入っていい?


朝陽が、山野家に来て数日。


「咲月、おはよ」

咲月の彼氏の渉が、咲月の教室に顔を見せた。

「おはよ」

咲月は渉に駆け寄った。

「もう!すごい嫌な奴だった」

「同居人?」

「うん。性格悪」

「へぇ」

渉は、咲月を取られる心配は無いとホッとした。

「顔は?」

「普通」

「普通かぁ…」

渉はブサイクなのを期待していたので、少し残念に思った。

「人をバカにして笑うようなヤツだった…」「…本物の嫌なヤツじゃん…」

「うん。でも、碧斗は懐いてるんだよね」 「へぇ。あの子、結構クールなのにね」

「そうなの。やっぱり男の子同士だといいのかな」

「…俺は受け入れてもらってないけどね…」

渉は皮肉を含んだ顔で笑った。

「…あ…」

咲月はしまったと思って、言葉につまった。


「ま、でも、咲月を取られる心配はなくて良かった」

渉は咲月の頭をポンと叩いた。

咲月は恥ずかしくて黙った。

「俺もその人見たい。今日、遊びに行っていい?」

「…あー…。いいけど…。嫌なヤツだよ?」「うん。全然いいよ」

「わかった」

「じゃ、放課後ね」


山野家では、咲月と渉が朝陽の帰りを待っていた。

母は仕事でいないので、今は二人きりでリビングのソファに座っている。


「何時くらいに帰ってくるんだろうね」

渉が言った。

「そういえば…。4時半には帰って来るんじゃない?」

「そっか…」

渉はそう言うと、咲月の手を握った。

「ここ来るの久しぶり」

「そうだね」

「咲月、こっち見て」

咲月は渉の顔を見た。

渉の手が咲月の頬を触る。






「…入っていい?」

「「わっ!!!」」

咲月と渉はソファの上で飛び跳ねた。

朝陽がリビングの入口に立っていた。

「…そういうの自分の部屋でやったら?」

咲月も渉も小さくなった。

「碧斗は?」

「友達と公園行ってると思う…」

咲月はソファから立ち上がった。

「なんだ。遊ぼうと思ってたのに」

「同級生かっ」

咲月はツッコんだ。 

渉は、一昨日会ったばかりの朝陽と気軽に話している咲月を見て、少しモヤッとした。

ただ、咲月の話通り、イケメンではなかった。

ただ、渉の望むようなブサイクでもなかった。

(…ん?見ようによっては…、整ってる?)渉はついつい朝陽の顔をジッと見てしまっていた。

「…見すぎ」

朝陽は渉に言った。

「あ、すいません」

渉はパッと目をそらした。

「…じゃ、ごゆっくり」

(同居3日目のくせに…)

咲月も渉もそう思って、朝陽を見た。

朝陽はその目線に気がついた。

「…咲月、顔に出てるって」

朝陽はククッと笑った。

「彼氏さんも」

そう言った朝陽は、渉には笑わなかった。

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