ごめんね 朝陽からの謝罪

山野家の夕食。

いつも4人で使っているダイニングテーブル

に椅子を1つ増やし、朝陽は咲月と斜め向かいになるように座っていた。


「朝陽くん。この家に慣れた?」

咲月の父が聞いた。

「はい。あの、呼び捨てで大丈夫です」

「そ?」

「はい」

朝陽はフニャっと笑った。

父もつられて笑った。


「初日から、もう慣れてるよね」

咲月が少し嫌味っぽく言った。

「そうだね。俺、人見知りなんですけど、碧斗が仲良くしてくれて。な?」

朝陽は碧斗を見た。

「うん。明日、サッカーね」

「おう。壊滅的に下手だけどな」

朝陽はニコニコ笑っていた。

(人見知りなんて絶対嘘じゃん…) 

外面のいい朝陽を見て、咲月は面白くなかった。


「咲月…」

朝陽は小さな声で咲月の名前を呼んだ。

「え?」

不意をつかれて、咲月はビクッとした。

朝陽は、自分のお皿に盛られていた人参のグラッセを他の人に見られないように、咲月の皿にサッと入れた。

「ちょっと…」

「食べて…」

「いらないよ…」

2人は小声で話す。


「碧斗、明日、俺帰るの5時くらいになるけどいい?」

朝陽は碧斗に話題を振って、誤魔化した。(もう…!私もグラッセ苦手なのに…!)

咲月はイライラしながら、人参を箸で掴んで口に放り投げた。

朝陽は咲月と目が合うと、ニヤッと笑った。

(あ、普通にムカツク…)

「あのっ」

「何?」

咲月は我慢出来ずに声を出した。

「食べれないの押し付けるの止めて」

「あ、ごめん…」

「どうしたの?」

母が心配そうに聞く。

「朝陽が人参を私の皿に…」

「あははっ。そうなの?」

「あははっ。面白。人参苦手?」

父も笑う。

「いや…。グラッセが苦手で…。ごめんなさい…」

「いいのいいの。咲月が食べれるよね?」

「…私も苦手…」

「そうだったの?残したことなかったら、好きなのかと思ってた。ごめんごめん」

「ううん…」

結果的に、人参のグラッセが苦手な事を母に知ってもらえた事は咲月にはありがたかった。

が、それはただの結果で朝陽のしたことにムカついたのは変わりがなかった。


「咲月、ごめんね」

朝陽が佐月に謝った。

「うっせーわ」

朝陽を含め、家族で大笑いをした。

咲月が家でこんなに笑いを取れるのは初めてだった。

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