ずっと前からわかってた

Nobuyuki

出会い 急に一緒になんて住めない!

山野咲月(14歳)はソファで、彼氏とLINEをしていた。

キッチンでは母が料理を、弟の碧斗(11歳)はリビングでゲームをしている。

そこに父が仕事から帰ってきた。



「急だけど…、友人の子を預かりたいと思ってる」

皆で夕食を食べている時に放った父の言葉に、母も碧斗もそして咲月も驚きのあまり言葉を失った。


「隠し子…」

母は、顔面蒼白で言った。

「違う違う!安川の子供!」

「あ、安川さん」

母はホッとしたように言った。

「安川の海外勤務が急に決まったらしくてさ」

「そうなんだ」

「息子の朝陽くんがね、9月の新学期まではこっちの高校に通いたいって聞かないらしくて…。数ヶ月だし、うちも部屋余ってるし」

「えー…。急に知らない人と一緒に住めないよ…。しかも男子…」

咲月は明らかに嫌そうな顔をした。

「まぁ、期間限定だから。それに、朝陽君いい子だよ」

(それにしても…)

咲月は不安でいっぱいだった。



咲月は彼氏の渉と一緒に下校していた。

「あぁ…。帰りたくない…」

咲月が言っているのは色っぽい意味ではない。

「今日だっけ?お父さんの友達の子供が来るって…」

「うん…」

「咲月、人見知りだしね」

「そうなんだよ…」

「いい人だといいね」

「…本当にそう思ってる?」

咲月は渉の顔をのぞき込んだ。

「…思ってないけど…」

渉は拗ねたように言った。

「だよね」

「俺は…。そいつが、ちょっとブサイクで、人畜無害なやつならいいと思ってる」

「ふふっ。そうだね」

「おとなしいお洒落イケメンが一番嫌だね」

「よくわからないけど」

「少女漫画で一番モテるやつ」

「あぁ、そういうのならいいな」

渉は咲月の頭をポカッと叩いた。

「痛っ。ごめんて…」

「…今日、俺も一緒に会う?」

「いや、その辺をいじってくるような嫌なやつだったら困るから…。今日は私一人で」

「わかった…」

「…心配?」

「心配」

「そっか」

「そっかじゃねーよ!」

渉は咲月の肩を叩いた。

「あははっ。後でLINEするよ」

「ん」


そうしてる間に、二人がいつも別かれる場所に来た。

「じゃ、頑張って」

「うん。またね」

お互い手を振って別れた。




「彼氏?」

声をかけてきたのは、近くの高校の制服を着た男子だった。

「……」

咲月の体がこわばった。

「結構モテるんだね」

「…あの…。安川…朝陽さん?」

「そうそう」

(私の事たいして確認もせずに、よくこんな堂々と話しかけられるな… )

咲月は安川朝陽をジロジロ見ていたが、朝陽はそれを気にする事もなく喋り続けた。


「名前、さつき?だったよね?」

「はい…。なんで私が山野咲月だってわかったんですか…?」

「とりあえず敬語やめよ。前もって写真くらい見てるよ。顔見たらすぐわかった。

ね、" さつき "ってどんな字?ひらがな?」

朝陽はペラペラと話した。

「" さ " は、花が咲くとかの咲で、" つき "は夜空にある月…です」

敬語をやめようと言われ、そうしようかと悩んだすえ、やはり敬語で答えた。

「へぇ。" あおと " は?」

「弟は、…" あお " は…、難しい碧…?」

「難しい" あお " ?」

「" と " は北斗七星の斗…」

「難しい " あお " って?」

「王に白に石の…」

「ふ~ん。わかんないや」 

朝陽は笑った。


朝陽は、見た目はいわゆる塩顔の部類だ。

背が高く肌が白い、見た目だけで言えば繊細なイメージだ。

だが、性格は人見知りとは無縁の明るくひょうひょうとした人だと、咲月は思った。


「あ、俺はね。朝昼晩の朝に 、" ひ " は、太陽の陽で、朝陽」

「へぇ」

「呼び捨てでいいから」

「え…」

朝陽は咲月を見た。

「呼び捨てね」

「う…ん」

「呼んでみ?」

朝陽は咲月をからかうように言った。

「…うー…。嫌だ…」

「あははっ。呼び捨てね」

「えー…」

朝陽はクスクス笑った。


家に着き、咲月は鍵を開けた。

「じゃぁね」

咲月の後ろから、朝陽が言った。

「えっ?今日、引っ越してくる日じゃなかったっけ?」

「うん。だから、夕方に両親と来るから」(じゃ、わざわざ今、声をかけてこなくても良かったんじゃ…)

「…咲月ってさ、言葉飲み込むけど、全部顔に出るよね」

朝陽はククッと笑いながら去って行った。

(…なんか…、嫌なヤツかも…)

咲月は眉間にシワを寄せた。



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