少しすると朝陽の部屋のドアが開いた。

「帰って来てたんだ」

「うん。さっき」

「楽しかった?」

「疲れた」

咲月は朝陽のベッドに座った。

朝陽は近くにある椅子に座った。

「あの人数じゃな」

「朝陽は知らない人だらけでも平気なんだね」

「俺はもうあの人達とは、関わることないから。気楽だよ」

「そっか。…もうすぐニューヨーク行っちゃうもんね」

「まだ3週間あるよ」

「うん…」

「さみしい?」

「…ん」

「…俺も」


2人は目を合わせた。

「咲月、ニューヨークに遊びにきなよ」

「無理だよ。そんなお金ない」

「うちに泊まればいいし、飛行機代だけでいいんだよ?」

「それでも無理…」

「そっか。じゃ…、俺が夏休みこっちに帰ってくる」

「うん。うちに来てくれる?」

「うん、もちろん」

「じゃ、一生の別れじゃないね」

咲月は笑ったが、悲しさは隠し切れなかった。

朝陽は咲月の隣に座った。

咲月は心臓がバクバク鳴っていた。


「バーベキューするとさ、臭いつくよね」

「あ、私臭った?!」

「ん?うん」

朝陽は咲月の髪をつまんで、鼻にあてた。「臭う…」

「ちょっと…、やめてよ…」

「ん?うん」

朝陽は咲月の肩に顔を寄せた。

「服も…肉」

「ねぇ、やめて…」

咲月がそう言うと、朝陽は咲月にキスをした。

咲月は言葉が出なかった。


「渉じゃなくて、俺にしなよ」


「え…」


「答えでたら、教えて」 


朝陽は立ち上がって、咲月にもそう促した。

「じゃ、さっきの考えといてね」

朝陽は部屋から追い出すように咲月の背中を軽く押した。



(どうしよぉ…)

咲月の顔は真っ赤だった。

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