朝陽の真意

朝7時半、朝陽はドライヤーで髪をセットしていた。

「ねぇ…」

咲月は洗面所で朝陽に声をかけた。

「ん?何?忙しいんだけど」

朝陽は咲月の方は一切見ずにワックスを手に取った。

「この前、渉に会ったって聞いたけど…」

「あぁ。なんか声かけられて」

「そう…」

朝陽は、さっきと変わらず咲月の顔を見ずに髪をセットしていた。


咲月は渉から、朝陽に会った時、嫌味を言われて嫌な思いをしたという事を聞かされていたので、朝陽の真意が聞きたかった。

「あいつに言っておいて」

「何を?」

「話しかけんなって」

「何で?」

「中学生から声かけられるの恥ずかしい」 「あー…、そっか」

(それが嫌で、渉への態度が悪かったのか…)


「じゃ。俺行くから」

「うん。行ってらっしゃい」

「咲月もね」

「うん」

「あ、帰ったらゲームする?」

「うん」

「じゃ、お菓子買って帰るわ。じゃがりこでいい?」

「やった!ありがとう!」

「ん。じゃ」

朝陽は咲月に手を振って、家を出ていった。


(私も、最初は朝陽の事ムカついてたし…。渉が思うほど、たいしたことじゃないのかも…)

咲月は少しホッとした気分で支度をし、家を出た。




中学校が終わり、咲月と渉は一緒に下校していた。

「渉、朝陽の事なんだけど…」

「ん?うん」

「朝陽、中学生に話しかけられたのが、恥ずかしかったって」

「…話しかけるったって、ちょっと声かけただけだよ」

渉は怒った口調で言った。

「そっか。何か言い方冷たかったのかな」

「冷たいっていうか、感じ悪すぎ」

「そっか…」

「性格ネジ曲がってんじゃないの?」

咲月は渉の顔がどんどん険しくなっていくのを見ていた。

「…でも、私も最初はムカついたけど、話してみたら結構いい人だよ?」

「へぇ…」

渉が咲月を横目で見た。

「あっ…いや。何かバカにされたりするしムカつく事も多いけどね」

咲月は渉の反応が怖くて、急いで方向転換をした。

「…あいつ、咲月の事好きって言ってたよ」「え?!」

「…ま、一緒に住んでたら情がわくって事だけど…」

「あ、そういうこと…。びっくりした」

「…好きって言われたら…、咲月はどうするの?」

「え!どうもしないよ」

「…俺と別れる?」

「別れたくないよ」

咲月は渉の顔を見た。

「うん…。俺も」

渉は咲月の手を握った。

咲月は、心の中で息をはいた。

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