バカ

昨日の夕方、朝陽は両親とともに山野家を訪れた。

引っ越し作業を早急に終え、朝陽の両親は朝陽を山野家に残し帰って行った。


今日は土曜日。

咲月がいつもより遅く起きると、朝陽と碧斗がリビングの床で神経衰弱をして遊んでいた。


「…おはよ」

咲月はおそるおそる声をかけた。

「おはよー」

いつもそっけない碧斗が明るく挨拶をした。

「おはよ。咲月」

朝陽はそう言うと、また碧斗と遊びだした。

朝陽はもうここにいるのが当たり前かのように、馴染んでいた。


「碧斗、やるな~」

「俺、記憶力いいの」

碧斗は次々にペアのカードを探し出した。

「俺、もう無理じゃん」

朝陽は床に、ゴロンと寝転がった。

「朝陽の方が子供だな」

碧斗はカードをすべて取りきって言った。


「ねぇ、次は咲月もやろ」

朝陽が声をかけた。

「え…」

「咲月は記憶力ないから無理だよ」

碧斗が毒舌をはいた。

「うっ…、酷い…。確かに無いけど…」

「だろ?」


「…姉弟、仲いいね」

「は?何処が?!」

碧斗はムキになって否定した。

朝陽はそれが可愛くて笑った。


「あ、朝陽…は兄弟いないの?」

咲月はドキドキしながら初めて朝陽を呼び捨てで呼んだ。

朝陽はそれに気が付いて、ニコッと笑った。

「いないよ」

「そうなんだ」

「俺、子供ができない夫婦に引き取られた養子だから」

「へぇ」

咲月はそう答えると床に散らばっているトランプを拾い始めた。

朝陽は、しゃがんで作業している咲月の横顔を見ていた。

「…へぇって?」

朝陽が不思議そうに咲月を見た。

「え?」

(私、なんか嫌な言い方しちゃったかな…)

咲月が不安になっていると、朝陽が笑った。

咲月はキョトンとしていた。

「俺、養子なの」

「…さっき聞いたよ」

「感想は?」

「え…?」

「同情とかしないの?」

「え?」

(こういう場合、同情したほうがいいの…?)

「俺を可愛そうな目で見ないんだね」

「かわいそうだと思うこと…、されたの?」

「あははっ。されてないよ」

咲月は、わけがわからない上に大笑いされて、イラッとした。


「普通の親子と同じように、反抗期してるよ」

「反抗期なんだ」

「そう。これも、家出みたいなもんだから」

「へぇ」


「…へぇ?」

朝陽はニヤニヤして言った。

「…さっきから何?」

咲月は不安な気持ちで朝陽を見た。

「何でも受け入れるなぁって」

「へ?」

「俺、家出したの」

「へぇ」

「俺、学校で喧嘩沙汰になってさ」

「へぇ」

「で、家追い出されたの」

「へぇ。大丈夫?」

「…。…嘘ついてるのが後ろめたくなるような素直さだな…」

「…嘘なの?」

「うん」

「どこが?」

「全部」

咲月は朝陽の肩をグーで叩いた。

「ハハッ。養子なのは本当だよ」

咲月は引き続き朝陽を睨んだ。

「咲月って、碧斗が言ってたとおりバカだな」

「ちょっと。碧斗は記憶力がないって言ってただけ。バカって言ってないっ」

「そう?」

「そうだよ。バカじゃないもん」

プリプリしている咲月を見て、朝日はまた大笑いした。

咲月はムカついてもう一度朝陽の肩を強く叩いた。

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