俺がついてるから

高校の午前の授業が終わり、朝陽は勉強道具を机にしまい、鞄からお弁当を出すところだった。

「朝陽、同居先はどう?」

同じクラスの真莉がパンを片手に朝陽の前の席に座った。


「ん?楽しいよ」

「あははっ。楽しいの?随分よくしてもらってるんだね。それもだし」

真莉は朝陽のお弁当を指さした。

「うん。おばさんにいいって言ったんだけどね。作ってくれる。しかも、うまいし」

朝陽はお弁当箱を開けた。

「あれ…、今日は…」

お弁当箱はすかすかで、おかずが寄っていた。

「あははっ」

朝陽は爆笑した。

「あははっ、ひでぇ」

「何?」

「咲月」

「咲月ちゃん作ったの?」

「うん。たぶん…つか絶対」

朝陽は、卵焼きを箸でつまんで食べた。

「あははっ。うまいし」

「嬉しそうだね」

真莉はニコニコして言った。

「…ヤキモチやかないの?」

朝陽が真莉に言った。

「中2にはヤキモチはやきません」

「中2ねぇ…」

「中2じゃなかったっけ?」

「中2だよ」

「?」


「中2のくせに彼氏いるんだよ」

「ヤキモチ?」

「中2にやかないよ」

「それ、私の〜」

「あの彼氏じゃだめだと思う」

「会ったことあるんだ」

「うん。なんか違うんだよな」

「彼女いた事ないくせにわかるの?」

「彼女できないの、真莉のせいじゃん…」

朝陽は真莉を睨んだ。

「周りが勝手に、私が朝陽の彼女だって勘違いしてるだけじゃん」

「…でも、否定しないじゃん」

「しないよ。彼女じゃないけど、好きだから」

真莉はニコッと笑って朝陽を見た。

「…なんでだろ」

「何が?」

「…少しもドキッとしない」

真莉は朝陽の足を思い切り蹴った。




「朝陽、おかえりー」

咲月は、リビングから玄関をのぞき込んだ。

朝陽に何か言ってほしそうに、もじもじしていた。

「咲月、お弁当ごちそうさま」

「どうだった?」

「美味かったよ」

「ホント?」

「うん」

咲月は満足そうに笑った。

「おかず寄ってたけど」

「えっ。そうなの?」

「うん。寄って、卵焼きにマヨネーズついてたけど、美味しかったよ」

「あー…、寄ってたか」

咲月は頭を抱えた。

「美味かったよ。また作ってほしい」

「うん。ねぇ」

「ん?」

「このレベルじゃ、渉にお弁当作って行くのやばいかな」

「…やばいだろ」

「そっか…」

咲月は明らかにシュンとした。

「…でも、喜ぶんじゃない?」

「そうかな?」

咲月の顔が明るくなった。

「でも、お弁当なんて、ハイキングでも行くの?」

「ううん。バーベキュー」

「…じゃお弁当いらねーだろ」

「…いらない?」

「いらない。でも、野菜とか切れたらいいんじゃない?2人でバーベキュー?」

「ううん。渉の友達と私の友達とで…。渉の家の庭でやるって」

「へぇ。リア充だな」

「…ね、朝陽も一緒に行かない?」

「え!やだよっ!」

「…私、友達少ないし」

「…渉は多いの?」

「うん。男子も女子も」

「…ちょっと嫌だね」

「やっぱり?朝陽もそう思う?!」

「うん」

「だよね…。ちょっと今から憂鬱」

「…いいよ」

「え?」

「バーベキュー、行ったるわ」

朝陽が、ニヤッと笑った。

「いいの?」

「俺は海外逃亡できるから、怖いものないぜ」

来月、朝陽は両親のいるニューヨークに引っ越す予定だ。

「そっか…。じゃ。お願いします」

「うん」

「……」

「咲月、俺がついてるから心配すんな」

「イケメンキャラ…」

「イケメンだから」

「塩顔のくせに」

「塩顔流行ってるだろ」

「…そうだね」


咲月の気分が晴れないのは、バーベキューの心配だけではなく、朝陽がニューヨークへ引っ越してしまう事も大きかった。


「朝陽はいつニューヨークに行くの…?」

「んー、来月の25日の予定」

「そっか…」

「…親の転勤には逆らえないよな」

「そうだね」

朝陽は、しょんぼりして下を向いている咲月の横顔をジッと見ていた。

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